お茶会をしましょう
翌日マリーはカイルが護衛任務を終え、退出するところを見つけて声をかけた。
「カイル様、昨日はありがとうございました。」
「いえ、私は護衛騎士としての務めを果たしただけです。」
さらっと答えるカイルに、〝やっぱり、この方は偉そうな態度はとらない、誠実な方みたい…。〟とマリーは思った。
「いいえ、カイル様がすぐに収拾してくださり、本当に助かりましたわ。」
「それにしても、どうしてミリエル様を厳重注意だけに留めるようにしてくださったのですか?」
マリーはカイルに聞いた。
「ミリエル嬢は、王女様がお茶を飲む前にと、細工したお茶に自分が先に口をつけていました。悪質性はないと判断したのです。それに…、」
「それに?」マリーがカイルの顔を見ながら、小首をかしげた。
「君だったら、そうするだろうと思ったんだ…。」
そう言いながら、やわらかく輝くカイルの茶色の瞳を見て、
〝この人の目はやっぱり懐かしいような感じがする…〟とマリーは思った。
アンヌ王女は、マリーに対して次第に心を開いていった。
〝マリーは、自分の味方だ〟と実感できるようになってきたかもしれなかった。
騒動があった日から8日後、マリーはアンヌ王女に言った。
「王女様、大変恐縮なのですが、明日の夕方、御前を退いた後、庭園の東屋を使わせていただけませんでしょうか?」
「もちろん、よろしいですよ…。
でも、何をするの?」
話す声はまだ小さいアンヌだった。
「ミリエルさんとクレアさんとご一緒に、仲直りのお茶会をするのですわ!」
マリーは楽しそうに言った。
マリーは、厳重注意の上、自室での1週間の謹慎処分となったミリエルの様子をときどき見に行って、彼女の体調に変化がないかを確認していた。
そして、謹慎期間が明けた日にミリエルに、マリーは〝仲直りのお茶会〟の提案をしていたのだった。
(マリーの提案を聞いて、ミリエルは顔をしかめた。
「え~?なんで?」
そして、その露骨に嫌そうなミリエルの返事にマリーはめげることはなかった。
「あらだって、ミリエルさんは私に嫌な思いをさせようとしたのでしょう?
私もそれを聞いたら、良い気持ちはしませんわ。
だから、仲直りするんです。人間は飲んだり食べたりしながら楽しくおしゃべりすると、仲良くなれるものなのです!」
とマリーはミリエルに言った。)
お茶会の話を聞き、アンヌは思わずつぶやいてしまった。
「いいなぁ…私も行きたい…」
そのつぶやきを耳にしたマリーの顔がぱっと輝いた。
「それでは、王女様もご一緒にお茶会をしましょう!
人数が多い方がきっと楽しいですわ。」
マリーの言葉にアンヌは驚いた。
「え?私が行っても、いい…の?」
「もちろんですわ!」
マリーは力強くうなずいた。