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新たなお仕事です

 「やはり、君は言霊を発する方が、体に負担をかけずに力を発揮できるようだね。」

 神官長は、まだ顔色が悪いマリーの様子を静かに観察しながら言った。


 カイルが水差しからグラスに水を汲み、マリーに手渡してくれた。

 マリーはコクリと喉を鳴らして一口それを飲み、そっとため息をついた。

 

〝今世でもやっぱり私は、直接的には人を癒すことができないのかしら?〟


 マリーは人を癒す力が少なく、いつまでも序列最下位の聖女だった頃のことを思い出し、悲しくなった。

 もちろん、今の時代においては、神殿にも森にも街にも、そのような強い力を持っている存在はいなくなっていたのだが、どうしてもマリーは自分の力不足に目がいってしまっていた。


〝いいえ、私は今世では、高級政務官か、高級女官になって、自分の力で活躍するって決めたんだから!〟

マリーは膝に上に置いた自分の拳をきゅっと握った。


 〝それに、神官長様が見出してくれた〝言霊の力〟で、お役に立てるかもしれないもの!〟と、マリーは心の中で自分に言い聞かせていた。


 そんなマリーの様子を、すべてわかっているかのように、神官長は見つめて言った。

「まあ、どのような方法であれ、聖なる癒しの力を出すことができるというのは、すごいことだと私は思う。

私は、癒しの力を出して水晶玉に込めることができないから…。」


「え?そうなのですか?」

神官長は神秘的な雰囲気をまとわせていて、紫色の瞳からは、いつも何とも言えない光が放たれているようにマリーには感じられていたので、意外に思った。

 光を放つような瞳は、過去世においても、一握りの高位の神官や聖女だけがもつ特徴であり、それが神様により近い、神力をもつ方たちなのだろうと、マリーは思っていたのだった。


 「私は、〝見る力〟には優れている。それから、結界の形成については修行により習熟した。」

 微笑みを浮かべながら、淡々と語る神官長を見て、マリーは過去世で聖養母が遺してくれた言葉を思い返していた…


『ただ感謝の思いを胸に、民のために自分ができることを、心を込めて行っていけばよい…』

 

 神官長の淡々として軽やかな、静かな佇まいには、人と比較していることなど何一つない、ただそこには、神との交流があるだけのように感じられた。


 〝私が今できることを、精一杯やるだけでいいのね、きっと…。〟

マリーは滲んできた涙をそっとぬぐった。



「さて、ここからが君に依頼したいことだ…。」

マリーの顔色や表情が落ち着くのを待って、神官長がまた口を開いた。


カイルは、マリーが落ち着いたのを確認した後も、マリーを守るかのように、すぐ後ろに立っていた。


「先ほど君も察してくれたように、こららの大きな水晶玉は非常に貴重なもので、軽々しく神殿の外に出せるものではない。その存在が知られれば、大きな争いの元となるようなものだからだ。現在、この水晶玉の力の使用についての判断は、実験的使用も含め、私に一任されている。」


「そこで…」

神官長は、乳児の拳大ほどの大きさの透明な水晶玉を3つ取り出した。

「これは、大きな水晶玉と一緒に発見された小さい水晶玉の一部だ。これらの小さいものにも、聖なる癒しの力が込められることがわかっている。しかし溜められる力の容量はずっと小さいものだが…。

まずはこの3つを君に託したい。

君の傍に置いて、日々言霊の力を込めてもらい、できれば水晶玉の観察記録を定期的につけて私に報告してもらいたい。」


「もちろん、私でよろしければ、やらせていただきます、神官長様。」

マリーは自分のできることはと、気持ちを新たにしていたので、明るく力強く返事をした。


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