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最初で最後の宴

20XX年3月22日


雪が解け、春の匂いを感じる季節だ。


春と言えば色々新しく始まる季節でもある。

ただ、一般のレールに乗っている人に限る。



「ちょっと悟ー」


自分の部屋で出かける準備をしているところで

下の階に居る母親から呼ばれる。


「あなた、今日大学の友達と飲み会でしょ。何時に帰ってくるの?」


大学生活の最後の飲み会の準備をしているのは

この俺、上谷カミヤ サトルだ。


「わかんない!遅くなるなら連絡するから!」


ただ、正直付き合いと惰性で行くだけの飲み会。


面倒くさいし、行きたくないけど断れない。


断りたいけど断れない。

日本人の大多数がそうらしい。


俺もその大多数の中の一人。


携帯がこういう時に鬱陶しく感じる。

連絡が来たら返さなきゃとなってしまうからだ。


「財布も持ったし、鍵も持ったし、携帯も持ったし。出るかな。」


階段を降り、靴を履いた。


「行ってきます。」


「行ってらっしゃい、飲み過ぎには気を付けるのよ。」


玄関まで送ってくれた母親に手を振りながら家を出た。


大学生活最後の飲み会と言うが、皆「知り合い〜友達」程度。

この俺、上谷 悟の生涯はとても薄っぺらい。


親友と呼べるやつも誰一人、学校生活において俺は作れなかった。

当たり障りなくしか勉強もしていなかった。

小学校、中学校、高校生も全部が成績も中の下〜中。


高校も留年にならない程度の勉強しかしてないし

大学も入れそうな所を選んだし、部活動もやっていなかった。


小学校の時だけ友達は沢山居たが

中学校に入ってから俺は「いじられキャラ」になってた。


根本的にいじられるタイプらしく、そこから度が過ぎる事が多くなり

一度だけスイッチが切れた時があった。

その際に友達はみんないなくなっていた。


だから、高校生、大学生になってからは無難に学校生活を送るために

ある程度の付き合いしかせず、ドライな性格だと思われている。


本当ははしゃぎたいし、バカ笑いしてる中で一緒に笑い合いたいと思ってた。


こんな過去を振り返りながら、ボヤっと今の飲み会には行きたくないなと思いながら歩いてると

目的地に到着した。今日は6人の男女で飲みに行く事になっている。


「おーい!悟!もうみんな店にいるから早く店に入ろうぜ!」


と、店の前で待ってくれていたちょっと女たらしの見た目がチャラい男



時田トキタ 和也カズヤ


恐らく、見た目的に自分の方が良いと思わせたいので

毎回俺を誘ってくるであろう奴だ。


「なんだ、お前オシャレあんまりしてこなかったのかよ!」


がっかりした様子で言われる。


「せっかく女の子も誘ったんだしさぁ、少しぐらいはおめかししろよ!」


と、意気揚々と語る和也。


「どうオシャレしていいか全く分からないんだよ。」


服なんて安い場所で買えればそれで良いと思ってしまうから

毎回パターン化されてるのである。


「お前は一生彼女出来ないだろうな~」


と笑いながら言われる。


「おっと!悟!あそこの席だ!」


「おーい、こっちこっち!」


また違う男の声がする。柄が悪い。ファッションセンスが独特な奴だ。


こいつは「本田ホンダ 紀一ノリカズ


皆からはノリと言う愛称で呼ばれているが、柄が悪いが意外と良い奴だという事で

皆から好感を持たれてるのであった。


予約していた席の方に向かうと男女4人が僕たちを待っている。



「早く飲みホスタートしようよぉ~!」



ギャルっぽい女の子。この子は「苅米カリゴメ 由美ユミ」だ。



「ねぇねぇ、レイちゃん写メ撮ろ~!」



「いいよー!由美ちゃん盛れるアプリで撮ってよね!夏樹ちゃんも取ろうよ」



レイちゃんと呼ばれるこの子は、「佐藤サトウ 冷夏レイカ」だ。


見た目は清楚系である。

この二人の見た目は正反対だが、性格はとても合うらしい。



「二人とも可愛いからなぁ、私あんまり一緒に撮りたくないな」



と、笑顔で言ってくるのは「安藤アンドウ 夏樹ナツキ」だ。



「はい撮るよ~」



カシャッと音が鳴り、女の子同士だけで盛れるアプリで撮影していた。



「俺らは写真一緒に撮らないのかよ!」



とノリが残念そうに言っている。



「ノリ、男は男同士で撮ろうぜ。な、悟も。」



と和也は若干悲壮感的に言った。


「お客様、飲み放題スタートでよろしいでしょうか?」


と店員が尋ねてきたので僕が答えた。


「今からスタートで大丈夫です。」



「では、今からスタートしますね。先にお飲み物をお伺いします。」


全員に飲み物を聞き、ビール4つに、カシスオレンジ1つ、緑ハイが1つ。


後は食べ物のオーダーを適当に頼んだ。


和也は夜遊び慣れてるせいか、居酒屋やキャバクラもよく行くので

注文などは基本任せる事にしてる。


「唐揚げと、枝豆、焼き鳥5本盛り合わせに、刺身5点盛り合わせ!これを2人前で~」


手慣れた感じで注文を進める和也。



「よーし、そしたらみんなの卒業祝いに乾杯!」


「かんぱーい!」


乾杯から数秒でビールを飲み干す和也とノリ。


僕はその隣で一口だけビールを飲んでいた。


「もう、卒業なんて4年間って長いようで意外と早かったね。」


冷夏は少し切なさそうに言う。


「皆、就職先は決まったんだもんね。どこ行くんだっけ?」


冷夏は僕の好みだけど、言う事は現実的な事が多いため

若干ずっと話してると息苦しくなる時がある。


大学で初めて話しかけてくれたのも冷夏だった。


講義でたまたま隣になっただけだった。


そこから冷夏と彼らの交流が始まった。


今、思えば些細な切っ掛けだったが、そこから4年間ずっと交流があった同い年だった。


「俺は加藤建築、建築関係の仕事就きたくてさー。

和也もちゃっかり商社に内定取れたんだもんな。」


「そうそう、やっぱり俺ってエリートだからバリバリの大手商社に居るべき存在だと思うんだよね。」


と、和也が言うと、そんなことないと言って笑う。


「悟はなんだっけ?」


一瞬空気が凍る。皆にあんまり言ってなかったから気になるんだろう。


「水産加工の...工場」


何とも言えない空気になり、笑いが生まれた。


「悟!まぁあんまり気落とすなよ。転職だって出来るしやってみないと分からないけど

あんまり人と喋るの上手くない悟ならお似合いだな!

彼女はずっと出来なさそうで可哀想だけどな~」


和也はきっと内心俺を見下している。

このように俺をネタにして皆にいつも笑いを取っている。

和也のこういう所は嫌いだ。


「悟くんも色々頑張ってるんだからそんな言い方しないのぉ~」


「由美は見た目によらず優しい奴だよな」


「夏樹ちゃんの方が優しいから皆私を好きになってもいいのよ」


たわいもない話で皆笑い合ってる。

俺だって、どうせ言ったらいじられて笑われる事が分かってた。


だから言いたくなかったんだ。違う話題に切り替えないと...。


「由美ちゃんはどこに就職するの?」


「私は地方の病院の受付事務~。だからあんたらとはここでバイバイすることになるよ。」


「あぁ、そうなんだ。冷夏は?」


「私はペットショップの店員さんかな。動物が好きだからね。夏樹ちゃんは確かえーっと...。」


「夏樹は、ファッションモデル一本で食べてくよ。」


「夏樹ちゃんは大学時代にスカウトされて何回か雑誌にも載ってたもんね!

羨ましいなぁ~!」


皆、やりたい事があってやりたい仕事に就職出来て羨ましかった。

僕は取り合えず入れそうな所だけを受けて取り合えず内定をもらっただけだから。


「お待たせしましたー!刺身盛り合わせですー。」


そんなこんなでワイワイ話し合ってるうちに時間が過ぎ

僕も多少は酔っぱらってしまったみたいだ。


これが皆と最後の飲める機会になるのかな、と思った。

大学が終われば社会人になり、散り散りになるだろうからそう考えれば少し切ないが

むしろ、集まる機会が減り、嫌いではない人達だが、少し安堵した自分が居た。


「じゃぁ、そろそろ帰るか。」


とノリが立ち上がり、それに同上し、皆が席を立つ。

沢山頼み過ぎたせいか、若干食べ物を残してしまっていた。


引き戸を開け、外に出る。

冷たい空気が頬を伝う。


「じゃぁ、二次会と行きますかー!」


と和也が言うと皆も同意した様子だった。

だけど、僕は疲れていたので帰る事にした。


「え、悟君は行かないの?悟君居ないなら私も一緒に帰ろうかな」


冷夏が気遣って、僕の顔を見る。


「親も帰り遅いと心配するから...僕はこれで帰るよ。」


「悟はマザコンだからいいんだって冷夏!俺らだけで行こうぜ」


後ろから大きな声で和也が冷夏を引き戻そうとする。


「レイちゃん~!最後なんだからもうちょっと遊ぼうよ~。

夏樹ちゃんも遠くに行っちゃうんだから!」


「あ…ごめん!今そっち戻るね!じゃぁね、悟君!また今度。」


「悟く~ん、気を付けて帰るんだよ~」と由美が手を振りながら言う。


夏樹もその隣で手を振っている。


こうして、僕の最後の大学生活最後の飲み会が終わった。

結構あっさりとした終わり方だった。


僕だけが二次会へ行かず、帰宅しているだけなんだけども...。


タクシー代が勿体ないかなと思い、歩きで帰る事にした。


今頃、皆二次会で楽しんでるのかなぁ...。


街頭とすれ違う車のライトに時々照らされながら

無心で歩き、家まで20分以上かかっただろうか。


ようやく自宅についた。


鍵を回し、家を入ろうとすると鍵がかかっていなかった。


「あれ、鍵締め忘れたのかな。」


扉を開けたら電気がついていなかった。


「ただいまー。...ってまだ10時なのにもう寝たのか母さんは。」


そう呟き、靴を脱ぎ二階へ上がる。

一階には両親の寝室がある。父親は単身赴任なので居ないので母親が一人で寝てる。


今日は早めに寝たのだろうか。僕も疲れたし、早く寝よう。


自室に帰ってくるとホッとして、ため息をついた。

ベットに倒れるように横になった。


もう来月から新社会人で、仕事が始まるし、残りの遊ぶ約束もないから後はゆっくり過ごそう。


歯磨いてないな。シャワーも浴びてない。


パジャマにも着替えてない。でも明日は何も用事がないから

明日起きたら全部やろう、めんどくさいからこのまま寝るか...


食べすぎた。あんなに脂っこいもの沢山食べなきゃよかった。


色々思考が巡る中

そのまま静かに目を瞑った。

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