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ねえ、ヴェロニカ  作者: 天野 地人
第二章 決闘編
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第二十三話 入団テスト②

 七緒は気づいた。コーデリアが三人組から七緒を助けてくれた時も、似たようなことを口にしていたと。


 世の中には肌の色や目の色、家柄や血筋といった持って生まれたもののせいで個人の努力が評価されたり、評価されなかったりすることは多々ある。それを仕方がないとあきらめる人もいるかもしれないけれど、コーデリアはそういった|不条理が大嫌いなのだ。


(コーデリアは家でも血筋でもなく、あくまで実力で生きようとしているんだ。家柄や血筋なんて関係なく、自分の力で成し遂げようと努力しているからこそ、それにふさわしい評価を望んでいる。この人は他者にも厳しいけれど、それ以上に自分に厳しい人なんだ。そして、とても誇り高い人……)


 今のコーデリアの目には、七緒は第二部隊に相応しくないように映っているのだろう。だから彼女は、これほどまでに憤っているのだ。


 コーデリアの言わんとすることに気づいた七緒は、ひどく哀しくなった。サラが聖杯(カリフ))だった時は、二人は何の問題もなく第二部隊に所属していたし、周囲から優秀な黒猫だと評価されていた。ヴェロニカの実力は申し分ないのに、間違いなく七緒の存在がヴェロニカの足を引っ張っている。


 一方、ヴェロニカは七緒を守るかのように一歩前に進み出ると、コーデリアをにらんだ。

「相変わらず傲慢(ごうまん)だな、コーデリア……!」


 しかし、コーデリアも厳しい表情のまま一歩も引く様子がない。

「わたくしは筋を通しているだけですわよ」


 コーデリアの言う事も一理あるのだろう。周囲の黒猫を見回してみると、コーデリアに賛成しているものが半数、心配そうに成り行きを見守っている者が半数。コーデリアに反対している者は、ほとんどいないようだ。


(そうか……私はまだ、第二部隊の中で認められていないんだ) 


 ヴェロニカは七緒を聖杯(カリフ)として認めてくれたけれど、それだけで第二部隊の黒猫たちに受け入れられるわけではない。少し前なら認めてもらえないことに傷つき、落ち込むだけだっただろう。もし七緒一人だったなら。


(でも私は一人じゃない……私が侮られたらヴェロニカにまで低く見られてしまう。私の実力不足でヴェロニカの足を引っ張るようなこと、絶対にしたくない!)


 その為にも七緒の実力を示さなければ。相手をあっと言わせることは不可能でも、せめて長い目で見てもいいかと思わせるくらいの努力はしなければ。そうしなければ、この第二部隊に七緒の居場所は永遠にない。


「ねえヴェロニカ、私はコーデリアと勝負したい」

「……ナナオ⁉」


 ヴェロニカは驚いたように、こちらを振り返った。まさか七緒がコーデリアが申し出た勝負を受けるとは思わなかったのだろう。それでも七緒はヴェロニカに頼み込んだ。


「ちゃんと勝負して、みんなに認められたいの。……どうかな?」

「オレは……お前がそれを望むなら止めはしないが……」


 ヴェロニカが言い淀むのも分かる気がした。現実問題として、七緒たちがコーデリアに勝てる見込みはほとんどない。七緒とヴェロニカは(リンク)に成功したものの、空中に飛翔するのがせいぜいで、まだ戦える状態ではないからだ。


 どのみちコーデリアに挑戦しなければ臆病者の(そし)りを受け、そこでお仕舞いだろう。七緒はコーデリアに向かって身を乗り出した。


「あなたの申し出は受けるわ。でも、代わりにこちらもお願いがあるの」

「……。何ですの?」


 コーデリアの鋭い青眼を七緒はまっすぐに見つめ返す。

「私たちが勝ったら、第二部隊の一員として認めて欲しい」


「言われずとも……勝てば自ずとそうなりますわ。もっとも、勝つことができたならの話ですけれど」


「いいだろう、オレも異論はない」

 ヴェロニカも七緒とコーデリアのやり取りを聞いているうちに決心がついたのか、真剣な表情で頷いた。もともと喧嘩っ早い性格だから、勝負そのものには抵抗がないらしい。


 コーデリアは勝気な笑みを浮かべると後ろを振り返り、ノエルにいらっしゃいと手招きする。

「……という事に決まりましたわ。あなたもそれで良いですわね、ノエル?」


 ところが焦げ茶色の髪に深緑の瞳の短髪の少女は、肩を(すく)めてコーデリアの決定をあっさりと断ったのだった。

「ええー? 僕、メンドくさ~い」


 するとコーデリアは怒りで顔を真っ赤にしてノエルを怒鳴りつける。

「あ、あなた……! 今さら一人だけ勝手は許されませんわよ⁉」


「だってメンドくさいものはメンドくさいんだもーん。魔女討伐ってわけじゃないし、訓練ってわけでもないし。何でコーデリアのワガママに僕が付き合わなきゃいけないのさ?」


「ワガママって……あ・な・た・ね~~⁉」


「だってこのままじゃ、僕だけバトり損じゃん? ご褒美(ほうび)でもないとモチベーション上がりませーん」


 コーデリアはますます真っ赤になってにらみつけるけれど、ノエルは素知(そし)らぬ顔で口笛まで吹いている。どうやらコーデリアよりノエルのほうが一枚上手のようだ。ノエルにしてみれば得るものの無い決闘など、骨折り損のくたびれ(もう)けだろう。


 コーデリアはなおもワナワナと体を震わせていたが、やがてあきらめて肩を落とした。

「……分かりましたわ。あなたの望みも聞いて差し上げます。希望をおっしゃいな」


 途端にノエルは、にぱっと笑顔になった。

「この間コーデリアがくれたお菓子美味しかったな~。僕、あのマカロンもう一度食べたいな~!」

「あなたねえ、あれは王都の専門店から取り寄せた最高級品で……!」

「食・べ・た・い・な~~‼」

「~~! わ……分かりましたわ! お取り寄せしてあげますわよ! それで満足なのでしょう⁉」

「やった!」


 ノエルは、パチンと右の手の平に左手の拳を叩き込んだ。どうやらそれで交渉成立のようだ。つくづく不思議なペアだと七緒は思う。ノエルは一見すると自由でマイペースだけれど、コーデリアの苛烈な性格を上手く受け流し、いなしている。そんなノエルだからこそ、コーデリアの聖杯(カリフ)が務まるのだろう。


 コーデリアは真面目で誇り高いけれど、すこし前のめりになってしまうところがある。だからノエルと組むことで上手くバランスが取れているのだろう。それぞれの黒猫にそれぞれ特徴があり、みな違う。当たり前のことだけれど、それが七緒にはとても新鮮で、面白く感じられるのだった。


 ともかく決闘の話はまとまった。喧嘩を売ってきたのはコーデリアだけれど、七緒を試しているのは彼女だけではない。他の黒猫たちも同様だ。その証拠に、みな興味深そうにこちらの様子を窺っている。何とか良い結果を残して彼女たちに認めてもらわなければ。


 一方、成り行きを見つめていた第二部隊の黒猫たちは、ひそひそと会話を囁きかわしていた。


「どうやら本当に決闘を行うようだな」

 ロビンが呆れ気味につぶやくと、ティナがぼそぼそと小声で尋ねる。

「いいのか……? 私闘は禁じられているはずだろ。レイヴンにばれたら怒られるんじゃないか?」


 それに答えたのはプリシラという少女だ。バーントシェンナ色の豊かな長い髪を背中で三つ編みにしている少女だ。第二部隊の中では比較的、大人しくて控えめな少女だけれど、自分の意見ははっきり口にする。


「でも黒猫の中にはコーデリアさんと同じ意見の子、けっこういますよ。入隊テストも無しで突然第二部隊に配属なんて、ちょっとすぐには受け入れられないっていうか……」


「そうなのか?」

 ロビンが首を傾げると、クロエは肩を竦めて見せる。


「そういうものでしょ。みな普段から一生懸命、訓練に励んでいるんですもの。いくらレイヴンの判断とはいえ、不公平が存在するのは嫌なのよ。コーデリアはただ態度がはっきりしているというだけ。何も間違ってないと私も思うわ」


「ベッキーも不公平はんたーい!」


 ベッキーはピョンピョンと()ねた。活発なベッキーのピンク色の髪は、本人の気質を反映してかあちこち元気よく()ねている。他の黒猫もベッキーほどあからさまな態度は見せないけれど、この決闘を当然のものと捉えているらしく、反論はしない。


 皆がみな、自分のように大らかに構えているわけではないと悟ったロビンはため息をつく。 

「やれやれ……ヴェロニカ=ナナオ組は絶対に勝利しないと、あとあと問題になりそうだな」


「勝負はたぶん五分五分だろうな」とティナ。 


「……そうね。コーデリア=ノエル組は聖杯(カリフ)であるノエルの集中力と持久力に左右されやすいという欠点があるわ」


 クロエはさっそく現状を分析し始めた。ロビンもこの手の話は決して嫌いではないので、便乗して私見を述べる。


「対するヴェロニカ=ナナオ組にも欠点はある。何と言っても聖杯(カリフ)のナナオはまだ初心者だ。だが、ヴェロニカの方は第二部隊で一、二を争う(グラディウス)だから戦力としては未知数だな」


「むー、判断ムズカシー!」


 ベッキーの言う通りだ。案外、勝敗を予想するのは難しい。だからこそロビンは興味が惹かれるのだが、聖杯(カリフ)のクロエはそう思っていないようだ。早々に決闘の行方に興味を無くし、髪をかき上げている。


 クロエはもともと勝負事があまり好きではないけれど、新しい黒猫の七緒に良い感情を抱いていないことにロビンは気づいていた。だから敢えて声をかけてみる。


「そうだクロエ、賭けをしないか?」  

「賭け?」

「負けたほうが食堂のチーズタルトを(おご)るんだ。いいだろ?」


 クロエは訝しげな眼をロビンに向けた。

「いいけど……それじゃ私はコーデリア=ノエル組が勝つほうに賭ける」

「それじゃ私は、ヴェロニカ=ナナオ組のほうだな」


「こんなことして何か意味があるの?」

「あるさ。だって、どうせならこういうイベントは楽しい方がいいだろう?」


 ロビンが朗らかに微笑んでウインクをすると、それを目にしたクロエは呆れたような半眼を作った。

「……。意外と軽薄(けいはく)なのね、騎士さまは」

「知らなかっただろう?」


 できるなら、この決闘をよく見ておいて欲しい。それがロビンの願いだ。コーデリアが七緒とヴェロニカに決闘を挑んだのは、何も自分の主義主張を通すためだけではない。おそらくコーデリアは黒猫たちの間に(くすぶ)る不満を知っていたからだ。


 第二部隊の仲間に不満が蔓延(まんえん)したままでは訓練や討伐に悪影響が出るし、連携(フォーメーション)にも差し障りがあるかもしれない。仲間の不満を払拭(ふっしょく)するためにも、コーデリアは自ら損な役割を買って出たのだ。


 ロビンはコーデリアの気質を知っているから、その推測は当たっているだろう。だからクロエだけでなく、すべての黒猫にこの決闘を見ておいて欲しかった。そうでなければ決闘の意味が無くなってしまう。そして、できる事ならクロエにはぜひ、七緒への抵抗感をなくしてもらえたら良いのだが。

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