どこが境界線になるのかしら?
お茶会にアンヌ王女が参加することになったので、結局は王女のお茶の時間に、庭園の東屋でお茶会が開かれることになった。
王女が午後前半の講義を受けている間にマリーはお茶会の準備を東屋でしていた。
給仕係の下女のドリーがワゴンで持ってきた、ティーセットや色とりどりの小ぶりのケーキやスコーン、サンドイッチなどをマリーは手際よく並べていった。
あの日ニガニガの実をティーポットの中へ入れたドリーは、ミリエルの強圧的な指示に従っただけとして、厳重注意だけで済んでいた。普段からの真面目な勤務態度も考慮され、内々に決まった処分のようだった。
そこへミリエルとクレアが東屋へ歩いてきた。
ミリエルは、余程気が進まないのか、嫌そうな顔をして、足取りも重かった。
「ミリエルさん、クレアさん、よく来てくれたわね。うれしいわ。」
マリーが二人に声をかけた。
「王女様がご参加されるのだもの、来ないわけにいかないわよ!」
と、ミリエルが返した。
「ええ、そうですよね。」
とマリーは微笑みながら言った。
「マリーさん、私もとても楽しみにしていました。
こんな会は今までにありませんでしたから。」
と、クレアも言った。
ミリエルの視線が下女のドリーの姿を捉え、ミリエルの顔が気まずそうに少し歪んだ。
けれどもミリエルは一瞬唇をきゅっと結んでからドリーに声をかけた。
「ド、ドリー? この間は悪かったわね。
私の浅はかな行いに、あなたを巻き込んでしまったわ。」
ドリーは一瞬ぽかんとした顔をしたが、慌てて
「とんでもございません。」と言って頭を下げた。
「さあ、準備を続けましょう。皆さん、お手伝いをお願いいたします。」
とマリーが声をかけ、テーブルの上がきれいに整えられた頃、
アンヌ王女が侍女長と護衛騎士2名をつれてその場に現れた。
「アンヌ王女様、ようこそお越しくださいました。」
マリーはアンヌに改めて挨拶をしたが、見るとアンヌの顔が少しこわばっていた。
アンヌはもともと侍女長が苦手な様子だった。
侍女長もお茶会に参加するとは聞いていなかかったのに、王女と共にこの場に現れたということは、おそらく侍女長が直前にお茶会のことを聞きつけて、なんだかんだ言ってついてきたのだろうとマリーは思った。
「侍女長様、せっかくお越しいただき恐縮ではございますが、
今回の会は、王女殿下を交え、若い者だけで親睦を温めようと思い計画したものでございます。申し訳ございませんが、ご遠慮いただけませんでしょうか?」
マリーはあまり遠慮しているとは言えない、はっきりした口調で侍女長に言った。
「なっ!? 若い者だけでって!?」
と、侍女長が大きな声を出してしまった、その後ろで「プッ」と護衛騎士の若い方の一人が噴出した。
すぐさまもう一人の中年の護衛騎士に小突かれる。
「では、私にはまだ参加資格はあるのかな?」
そこへ御年23歳のアルベール王太子が現れた。
傍らにカイルも伴っていた。カイルの今日の勤務は王太子付きであったようだ。
「お兄さま。」
アンヌ王女が花がほころぶような笑顔を見せた。
マリーはアンヌの笑顔を見て、胸をキュンとさせながら言った。
「もちろん、参加資格はございますわ、王太子殿下」
アルベールは侍女長の方に向き直り穏やかに言った。
「侍女長すまない。今回は気安い、くだけた会のようだ。
未熟なものたちに、リラックスする機会を与えてくれないか?」
「……かしこまりました。それでは御前を失礼させていただきます。」
侍女長はグッと顎を引き、ドレスの裾をひるがえしその場から離れていった。