みんなにありがとうを
「もう結構です。侍医頭殿。」
アンヌ王女の、大きくはないが、凛とした声が響いた。
「私は、マリーが勧める薬草を服用いたします。
私は、常に私に寄り添ってくれるマリーを信頼しています。
そもそも、そなたや担当医師は、私が発作で苦しんでいるとき、今まで何回診察に来てくれましたか? 治療方法について何回検討してくれたのですか? 私を励ます言葉を何回かけてくれましたか?
あなた方医師は人を相手にしているのではないのですか?
よもや、地位や名誉だけを相手にしているわけではありますまい。」
すべての人がアンヌ王女の発言に息を飲んだ。まさか引っ込み思案の王女が、ここまではっきりと自分の意見を言うとは、思ってもみなかったのである。
「それでよろしいですか?お母さま?」
アンヌの問いかけに、母である王妃は静かにしっかりとうなずいた。
兄であるアルベール王太子は、成長した妹の姿を感慨深げに見つめていた…。
「ありがとう。おかげ様でお薬の提案が通ったわ、本当にありがとう。」
マリーは侍女のサロン室で、下女の控室で、廊下で、庭園で、厨房で、洗濯場で、協力してくれた人たち一人一人にお礼を言ってまわった…。
特に、侍女仲間のクレアは夜遅くまで起きて資料をまとめ、清書をしてくれた。
ミリエルは、王立病院の病院長と細かい交渉をしてくれた。
マリー担当下女のキリルと、給仕係の下女のドリーは、下女たちから協力者を募ってくれた。
アンヌ王女は、マリーのことを信頼していると言ってくれた…。
たくさんの協力してくれる仲間がいる…。
自分はなんて幸せものなのだろう…と、マリーはその晩とても幸せな気持ちで眠りについた。
そして、クマルの葉は、アンヌ王女の症状に著効し、アンヌ王女が発作を起こすことはなくなった…。