《分析》の可能性
驚いたことにダンジョンマスターはダンジョン内なら移動は自由らしい。ついでに倉庫を使うのも一瞬だった。実際に目で見て、あれを《倉庫》に入れたいな、と思うだけで収納されたのだ。
《倉庫》
・ポーション×5 ・ポーションⅡ×1 ・布袋×3 ・革袋×3 ・大剣×4 ・ナイフ×1 ・魔法石×8 ・毛布×2
「コレ、イル?」
ライカンスロープが革袋を差し出してきた。どうやら男の死体を引きずりながら来たらしい。差し出してきた革袋は黒骸騎士が切り裂いたものに似ていた。
「戦っているときは気付きませんでしたが、この革袋はアイテム袋だったのですね。中身を取り出しますか?」
「そのアイテム袋ってなに?」
「アイテム袋は……なんというか、主の《倉庫》の劣化版のようなものです。入れられる容量も、内部でどのように時間が経過するかも完全にピンきりですが、見た目よりも多く入って、内部は時間がゆっくり経過する袋の総称です」
すっごいファンタジーだなぁと思いながら顔の前につき出されたアイテム袋を受け取る。中を覗き込むと、何も見えずにただただ真っ黒だった。
「これって手を入れないとダメ……?」
袋を開けても完全に光が入っていない。その異質さが恐ろしくて躊躇していると、
「カセ」
焦れたライカンスロープに引ったくられた。両手で持って軽く覗き込んでいたのに、気付けばアイテム袋はライカンスロープの左手にあった。
どしゃ、と右手に引っ掻けていた男を手放し、そのまま袋の中に突っ込んだ。そして口を下に、底を上に、ひっくり返した状態にして右手を引き抜いた。
大量の試験管のような形の瓶や透き通った青色の小石。袋なんかが一気に出てきた。剣が入っていない分、細々したものが多い気がする。
「一旦すべて、主の《倉庫》に入れて頂けますか?我々はこの死体をザライ殿にお渡ししてきます」
ということで俺は、コアのある部屋に戻ってきた。
ダンジョンメニューを開けばすぐに転移出来るのだから、本当に便利なスキルだ。ライカンスロープと黒骸騎士が来るまで少しかかるだろうから、《倉庫》に入れた物を《分析》で視ていようか。
《倉庫》から取り出すのは簡単だった。取り出したい物を選択するだけ。手の中に出てきた。
まずはポーションからだ。これはさっき1本だけ《分析》してポーションⅡというのが視えた。二人の分を合わせて未分析のものが15本ある。
《分析》
ポーションⅡ×9
ポーションⅢ×6
初めに《分析》した分をいれると、ポーションは全部で16本だ。
このまま魔法石というのも《分析》していく。魔法石は親指くらいの大きさの、透き通った青色をしている。ガラスみたいだがそれよりも重量がある。魔法石は20個ある。
《分析》
浄化×4 魔除け×6 通信×4 結界×6
「主、ザライ殿に死体をお渡ししました。どうすればよいでしょうか?」
黒骸騎士から連絡が来る。姿が見えないのに急に声が聞こえるのは驚くな。
「こっちに来てくれ」
「了解しました」
コアがある部屋にはダンジョンマスターとダンジョンマスターが許可した者だけが入れるようになっている。こうして毎回許可しなければ、黒骸騎士とライカンスロープは入ってこれないのだ。
「失礼します、主」
黒骸騎士とライカンスロープが入ってきた。ライカンスロープは話すのが苦手なのか、もっぱら黒骸騎士が話している。
「とりあえず黒骸騎士、お前の武器がいるな。大剣とナイフしかないんだが、大剣で良いか?」
「もちろんです、主。感謝します」
良かった。これで大剣は使えませんとか言われたら、どうしようもないからな。
ロイのアイテム袋から出てきた大剣4本を地面に並べていく。
「どれが良いか選んでくれ」
「ふむ……」
並べられた4本を、じっくりと眺めたり持ち上げたりしている。振っては下ろし、振っては持ち変えて、何度か持ち変えた1本で小さく頷いた。
「主、これにします」
そう言って持ち上げた大剣は、4本のなかでずば抜けて大きな剣だった。持ち手は40cm以上、刃は1.5mはあるとにかく大きな剣だ。だが、その大きさを除けば特に特徴はない。装飾は無く、鈍い光沢を放つ両刃、光を吸収するかのように黒い刀身を持っている。
《分析》
アスカロン[A]
・要求ステータス Str500 Dex300
・+Str100 +ダメージ300
うん? かなり詳しい情報が得られた。これまでは名前だけだったのに。
ダンジョンブックと黒骸騎士からの情報、なにより《分析》を使って理由を調べた。
《分析》
分析Ⅱ
・対象についての観察時間、所有情報量で得られる情報が変動する。
・レベル上昇に伴い、必要量が減少する。
ということだった。ついでにアスカロンの《分析》時に気になったことについても調べてみた。
アイテムランク
・アイテムにもランクが有り、I~Sまである。Sへいくほど良質なアイテムだということ。
・アスカロンは上から二つ目のAランク
要求ステータス
・アイテムやスキルを使用するときに必要となるステータス。
・このステータスが足りていないと、本来の半分程度の効果と、一部のステータスが減少する。
+ダメージ
・敵を攻撃時、HPを追加で値分削る。
アスカロンはかなり良い武器のようだ。特に追加でHPを削るとか凶悪過ぎる。黒骸騎士のHPが1,500を越えたくらい。5、6回攻撃すれば死である。
ブンブンとアスカロンを振り回している黒骸騎士を見ていると、ライカンスロープがこちらを見ていることに気付いた。
「オレモ、ナニカ、ホシイ」
当然と言えば当然である。黒骸騎士だけが好きなものを貰って、ライカンスロープが貰えないではおかしいだろう。どちらもきちんと俺の命令通りにしてくれたのに。
「剣欲しいの?」
「イラナイ、カリ、シタイ」
カリ? 仮、借り、駆り……
「主、恐らくは狩り、狩猟のことでは?」
「なるほど、狼だしな」
でも狩りってどうすればいいんだろう? そういえばダンジョンの他の階で鹿とか熊とかのモンスターならいるけど……。少しならいいけど繰り返しだときついな。
「それならパントリーを強化するのはどうですか?」
「パントリーを強化? それっていったい、いやどうせなら《分析》で調べてみる」
《分析》
パントリー
・一定範囲を全てのモンスターが食べられる謎の餌が生成される空間に指定する。
・追加でDPを注ぐことで、餌を生き物に変更できる。
なるほど、こういうことか。一度強化すれば、それ以上はDPも必要無さそうだし、これで良いだろうか?
「ソレデ、イイ」
「ゴブリンたちのパントリーも強化するのはどうでしょう? パントリーの生き物ではレベルは上がりませんが、倒す過程でスキルのレベルは上がると思います」
良い考えだ。どうせならゴブリンたちも強くなって欲しい。
ライカンスロープ用に隔離階層を用意しようか。
「パントリーだけでなく模擬戦や訓練も出来るでしょうね。でもそれでも場所は余ると思いますよ?」
俺の生前の記憶に何かないだろうか。ボス部屋にザライを設置したように、唐突に思い付いたりしないものか。
「とりあえずいろいろやってみよう。お前たちのおかげでDPも増えたことだしな」