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また変な呼び名が増えています?

 マリーは、ミリエルに答えた。 

「今ね、王女様の症状に効果があるかもしれない薬草について、調べているところなの。

でも、なかなか参考になる文献がなくて…。王宮図書館にある本は、だいたいチェックしたんだけど…。」


 「まあ、マリー、あなたって薬師みたいね。そういえば、庭園と温室で薬草を育てているって聞いたことがあるわ。本格的ねぇ~。ねえ、何かお肌にいい薬草が育ったらぜひ分けてね?」

と、調子よく言うミリエルに、

マリーは心ここにあらずという様子で「ええ、そうね…。」と返事をした。


「でも、ぜひ王女様のご病気を何とかして差し上げたいという気持ちはわかるわ。」

そう言うミリエルも、散歩の時間を通じて、アンヌ王女のやさしく素直な人柄に接し、アンヌのことが大好きになった一人だった。


「そうだ、マリー、王立病院に図書室があるのは知っている?医学や薬学関係の古い蔵書については、むしろ王宮図書館より充実しているって聞いたことがあるわ。もしかしたら、参考になる本があるかもしれないわよ?!」


「まあ、ミリエル、それは、ありがたい情報だわ!?

でも、よくそんなことを知っていたわね?」

マリーは驚いて言った。


「ふふっ、私の情報網を舐めないでいただきたいわっ!…な~んてね。

私のお父様は、医療と福祉関係担当の大臣でしょう?だからその関係の方々がときどき屋敷に来るのよ。それで、誰かがそんなことを言っていた気がするわ。」


「そうだったのね。ありがとう、早速今度のお休みのときにでも行ってみるわ。」

お礼を言うマリーだったが、


「ええ、そのときは私もご一緒してもよろしくってよ?」

と、ミリエルが言い出した。


「だって、一応、担当大臣の娘でしょう?何かの役に立つかもしれないし。その日の諸々の当番はクレアにお願いすればいいわ。

それでね、その後は、最近新しくできた大評判のカフェに行ってみない?そこのカヌレが絶品だって聞いたのよ!それで美味しかったら、クレアにもお土産に買ってあげましょうよ?! 気になっていたのよね~楽しみ~!!」

と、はしゃいだ様子で言うミリエルの勢いに押され、

〝…?何か目的が違うような…?まあ、いいか…、絶品カヌレ食べてみたいし…〟

と思ったマリーだった。



 王立病院の図書室訪問と、図書の閲覧許可は、カイルを通じ、アルベール王太子より申請してもらった。

 クレアは「文献探しなら、私の方が役に立つはずなのに…。」と、好きな専門分野ではないけれど、たくさんの書籍と出会える機会を逃し、肩を落としていた。


次の休みの日に、マリーとミリエルは二人で王立病院を訪れた。

アルベール王太子の指示で、ベテランの護衛騎士が1名付き添ってくれた。


そして、王太子を通じての申請というのが、効いたのか、マリーとミリエルは、丁重に院長室まで案内されることになった。

王立病院の院長は、温厚そうな落ち着いた印象の紳士だった。


「ようこそおいでくださいました。侍女様方。

当病院の図書を閲覧したいとか?王太子殿下よりご連絡をいただいております。」


「はい、病院長様。今回は、部外者に門戸を開いていただき誠にありがとうございます。」

マリーとミリエルは、王宮の侍女らしく、丁寧で優雅なお辞儀をした。


「いえいえ、貴女なら、いつでも歓迎いたしますよ。〝癒しのみ使い〟殿?」

と、院長はマリーに向かって言った。


「は??」マリーは、ちょっと間の抜けた顔を見せてしまった。


「おや、ご存じなかったのですね。ドラゴン襲撃事件のときに、あなたに声をかけられた怪我人や街の人たちは、あなたのことをそう呼んでいるのですよ。

もっとも、我々医者の間では、〝災害初動対応の異能者〟と言われていますけどね…?」

院長は、改めてマリーのことを興味深かそうに眺めた。



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