隔離階層
俺は去っていくケビンが扉の所でこっちを向いて軽く頭を下げたので、止まった瞬間に《分析》を発動した。
《分析》
ケビン
HP ±200
MP ±250
Str ±20
Def ±20
Spe ±35
Dex ±35
Mag ±40
かなり詳しい情報がわかった。
この「±」というのは、だいたいこのくらい?、という意味だと思っている。
まだレベルやスキル、詳しいステータスなどは見えないが、かなり有難い情報だ。
この《分析》の精度を上げるには、相手の髪や肌の色、癖などを意識して見るようにすると短時間でも精度が上がる。
この情報を見るに、ケビンは魔法で戦うということだろうか。
魔法は、黒骸騎士のダークウェポンのように形を作るだけなら即座に出来るが、それをコントロールして相手に飛ばしたり、その他魔法発動者から離れての攻撃は集中が必要であり発動にも時間がかかる。2階層で止まっているということは、その時間の確保が思ったようにいかないのだろう。
Magが40前後もあれば、2階層の強キャラであるオーガも倒せるはずだ。
……俺も帰るかな。
俺もまたギルドを出る。
道に人がまばらなのを確認し、物陰に入って誰からも見られないようになって、《ダンジョンメニュー》を開いて転移した。
転移した先は隔離階層の一つで薬草を育てている所だ。
《ストア》でポーションの原料である薬草の種を見つけたおかげで、ダンジョン内にポーションを隠すことが出来るようになった。今では6階層を探索する冒険者の収入源の一つになっている。
といっても育てているのは最も効果の低い薬草(HP)Ⅰ である。
《分析》
薬草(HP)Ⅰ
HPを回復するポーションの原料。
絞った液を水に溶き、MPを注ぐことでポーションになる。
花が開く寸前のつぼみには微量の聖属性の魔力がある。
この薬草は大きくなっても1m程度にしかならず、小さな黄色の花を咲かせる。
隔離階層は1階層につき100m×100mのかなりの広さを持つが、そのほとんどがこの薬草の花畑になっている。
花畑の奥に人影がある。
《分析》
ファームゴーレム
HP 500
MP 0
Str 150
Def 100
Spe 100
Dex 200
Mag 0
土作りⅤ 種まきⅤ 間引きⅤ 肥料作成Ⅴ 収穫Ⅴ 品種改良Ⅴ 成長促進Ⅴ 品質上昇Ⅴ 保存Ⅴ 乾燥Ⅴ
その名の通り、完全に農作業用のゴーレムだ。
2mの人型の体は木で出来ていて茶色の樹皮が覆っている。間接は藁がつまっている。
広大な花畑を一体で管理している働き者だ。
その頭の上に薄い青色のスライムのようなものが乗っている。
ゴーレムは収穫した薬草をそのスライムのようなものに与えている。
《分析》
ハーブスライム
HP 150
MP 100
Str 20
Def 5
Spe 20
Dex 100
Mag 80
抽出Ⅱ 濃縮Ⅱ
これはスライムと言いながら実はスライムではないというよくわからない存在だ。
多分最初に発見した人がスライムと間違えたんだろう。
こいつがポーションの原液を作っている。
食べている薬草の成分を抽出、濃縮し、自らのMPと混ぜ合わせる。
あとはガラス瓶の中に水と混ぜて入れてポーションの出来上がりだ。
ほとんどが花畑と言ったが、花畑でない一部は砂場になっている。
隔離階層の隅にある砂場の真ん中に、薄い紅色のスライムのようなものがいる。
《分析》
フーネススライム
HP 100
MP 150
Str 20
Def 5
Spe 20
Dex 100
Mag 80
火魔法Ⅱ 熔解Ⅱ 加工Ⅱ 焼却Ⅱ
こいつもスライムではない。
こいつは体内に入れたものを《火魔法》で加熱し、《加工》で形を変える。
《熔解》は体内の物が溶けだす温度を下げ、《焼却》は体内の物が燃えだす温度を下げる。
このフーネススライムに砂を食べさせてガラス瓶を作っている。
水は、薬草の水撒き用の井戸の水を使っている。
《分析》
ポーション(HP)Ⅰ
HPを100回復する。
飲んでも、傷にかけても同じ効果。
これを6階層の『遺跡』エリアに配置してある。
出来たポーションはファームゴーレムの《保存》でダンジョンメニュー内の《倉庫》に入る。配置するときは6階層のアイアンゴーレムに指示を出している。
ここに異常が無いことを確認してもう一度《転移》する。
「お帰りなさいませ。本日は少々遅かったですね?」
着いたのは、黒骸騎士とライカンスロープの訓練場兼ライカンスロープが狩りをするための隔離階層である。
一つの角が森になっていて、そこがいろいろな動物が出てくるパントリーになっている。
真ん中がゴツゴツした岩場になっていて、ここで黒骸騎士とライカンスロープが打ち合ったりして体を動かしたりスキルを磨いたりしている。
パントリーと対角線になるようにして小屋がある。ここが俺の生活の場所だ。
始めは侵入者の二人のアイテム袋に入っていた保存食を食べ、コアの部屋に大量の毛布を重ねて寝ていたが、数日で限界が来たのだ。
狩りと訓練用の隔離階層に《ストア》で買った小屋を配置し、ベッドなどの家具も置いた。
幸いだったのはライカンスロープに《料理》のスキルが発現したことだ。狩りの獲物を処理して焼いてくれたおかげで飢えることもなかった。
4階層の『洞窟』の通路の一つを岩塩が採れるようにし(ストアから購入)、マイナーモールという《採掘》スキルを持つもぐらのモンスターで確保した。
今でこそ薬草しかないが、始めはあの階層は様々な穀物や野菜を育てていた。ファームゴーレムは救世主だった。
花畑にしたのはポーションを作って、売ったお金でダンジョン前のギルドや宿屋の近くの商店で野菜等を買う方が儲かるからだ。
「ちょっと面白い話が聞けたんだ。ライカンスロープはどうしてる?」
「主のご飯を作った後、《獣化》して狩りをしています」
剣を磨いている黒骸騎士のいった通り、小屋の中のテーブルには少し冷めた料理があった。それを食べて《ダンジョンメニュー》を開く。
ー本日の侵入者のダンジョン内滞在により3,680DP獲得
地上にもダンジョンを拡張したおかげで、宿屋やギルドからかなりのDPが手に入る。
今はダンジョンに潜る冒険者に増えてほしいため、冒険者がミスしない限り死なないため滞在ポイントしかないが。長期的に見るとこちらの方がお得なはずだ。
手に入ったDPでさらにダンジョンを改良し、俺は寝た。