よみがえった記憶
医師たちが怪我人の元にすばやく散っていく。
広場の様子全体に目線を走らせ、アルの元にカイルが近づくとまたも女性はいなくなっていた。
「アル様、御身に大事はございませんか?」
「ああ、カイルもちろんだ。」
「はっ。」カイルが目礼をするとアルが言った。
「あの女性こそ、あれだけ動いて大丈夫なのか?彼女に限界はないのか?」
アルの目線の先をカイルも見ると、白いマントをローブのようにまとった女性は、医師や薬師の邪魔にならないように、怪我人たちの手を握りながら声をかけ続けていた。
「大丈夫ですよ。」「すぐによくなりますよ。」
「お大切になさってくださいね。」
そのやさしげな透き通る声は、その場に染み渡るようだった。
カイルの頭に突然石で殴られたような痛みが走った。
突然ここではない映像が目の前に広がる…
「大丈夫ですよ。」「お大切になさってくださいね。」
白い柱が並んだ広々とした空間の中、白く清らかな衣を身にまとった15,16歳くらいの少女の声が響く…
〝あれは……〟
「聖女さま。」
自分ではない自分が少女に声をかけた。
「なあに?」
少女が振り返り、その緑の色の澄んだ瞳がやわらかく親しげにきらめいた。
その刹那、映像の渦がカイルの頭の中に流れ込んできた。
あれは、僕の、たった一人の大切な人…
守れなかった…
何にかえても守りたかったのに…
「おいっ!カイルどうした?大丈夫かっ⁉」
カイルが我に返るとアルが両肩を掴んで揺さぶっていた。
「ああ、アル様、申し訳ございません…」
自分の両頬がいつの間にか濡れているのに驚き、カイルは慌てて自分の袖で涙らしき透明な液体をぬぐった…。




