その人がフードを脱いで
「神官長どうだ?」
そのアルベールの声を向けられたのは、いつのまにかソファの近くに立っていた灰色のマントを身につけていた人だった。
〝あれ?こんな人いた?〟
〝いえ、最初からいたかも…?〟
この方存在感を意図的に薄くしていた?
本能的な恐怖を覚え、わずかにマリーのみぞおちのあたりが冷たくなった。
その人がゆっくりとマントのフードを取ると…
肩の長さの白銀の髪がさらりと流れてきた。
アメジストのような瞳をしたその人は、30~40歳代に見える、彫像と見まごうばかりに整った、中性的な顔立ちをしていた。
マリーは、神官長と呼ばれたその男性の神秘的な佇まいに息をのんだ…。
「はい、王太子殿下。殿下のご推察通りでした。」
容姿と同じく中性的な声で神官長はさらに言葉を続けた。
「この場で話してもよろしいですか?」
アルベールは、ブランシェ家の執事に退室を命じた。
執事は退室する前にと、部屋の外に待機していた侍女を呼び、お茶を入れ、茶菓子をテーブルに並べさせた。
カイルは騎士然とした、きりりとした表情に戻り、改めてソファに座ったアルベールの後ろに控えた。
そして、マリーの目は、テーブルに並べられたお茶菓子に釘付けになった。
〝まあぁ、これは私が半年に一度しか口にできない、高級マロングラッセじゃないの?〟この焼き菓子も凝っていてとってもおいしそう…さすが王太子殿下の接待用ね。ご相伴ラッキー~〟
先ほど少し冷たくなったマリーのみぞおちが温かくなった。
そして執事は侍女と共に退席する前に、眉間しわをいつもの2倍深くしながら、真剣な、でも不安そうな、なんとも言えない表情で、椅子に座ったマリーに視線をなげた。
マリーはそれに気づき、〝任せて!心配しないで!〟との思いで、執事を見返し、しっかりとした笑顔で、右手でOKサインを見せてあげた。
しかし、それを見た執事の顔は、すぐにまた泣きそうな顔に戻ってしまった…。
応接室には、マリーとアルベール王太子、お付きの騎士のカイルと神官長の4人だけになった。
「さて、神官長、見解を聞かせてもらおう。」
アルベールが話を促した。
「結論から言うと、こちらのマリー様は〝言霊の聖なる力〟を有しています。
その力は常時発動しているものではなく、〝大丈夫〟や〝良くなるから〟といった相手を気遣う言葉に込められているようです。
それらの言葉が発語されると、わずかですが金色の光の粒子が言われた相手を包む現象が、私の眼に見えました。」
「では、その光の粒子は相手にどんな影響を与えると考える?」
ぽかんとするマリーを置き去りにして、アルベールが質問した。