脈をとることは基本です
「毒が、毒が入っていますわ!マリーさん、あなたね!?」
ミリエルの大きな声に、何事か!?と扉の外に控えていたカイルと護衛騎士がもう一人飛び込んできた。
「騎士様、お茶に毒が!きっとマリーですわっ。」
ミリエルが言い終わらないうちに、カイルはソファに座っているアンヌ王女の前に守るようにすっと立った。
そして、すぐに王女の様子を確認した後、
「皆その場を動かないように!」と鋭く言った。
マリーは、ミリエルのすぐ近くの斜め前に立っていて、ミリエルの片手の手首を手に取り、ミリエルの顔を覗き込んでいた。
マリーの得意技の〝速攻脈とり〟である。
「なっ、マリー。何をするの!?」
ミリエルがとっさにマリーの手を振り払おうとしても、それは叶わなかった。
「ミリエルさん、どれくらいお茶を飲みましたか?」
「え?!一口だけよ。」
「カイル様、王女様はまだ何も口にしていませんでした。
ミリエルさん1名のみが、毒物が混入の可能性があるお茶を少量摂取した、という状況です。」
マリーがミリエルの観察を続けながら、カイルに冷静な声で状況の報告をした。
「瞳孔の大きさは変化なし。その他神経学的な所見もなし…。」
「ミリエルさん、即効性の毒ではなさそうですよ。
『大丈夫ですよ。』」
マリーはミリエルにやさしく言った。
「はあ、ありがとうございます…。って、そうじゃなくて。
マリー!あなたが毒をいれたんでしょ!!」
ミリエルが力いっぱい、マリーを人差し指で指さした。
ミリエルは、決まった!と思い、次の瞬間、マリーが真っ青になりブルブル震え出すだろうと期待をしていた。
しかし、ミリエルが認識できたのは、
「はあ?」と言いながら、嫌いな舞台役者の名前を聞かれたときのような顔をして小首をかしげているマリーの姿だった。
「毒ね…」
カイルは、ミリエルが手にしていたティーカップの中に残ったお茶の色を確認し、軽くにおいをかいだ。そして、ポケットから手袋を取り出し、手にはめ、慎重にティーポットの蓋を開けた。
「マリー嬢、これを見てくれないか?」
カイルがマリーに声をかけた。
マリーはティーポットの中を覗き込んだ。いつものお茶の葉以外に直径7mmほどの茶色い実が入っていた。
「まあ珍しい!これはニガニガの実と言って、虫下しのときに潰して煎じて服用するものです。なぜこれが実のままこんなところに??」
とマリーは言った。
「でも、よかったわ、ミリエルさん、これで解毒の必要はなさそうですわね。
この薬は寄生虫がいない人には、苦いだけの薬で、単独では副作用はほとんどありませんし。」
マリーが明るい調子で、ミリエルに言った。
「ええ、ありがとう…
って、だから!あなたがポットに混入させてのではないの!?
と、さっきから言っているのよっ!!」
ミリエルが顔を真っ赤にして、自慢の金髪の髪を揺らしながら言った。
カイルはワゴンの傍らで、下女のお仕着せを着ている少女が青い顔をして顔を伏せている様子に気がついた。きれいな白いエプロンをしていることから、今までお茶の給仕をしていたことがうかがわれた。
「君はさっきティーポットに手を触れたかい?」
カイルは少女に話しかけた。




