第二十一話 コーデリア
何をするにも一人きりだった七緒の生活は、そうして少しずつ変わっていった。ヴェロニカと共に過ごす時間が増えて、ちょっとずつ彼女の性格が分かってきたからか、接続も順調だ。
ヴェロニカとの接続ができなかった時は、七緒の世界はどこまでも灰色で、ひどく味気ないものだったけれど、今はヴェロニカが隣にいると思うだけで世界がバラ色に輝いているように見える。それは傍から見れば小さな変化かもしれないけれど、七緒にとってはとても大きな変化だった。
ただ、学校の授業はヴェロニカと別々であることも多い。そういった時、七緒はたいてい一人だ。ヴェロニカの他にも友人を作りたいと思ってはいるものの、まだ授業についていくだけで手一杯だ。第二部隊にはヴェロニカの他にもたくさんの黒猫がいるし、ロビンとは時おり言葉を交わすことはあるけれど、新しい友達を作る余裕が無いのが実情だ。
そんなある日、七緒が講義室へ移動するため廊下を歩いていると、周囲がやけに騒がしいことに気づいた。見ると、廊下を歩いていた少女たちはみな足を止め、通路の奥へと熱い視線を送っている。中には、きゃあきゃあと浮足立った声を上げている者までいる。いったい何事だろう。七緒も足を止めて、黒猫たちが熱い視線を向ける先を見つめた。
彼女たちがはしゃいでいる理由はすぐに分かった。廊下の奥から、ゆっくりとこちらに歩いてくる一対の人影が見える。抜けるような純白の髪の黒猫と、赤銅色の髪をした黒猫。その片割れは七緒もよく知る人物だった。ミストホワイトの神秘的な髪とワインレッドの瞳――アーテルだ。
(あれはアーテル……!)
アーテルたちが七緒たちのほうへ近づいて来るにつれて、周りの黒猫たちの歓声も大きくなっていく。オラシオンで最強とも謳われる二人の黒猫は、みなの憧れの的であり、カリスマ的な人気を誇っているのだ。そのせいか、アーテルとドロシーが歩を進めると人垣が割れ、黒猫たちは壁際にさっと退いて道を譲る。まるで高貴な身分の人々を敬うかのように。
七緒の周りにいる少女たちからも、二人に対する惜しみない賛辞が聞こえてくる。
「見て見て、アーテル=ドロシー組よ!」
「いつ見ても素敵……アーテル様はクールで神秘的だし、ドロシーお姉様はとても優しそうで、まるで女神様みたい……!」
「美人だよね、二人とも……しかも黒猫としての実力も一番なんだもの。あの二人はオラシオンでも特別っていうか……格別よね」
「ああっ……アー様の涼し気な瞳、妖艶な赤い唇……!」
「あのトゥルトゥルの唇で口づけされたい……‼」
「分かるー。その辺の男よりずっとイケメンだもの!」
(こ……こんなに人気があるんだ……)
黄色い歓声を上げている少女たちに押しやられるように、七緒は廊下の壁ぎりぎりまで後退しながらアーテルたちを見つめた。アーテルはそんな七緒には気づきもせずに、聖杯のドロシーと共に廊下の真ん中を悠々と歩いていく。
アーテルはこの場で最も注目されている存在であり、七緒はその他大勢の人垣の一部でしかない。そんな別世界の住人のようなアーテルを見ていると、かつて学校の屋上で励まされたことが、何だか嘘のように思えてくる。
(アーテルはあの時、どうして私なんかに話しかけてくれたんだろう……?)
アーテルはかつて七緒に尋ねた。『君は、本当はどうなりたいんだい? 何をして、どういう未来を手に入れたい?』と。
彼女の質問が七緒の意識を大きく変えたといっていい。それまで自分を殺し、それを当然の事として生きてきた七緒が、初めて自我に目覚めた瞬間でもあったのだ。
願いの強さは、命の強さ。アーテルがそう教えてくれたからこそ、七緒は自分の気持ちを見つけることができた。七緒が変わるきっかけをくれたのはアーテルだ。だから七緒はアーテルにずっとお礼を言いたかった。
あの時、アーテルが声をかけてくれなかったら、七緒はヴェロニカと接続できなかったかもしれない。
ところがアーテルはどこに行っても凄まじい人気があり、たちまち周囲に人だかりができてしまう。だから七緒のような地味で目立たない黒猫が、とても近寄れる雰囲気ではない。その熱烈な人気を目にするたび、七緒は不思議に思ってしまう。どうして自分のような冴えない黒猫に、オラシオン最強であるアーテルが声をかけてくれたのだろうと。
(それに……学校で目にするアーテルは、あの屋上で話した時のアーテルとは少し違うような感じがする……)
うまく言えないけれど、学校で大勢の黒猫に囲まれている時のアーテルは、まるで―――
七緒がぼんやりとそんなことを考えていると、目の前でそわそわしていた少女たち四人が突然、アーテルとドロシーの前に飛び出していった。みな何事かと目を瞠る。アーテルとドロシーも立ち止まった。
すると四人の少女たちは、恥ずかしそうに可愛くラッピングされたピンクの小袋を両手で差し出した。
「あ、あの! アーテル様! ドロシーお姉様! みんなでクッキーを焼いたんです! ……良かったら受け取ってください‼」
「受け取ってください‼」
まるで告白みたいな様相に、周囲で成り行きを見守っていた少女たちは騒然となった。
「うわ、こんな雰囲気の中、勇気あるわねー」
「抜け駆けなんて、ちょっとズルくない?」
「何よあいつら、あたしのアー様に何してんのよ⁉」
悲喜こもごもの悲鳴と歓声が上がる中、当のアーテルとドロシーは突然のプレゼントにも慣れているのか、驚きもせず落ち着いていた。
「……まあ、ありがとう。あとでいただくわね」
そう言ってクッキーを受け取ったのは、赤銅色の髪が特徴のドロシーだ。前髪を作っておらず、額が広いため、とても大人っぽく見える。目尻がわずかに垂れている目元も、何だか優しそうだと七緒は思った。澄んだ声音も、穏やかな口調も、大人の余裕すら感じさせる。黒猫たちが『お姉様』と呼んでいるのも分かる気がする。
そのドロシーに微笑みを返された四人の少女たちは、たちまち真っ赤になった。一方のドロシーは反応の無いアーテルの脇腹を肘で突くと小声で囁いた。
「ほら、アーテル」
「……ああ、ありがとう」
それはアーテルと話したことのある七緒からすると、何だかとても素っ気ない返事に聞こえたけれど、四人の少女たちは気分を害した様子もない。むしろアーテルに声をかけられた喜びと感動のあまり、今にも泣き出しそうだ。
(アーテル……やっぱり、ああいう空気は苦手なんじゃないかな……?)
七緒の中でかすかな予感が、少しずつ確信へと変わってゆく。誰だって人気者扱いされたら悪い気はしないだろう。しかしいつも人気者扱いされて、特別視されていたら、それが辛くなることだってあるはず。七緒がそう思ってしまうのは、今とは違うアーテルの一面を見てしまったからだろうか。
結局、七緒はその日もアーテルに声をかけることができなかった。あまりの人気ぶりに近づくことさえできないでいる。ただ、アーテルが去り際に、七緒のほうへちらりと一瞥を送ったような気がした。それは一瞬で、七緒の気のせいかもしれないけれど。
アーテルとドロシーが立ち去った廊下は、しばらく興奮した空気が漂っていたけれど、やがて熱が冷めるようにさざめきは徐々に小さくなって、元の平穏を取り戻してゆく。
「……いけない!」
アーテルたちにすっかり気を取られてしまったが、気づけば次の授業の開始時間が迫っていた。七緒は慌ててその場を離れると、足早に講義室に向かったのだった。
講義には間に合ったものの、七緒の苦手な数学で、授業を聞いていても分からないところが出てきてしまった。幸い数学の教官はレティシアで、質問をしたら丁寧に教えてくれるから、七緒は数学の講義が終わった後は教官室に向かうのが習慣となっていた。
その日も七緒は数学の講義の後、レティシアに質問をしようと教官室に向かっていた。するとその途中で突然、三人の少女に囲まれてしまった。
少女たちは七緒の知らない顔ばかりで、少なくとも第二部隊の黒猫ではない。おそらく第一部隊か第三部隊の少女たちだろう。でも、他の部隊の黒猫が七緒にいったい何の用なのだろう。七緒がそう訝しんでいると、少女たちは意地が悪そうな顔でニヤリと笑うと七緒の前に立ち塞がり、通せんぼをした。
「あの……すみません。通してもらえませんか?」
七緒が遠慮がちに頼むと、三人組は小動物をいたぶるような顔でにんまりと笑う。
「え、何? 聞こえなーい」
「えっと……そこを通して欲しいんですけど」
「はあ? 通りたければ通ればいいじゃん。うちらに退けろって、いったい何様のつもり?」
「は……はあ」
七緒は言われた通り、三人組を避けて立ち去ろうとする。ところが七緒が横に避けた途端、三人組の少女も横に移動した。あくまで七緒の行く手を塞いで通さないつもりのようだ。
周囲の少女たちは七緒たちに怪訝な目を寄越すものの、みな見て見ぬふりをして歩き去っていく。その中に七緒の知り合いはいない。立ち去っていった少女たちは、見ず知らずの少女のいざこざに巻き込まれたくないと思っているのだろう。
「あの……?」
どういうつもりだろうと七緒が困惑を浮かべていると、三人のうち真ん中に立つ少女が、七緒の目の前にぐいと身を乗り出してきた。
「あんた、東方から来たのよね?」
「そうですけど……」
何となく嫌な感じを受けたものの、事実だから七緒は素直に答えた。するとその少女はプッとわざとらしく噴き出すと、目元にはっきりとした嘲笑を浮かべた。
「あはははは! 聞いた? 東方だって!」
「ダッサ!」
一人が笑い始めたのを皮切りに、ほかの二人の少女たちも馬鹿にしたような笑い声を上げはじめる。いったい何故、彼女たちにそんな風に笑われなければならないのか。自分の言葉の何が可笑しかったのかだろう。理解できない七緒は戸惑うばかりだ。
「あの……何が可笑しいんですか……?」
七緒が尋ねてみると、三人組の小馬鹿にするような態度に呆れの色が加わった。少女の一人が悪意を露わにした声で、そんなことも分からないのかとばかりに答える。
「可笑しいわよ。あんた、気づいてないの?」
「え……?」
「あんたの顔、黄ばんでるわよ。きったない! ちゃんと顔、洗ってるの?」
残りの二人もどっと笑い声をあげる。もはや周囲の目などお構いなしだ。通りすがる少女たちが誰も七緒を庇わないのを見て、いよいよ態度を大きくする。
(汚いって……顔は毎朝、ちゃんと洗ってるけど……)
その時、七緒はようやく思い出した。デュシスでは東方人を小馬鹿にして見下す人々がいるということを。肌の色の違いや顔かたちといった容姿の違いが、その理由になりやすいらしい。つまり、この三人は最初から七緒を貶め、馬鹿にするために、わざわざ近づいてきたのだ。
三人組はにやにやと下品な笑みを貼りつけたまま、七緒に話しかけてくる。無視しようにも行く手を塞がれ、足止めされているから逃げることもできない。
「あんた、いつもボッチね?」
「え……はい」
「その汚い顔じゃ、あんたなんか誰も相手にしたりしないわよ」
「でもぉ、あたしたちは心が広いからぁ、あんたの相手をしてやってもいいわよ?」
「うちらの言う事を何でも大人しく聞くって誓うならね!」
またしても大きな声でどっと笑う三人組を前に、七緒は途方に暮れてしまった。
(えっと……こういう時、どうしたら……)
どうして東方から来たと答えただけで笑われなければならないのか。七緒に何か話がしたいのであれば、最初からそう言えばいいのに。数にものを言わせて通せんぼをするなんて卑怯ではないか。
そう言い返してやりたいけれど、なにぶん多勢に無勢で旗色が悪い。彼女たちは意地が悪そうだし、ここで下手にやり返したら永遠にネチネチと仕返しをされそうだ。どうすべきか思いあぐねていると、七緒の背後から激しい怒りを含んだ声が放たれた。
「三人集まって東方人にイジメ? 下民は持て余す暇があってうらやましいですわね!」
七緒は驚いて背後を振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。
カールした向日葵色の髪に、鮮やかなアクアブルーの瞳。びっくりするほど長いまつ毛と肌は透けるような白で、いかにも育ちが良さそうに見える。いわゆるお嬢様だ。
だが、少女の顔つきは鬼のように険しい。七緒より少し低い背丈の、小柄な体には似合わぬほどの怒気と威圧感を放っている。腰に両手を添え、まんじりともせず仁王立ちしている少女の迫力に、七緒は言葉を失ってしまった。
三人組も、向日葵色の髪をした少女の登場にぎょっとしたようだ。
「お、お前……!」
「第二部隊のコーデリア!」
(コーデリア……この子の名前……?)
彼女の顔には見覚えがあった。あまり話したことはないけれど、確か第二部隊の黒猫だったはずだ。いつもツンとしている彼女に七緒は少し怖いイメージを抱いていたけれど、どうやら加勢してくれるらしい。
コーデリアは毅然として七緒の隣に歩み寄ると、両手を腰に当てたまま、三人組にじろりと睨みをきかせる。
「あなたたち、第三部隊ですわね? くだらないことしてヒマ潰しするくらいなら自主トレーニングでもしたらいかが? いつも第一部隊や私たち第二部隊に守ってもらえると思ったら大間違いですわよ」
ぴしりとコーデリアに説教され、三人組は途端にバツの悪そうな顔になった。黒猫はみな、実力順にそれぞれの部隊へと配属される。第二部隊の黒猫からそう言われたら、第三部隊の彼女たちは言い返すことができないのだろう。
それでも少女たちは黙っているのが癪だったのか、苦々しそうに顔を歪めると、わめくように反論した。
「ちっ……ちょっと自分が第二部隊だからって、いい気になんなよ!」
「あんたのその地位だって、どうせ実家の財力で買ったものでしょ⁉」
するとコーデリアは三人組をにらむ瞳を、さらに鋭利に研ぎ澄ませる。
「聞き捨てなりませんわね。そこまで言うのなら試してみましょうか? ……わたくしは構いませんけど」
そう言った途端、小柄なコーデリアの全身から殺気にも似た気迫が迸る。さすがの三人組も彼女の迫力に怯んだようだ。ぐっと息を呑み込むと、半ば自棄になって悪態をつく。
「自分の実力、ひけらかして楽しい? この性格ブス!」
「自分が陰で何て言われてるのか知ってんの? 高飛車で高慢で我がままなお嬢サマキャラ……みんな心の底ではあんたの振る舞いにうんざりしてるんだ!」
しかしコーデリアはフンと鼻を鳴らすと、彼女たちの批判を一蹴した。
「敵わないと見るや今度は人格批判ですの? つくづくどうしようもない人達ですわね」
「何だって⁉」
「実力のある者はそれ相応の振る舞いをする権利があると、わたくしは思いますけれど。少なくとも自らは一滴も汗を流さず、他人を身体的特徴で貶め、侮辱し、おまけに尊厳を奪い去って支配しようとする輩よりは余程まともなのではないかしら?」
返す言葉も無いのだろう。三人組は歯噛みしながらコーデリアをにらみつけた。対するコーデリアも一歩も負けてはいない。三人分の視線を一人で受け止め、はじき返している。
両者はしばらく無言で対峙していたが、先に根負けしたのは三人組のほうだった。恨めしそうな視線をコーデリアに送りつつ、捨て台詞を残しながら、その場から退散する。
「……行こ!」
「いい気になるなよ、コーデリア!」
「そちらこそ黒猫であるなら、みっともない真似は今回限りになさい」
コーデリアは最後まで毅然としていた。七緒より小さい体のどこに、そんなエネルギーが眠っているのだろう。七緒にはこんな言動、絶対に無理だ。コーデリアの豪胆さがちょっとだけ羨ましい。
ともかく、コーデリアのおかげで七緒は助かった。コーデリアがいなければ、あの三人組にネチネチといつまでも絡まれていただろう。
「あの……助けてくれてありがとう」
七緒が礼を言うと、くるりと振り向いたコーデリアは何故か、三人組の相手をしていた時とまったく変わらぬ冷ややかな視線を七緒に向ける。
「……あなた」
「はい……?」
「オラシオンには様々な肌色をした子がいるのに、どうして自分がイジメの標的になったのか……あなたは理解しているのかしら?」
「え、えっと……」
コーデリアは声に怒気を滲ませながら七緒を問い詰める。七緒は威圧に弱い。祖母に大声で叱責され続けてきたことが、ちょっとしたトラウマになっているのだ。思わず縮こまり、しどろもどろになって答えを探していると、コーデリアはそんな七緒の鼻先にびしりと人差し指を突きつけてきた。
「それよそれ! その言動! よくって? デュシスでは主張の無い者は存在しないも同然ですのよ! あなたの過剰にうじうじとした言動が、ああいう勘違いした輩をつけ上がらせる原因なんですの! 毅然となさい! あなたが馬鹿にされでもしたら、第二部隊全体の印象が悪くなりかねないのですから!」
「あ、はい! あの……ごめんなさい……」
確かにコーデリアの言うことも一理あるかもしれない。七緒はコーデリアのように気丈に振舞うことができないし、はっきりと自分の考えを口にすることも苦手だ。それが彼女たちに馬鹿にされる原因のひとつだと自覚している。
七緒がぺこりと頭を下げて謝ると、コーデリアはうんざりしたようにため息をつく。
「何にも分かっていませんのね、あなた……。レイヴンもどうしてあなたみたいな黒猫を第二部隊に配属したのかしら」
「あの、あなたも第二部隊なんでしょう? これからよろしくね」
あの三人組から助けてくれたのだから、コーデリアは七緒にそれほど悪い感情を抱いていないのだろう。せっかく関わり合いになれたのだから、これを機に彼女と仲良くなりたい。七緒は右手を差し出すとコーデリアに握手を求めた。デュシスでは手を握り合うのが挨拶だと聞いていたから。
ところがコーデリアは差し出された手を完全に無視すると、はっきりと七緒に告げたのだった。
「勘違いしないで。わたくしはただ、ああいう陰湿な行為が大嫌いだと言うだけ。あなたの為ではありませんことよ。わたくしはまだ……あなたの事を認めたわけではないですのですから!」
そう言い終えるとコーデリアはくるりと向きを変え、すたすたと歩き去ってしまった。七緒はただ呆気に取られてその小さな背中を見送るばかりだった。
七緒はコーデリアと仲良くしたいと思っているのだけれど、どうやらコーデリアはそう思っていないらしい。それは何故なのかーーー本当に七緒の性格が気に食わないという理由なのか、まだ分からない。
ただ、彼女が七緒を助けてくれたのは三人組の陰湿な行為が許せなかっただけで、七緒のためではない。その事だけは七緒にもはっきりと分かった。
(私……嫌われてしまったのかな……?)
そう考えると気持ちが沈んでくる。まだオラシオンでの生活に馴染むのに手一杯で、仲良くなるための努力を十分にしているとは言い難いから、仕方がない部分もあるけれど、コーデリアに嫌われていると思うとやはり寂しい。
七緒はうつむきそうになった顔をすぐに上げると、ぶんぶんと首を振った。
「ううん……そう決めるのはまだ早いわ。ヴェロニカとの接続にだって成功したんだもの。私、頑張る……!」
コーデリアとちゃんと言葉を交わしたのは、これが初めてだ。七緒が彼女のことをよく知らないように、コーデリアもまた七緒のことを知らない。ヴェロニカの時と同じように、これからたくさん話をして仲良くなれば良いのだ。
コーデリアが七緒を助けてくれたのは、七緒のためではなかったけれど、陰湿な行為を嫌い、正しく真っ直ぐであろうとする彼女の姿勢には好感を覚えた。だから偽りなく真っ直ぐに接していれば、きっとコーデリアも七緒のことを分かってくれるはず。
七緒はそう自分に言い聞かせるのだった。




