語り合い
語りさんは今日も語らない。語らないのではなく、語れないのだろう。語りさんは、自分のことを語らない。僕のことや、他のことは語るのに。自分自身のことは決して語らない。それが語りさんの存在意義であり、存在証明だから。
「語りさん、語りさん今日も語らないのですか?」
ほら、今日も黙りとしている。
「では、語りさん、先日のテストの結果は良かったですか?」
テストの結果も語らない。
「僕は悪かったですよ」
語りさんは中々語りません。
「そうですか。勉強はしましたか? しないで受けると悪い結果になってしまいます。現時点のあなたです」
語りさんは自分自身のことではなくなると語ります。
「勉強はしたつもりですよ? まぁ勉強なんてどれぐらいしたらクリアなんて分かりませんけど、語りさんのラインはどれぐらいですか?」
また黙ってしまいました。これは、僕がいけないですね。
「語りさんは昨日の夕食は何でした? 僕はハンバーグでした」
「そうですか。美味しそうですね。誰が作ったのですか?」
やっぱり自分のことは語りません。
「無視ですか? 泣きますよ」
無表情で言ってきます。こう言う時はどういう対応をしたら良いのですか? 僕には、分かりません。
「無視はしていませんよ? 僕が作りました」
「そうですか。あなたが作ったのですか、料理はお上手で?」
「いえ、家には家族が居ませんので。僕一人です。置いてかれたんです。悲しくはないですよ? 語りさんの家族構成は?」
いけないですね。まだ慣れません。
「そろそろ下校のチャイムが鳴りますけど、あなたは?」
おや? もうそんな時間ですか? そうですか。
「なら、僕は帰ります。さようなら、語りさん」
「さようなら」
この世界には ≪魔力≫ も ≪探偵≫ も ≪怪≫ も居ない。いや、居るかも知れない有るかもしれない。けれど現時点、現進行時点では、ない。 ≪恋≫ だってない。でも、きっとどこかの ≪世界≫ には、きっとあるのだろう。だから、明日も語ります。語りさんと。僕たちの ≪物語り≫ を
いつか語られる