新しいお友達
「あなたへの説明はこれで終わりです。それで、あなたの方からは何かございますかしら?」
侍女長に言われ、マリーは、やけにあっさりとした説明(?)だったなぁ~と思いながらも、にっこりと愛想よく返事をした。
「はい、大丈夫だと思います。ありがとうございます。」
「え?本当に?何もないのかしら?
おうちの方からも何もないのかしら?何か託されたとか…?」
侍女長は怪訝な顔をして、更に聞いてきた。
「??はい、ございませんけど…。
ご心配いただきありがとうございます。
家族からは〝上の方々や先輩方のことをよく聞くように〟と、しっかり言われております。王宮勤めについては何の心配もしていないようです。伝言も託されておりません。」
「そ、そう…」
侍女長はそう言って眉をひそめ、口元を扇で覆った。
「まったく…本当にどういう礼儀なのかしら?」
扇の内側で侍女長が小さくつぶやいた言葉は、マリーには届かなかった。
〝??…〟
私は、笑顔がかわいい従順なよい子!と、自分に言い聞かせながら、マリーは侍女長の前で、自分の口角を上げようと奮闘していた。
侍女長はデスクにあった呼び鈴をチリンと鳴らした。
すぐにお仕着せを着た、髪の毛をきっちりとお団子にまとめた12歳くらいの少女が姿を見せた。
「この子はあなた付きの下女になる子よ。
お前、この人を案内しておあげ。」
「え?! あ、はい。」少女が深く頭を下げた。
「では、明日からせいぜいがんばりなさい。下がっていいわ。」
「侍女長様、明日からどうぞよろしくお願い申し上げます。」
失礼いたします。」マリーは優雅にお辞儀をした後、少女と一緒に部屋を退出した。
廊下に出ると、すぐに少女がマリーに声かけてきた。
「あの!お聞きしてもよろしいですか?
侍女長様と何かあったのでしょうか?
新しい方がいらっしゃったとき、いつもは侍女長様自ら主だった場所をご案内されるのですが?
それから、ご案内の後には、〝侍女の心得50箇条〟のお話をいつも3時間はなさっているのですが?」
「あらそうなの?
きっと侍女長様は今日はお忙しいのではないのかしら?
心得お話が50箇条のお話がなくて、3時間得したわね。
とってもラッキーだったわ。」
マリーは明るく少女に返した。
いいのだろうか…?と、少女は不安な表情を浮かべた。
「申し遅れました。私はキリルと申します。
お嬢様のお世話を担当させていただきます。」
キリルが改めて、マリーに頭を下げた。
「まあ、キリルは私という侍女の侍女になるのね。
どうぞよろしくお願いします。」
マリーもキリルに頭を下げると、キリルは慌てて言った。
「お嬢さま!? おやめください。
わたくしはただの下働きをする下女でございます…。」
王城では約100人もの下女が掃除や洗濯、水汲みや物品の運搬などの雑用を担っていた。
「あら、侍女も下女もお仕えする方の生活を支えるという意味では同じでしょう?」
マリーは優しくキリルの手を取り、両手でふんわりと握った。
「お、お嬢さま…」
貴族から優しく手を握られたことなど一度もないキリルは、頬を赤くして、肩を緊張させた。
「マリーって呼んで。もしよかったら、お友達になってほしいの、キリル。」
マリーは困惑するキリルの手をなかなか離さなかった。