研究とは何ですか?
「それから、もう一つ、これは提案というよりは、私からの依頼になるのだが…。」
微笑みを浮かべていたアルベール王太子の表情が少し引き締まったものになった。
「10日に1度、王宮へ伺候する神官長の研究に協力してもらいたい。これは神官長からの強い要望でもある。
神官長は君が持つ〝力〟について、実験と検証をしたいとのことだ。」
「まあ、私は人体実験でも受けることになるのでしょうか?」
とマリーはまたアルベールに強い視線を向け聞いた。
「まあ、そう言うな。神官長は君に危害が加わるようなことはしないだろうし、私がさせない。おそらく君の〝力〟についての研究は国民のためのものになるだろうから、ぜひお願いする。」
アルベールが真剣味を帯びたときの声は、格好いいな…とマリーは思いながらも答えた。
「まあよろしいでしょう。国民のためと言われれば、私ができる範囲のことで協力することにやぶさかではありません。
ただし、その分の報酬をいただきたいのです、アルベール王太子殿下。」
「ほう?何が望だ?君や君の家族は、金銭面や物的な欲は少ない印象があるがな?
君の父親を大臣職か貴族院議長にでも推挙するか?」
アルベールは口の端を上げ、マリーに聞いた。
「そのような大層なものではございません。
私が薬草を育てるためのスペースを、庭園のはずれと温室内にいただきたいのです。
それから、私が珍しい薬草や植物の種や苗を取り寄せ、王宮内で栽培する許可をください。」
マリーは真っ直ぐにアルベールを見つめて言った。
「いいだろう。お前がブランシェ家の屋敷内で薬草栽培を趣味にしていたことは聞いていたからな。好きにするといい…。」
「はい、好きにさせていただきますね!」
満面の笑みを浮かべたマリーのことを、アンヌ王女はじっと見つめていた。
〝マリーさんは、どうしてこんなに簡単に自分の希望を言うことができるのかしら?それもとっても自然に…。〟
アンヌは不思議に思った。
アルベールが部屋の主であるアンヌに言った。
「という訳で、マリー嬢はアンヌの侍女として以外にも動くことがあることを承知しておいてくれ。マリー嬢の〝力〟というのは詳しく話せないので申し訳ないが、ここだけの話にしておいてほしい。危ないものではないから心配はいらない。」
「かしこまりました。」とアンヌは答えた。
14歳という年齢ではあるが、アンヌは王女として、〝見なかったこと、聞かなかったことにしなければならないことがある、と知っていた。
「薬草栽培を私も手伝いましょうか?」
にこにこしながら、カイルがマリーに言った。
「いえ、騎士様にそのようなことはさせられませんわ。」
というマリーの言葉に、カイルはとても残念そうな表情を浮かべた。