そして、ブラックアウトです
そこへ、身なりのよい青年が、護衛か御者らしき中年の男性と共に広場へと走り込んできた。
「マリー!マリー!」
マリーの名を呼びながら広場の中速足で移動していくのは、兄のルーカスだった。
「お兄様、ここよ!」
怪我人の傍らにいたマリーが声を上げた。
「マリー!こんなところにいたのか⁉」
ルーカスがマリーの元に駆け寄り抱きしめたとたん、
マリーの体が崩れ落ちた。
「マリー!どうしたんだ、マリー!」
次第に落ち着きかけていた救護所となっている広場に、ルーカスのただならぬ叫び声が響いた。マリーは意識を失っていた。
すかさず近くにいたベテランの医師が膝立ちになったルーカスの腕に抱えられたマリーの状態を確認する。
「大丈夫ですよ。気を失っているだけです。おそらくご家族の顔を見て、一気に緊張が解けたのでしょう…。」
「よかった…。」
医師の言葉を聞き、ルーカスは深い安堵の息を吐いた。
「失礼する。君はブランシェ伯爵家のルーカスではないか?」
ルーカスがマリーを抱きかかえながら声のする方へ顔を見けると、そこには騎士姿の金髪の青年が立っていた。
「お、王太子殿下…。」
「しっ、声を抑えて、こういった場では、一応、騎士のアルで通している。
いらぬ混乱や気遣いを招きたくはないからな…」
「左様でございましたか…。」
「ところでこのご令嬢は、君の妹なのか?」
「はい、マリーと申します。
この先のカフェでお茶を飲んでいたのですが、急にいなくなってしまったので、探し回っていたのです。このドラゴン襲来のさ中、どこにいったのかと探す側としても生きた心地がしませんでした…」
「はははは、生きた心地か?なんだかおかしいな…。実はな、妹御はそれこそ私でも生きた心地がしないような場で、救助活動に貢献してくれていたのだ。それはもう私より大活躍していたぞ。服はその過程で傷んだようだから、私がマントを貸したのだ。」
「大活躍だなんて…ご、ご冗談を。でん…アル様。」
「いずれにせよ。妹後とブランシェ伯爵家には聞きたいことが山のようにある…。いずれしっかりと話を聞かせてほしい、いいな、ルーカス。」
「はい、かしこまりました。」
混乱しながらも、そうとしか返事ができないルーカスだった。
「では、御前を失礼させていただきます…。」
ルーカスとマリーの長い長い街歩きは、やっと終わりを告げようとしていた…。