2階層
それから3日、俺とケビンは1階層で戦い続けた。
《分析》
ケビン Lv15
HP 220
MP 260
Str 22
Def 21
Spe 38
Dex 39
Mag 48
水魔法Ⅱ 風魔法Ⅱ 剣術Ⅰ
ケビンのレベルは2上がり、スキルレベルは上がらなかった。
今はオークと戦っている。
オークは全長1.5メートルの茶色い豚だ。
体表全体を茶色の短毛が覆っていて、基本的に四足歩行。戦闘開始や威嚇の時に後ろ足2本で立ち上がる。
攻撃は基本的に下から上への掬い上げ。
蹄を叩き込むためか硬い鼻で放り投げるためか、牙で切りつけるためか。
豚特有の強靭な背筋を生かした攻撃だ。
さらにMPを消費してStrを上げるスキルも持っている。
もともとMPに乏しい種族だから長時間ではないが、充分脅威だ。
《分析》
オーク Lv1
HP 41/85
MP 6
Str 13
Def 14
Spe 8
Dex 7
Mag 1
繁殖Ⅱ 噛みつきⅡ 腕力上昇Ⅰ
ケビンは強くなった。
レベルは低いしスキルレベルも上がっていないが、モンスター相手の戦い方がわかってきた。
これまでのケビンの剣は、この世界に有るかはわからないが、剣道に近い、対人のものだった。
だが相手はモンスターなのだ。
ライカンスロープや黒骸騎士レベルは別として、モンスターの大部分は頭が良くない。駆け引きなんかは必要ない。
それに斬るときに踏み込む必要も無い。手でも足でも、背中でも後頭部でも、どこを斬ってもいいのだ。
これを理解してきたのか、だんだんとモンスターを倒すのが安定してきた。
今も、やけくそになって突進してきたオークを避けて、丸見えの首に剣を突き刺して倒した。
「ナオキさん、そろそろ2階層に行ってもいいですか?」
魔石を拾いながらケビンが言う。
確かに、オークを無傷で倒せるようになったし、これ以上1階層にいても大きな成長は無いかもしれない。
ということで2階層に来た。
階層の移動は、どこかにある穴を見つけるだけだ。その穴は螺旋階段になっていて、下の階層に繋がっている。
この螺旋階段の移動がかなり面倒臭い。
ダンジョンマスターならどこでも《転移》出来るからマシだけど、冒険者って凄いわ。
2階層は『林』だ。
苔に覆われた地面と乱雑に生えている木々。
天井は枝葉が覆っていて、その間から漏れている光はかなり少ない。
地面の苔が放つ光が基本的な光源になる。
ケビンがかつて、木の上からオークを攻撃出来ていたのも、地面が一番明るく、上にいくほど暗くなるからだ。
「オークは狩るとして、フォレストウルフとオーガはどうする?」
「とりあえず戦ってみたいです。これまで同様、危なくなったら助力をお願い出来ますか?」
「わかった。また木の上に登ってるな」
モンスターを探して歩く。
「右前方にいるな。群れっぽいからフォレストウルフだろう。それじゃ、登ってるわ」
フォレストウルフは緑がかった黒の毛皮を持つ狼だ。
全高は1メートルに少し届かないくらい。鼻先から尾の先までで2メートルくらいの大きさだ。
4~8頭で群れを作っている。
(そういえばライカンスロープは、同じ狼だからか会話出来たっけ)
そんなことを考えていると、ケビンの前にフォレストウルフが姿を表していた。
4頭で半円になって囲んでいる。後ろからさらに2頭が来ていて、挟み込む形だ。
《分析》
フォレストウルフ Lv1
HP 85
MP 12
Str 13
Def 14
Spe 17
Dex 8
Mag 1
噛みつきⅡ 引っ掻きⅡ 遠吠えⅠ 群れⅡ
《分析》
群れ
同じ群れだと認知しあった者との意志疎通が容易になる。声に出さずに思考を伝え合うことが出来る。
この《群れ》がフォレストウルフの厄介なところだ。
一体ごとならHランク、人間のレベル3相当なのに、群れるほど危険性が上がって行く。
後ろの2体はケビンでは対処出来ないだろうから、戦闘が始まったら俺の方で殺さないと。
囲みの両端の2頭がケビンへ飛び掛かった。
同時に後ろの2頭も駆け出したのを《土魔法》で殺す。林で《火魔法》は万が一の時が怖いからな。
ケビンは右手に大きく跳んだ。
飛び掛かってきた狼とぶつかるようにして剣で叩き、首をへし折る。
空ぶった左手の狼が止まったところで残った2頭も飛び出す。
態勢を立て直した左手の狼も続き、3頭になった。
ケビンはまたも右に動き、端のフォレストウルフの頭に剣を振り下ろすと、返す剣で真ん中の狼まで下から上へ斬り上げた。
最後の1頭は、噛み付こうとしてきたところを剣の腹で殴って地面に叩き付け、胸部を突き刺した。
スムーズに、怪我無く終わった。
こいつらよりも少し弱いコボルト相手に血を流していたのが嘘みたいだ。
地面に降りるか。
「お疲れ。安心して見てられたよ」
「相手が4頭だったからですよ。記録に残っているものだと、最大で60頭を越えるフォレストウルフの群れが見つかっていますから。この数でこの強さなら、レベル1で経験もろくに積んでなかったでしょうから」
60頭もの同族を従えるなら、その群れのボスの《群れ》はさぞ高レベルだったんだろう。
「少し休んで、探索を再開するか。今日はオーガと戦う? 俺が倒そうか?」
「ここで少し休めば大丈夫です。今日のうちに戦っておきたいですから」
ケビンはそう言うので、4個の魔石を拾って少し休むことにする。
パントリーから産み出された小さなウサギが近くにいたので捕まえる。
内臓を出して頭、手足を落とし、皮を剥ぐ。
簡単に解体して《火魔法》で火を通して食べる。
捌いている間は顔を背けていたケビンだが、焼き始めるとこちらを向き、焼けたものから食べていく。
「ここのダンジョンは動物もいて食事が楽ですねー」
ケビンが呟く。
「俺はここしか知らないんだけど、他のダンジョンだと動物はいないの?」
「いるダンジョンもあればいないダンジョンも有るんです。動物がいないダンジョンだと、食料は持ち込みになるので大変なんですって。まあ僕も、動物のいないダンジョンは行ったことが無いんですけどね」
《土魔法》で穴を掘り、内臓、骨、皮を入れたら《火魔法》で完全に燃やす。
休憩を終えて、俺たちは歩いていた。
「オーガ……ですね」
ケビンが声を抑えて言う。
少し離れたところに、赤褐色の肌が見えている。
オーガは160~180センチ、額の一本の角、異様に発達した大きな手のひらが特徴だ。
《分析》
オーガ Lv1
HP 125
MP 20
Str 26
Def 24
Spe 19
Dex 20
Mag 8
繁殖Ⅰ 腕力上昇Ⅰ 殴打Ⅱ
ケビンよりもStrとDefが上。
見るからにわかるパワータイプだ。
《殴打》は殴る威力が増す。MPを消費するとさらに増す。
発達した手のひらを上手く使うのに最適なスキルだ。
「食事中みたいだけど……どうする? 奇襲? 敢えて正面から?」
「……初めてなので、正面から。危なくなったら助けて下さい」
「当然」
ケビンは敢えて音を立てながらオーガに近付いていった。




