強くなるには
「本当に、すいません……。ナオキさん、これが今日の報酬です……」
そう言ってケビンが暗い顔をしてカードを差し出したので、俺も自分のカードをその上に翳す。
ー+440G
声と顔から薄々察していたが、本当に少ない。
「合計って、いくらだった?」
「628G、です……」
628G。これが俺とケビンが今日1日1階層を回って稼いだ金額だった。
基本的に魔石の値段はそのモンスターの召喚にかかるDPの10倍ほどだ。
1階層にいるモンスターはゴブリン、コボルト、オークの3種類。
ゴブリン、コボルトの魔石は10G、オークの魔石は100Gで売れる。
軽食として一般的な串焼きが10~15G。サンドウィッチやホットドッグのようなパンが20~40Gほどだ。
宿も安いところなら素泊まり1泊で300Gほど。最低限の食事をしようと思えば、1日400Gほどになるだろうか。
駆け出しの冒険者と考えればいい稼ぎといえる。
「そういえばケビン、俺と組む前は2階層にいたんだろ? あそこは一番弱いモンスターがオークじゃないか。どうやって戦ってたんだ?」
ゴブリンと接戦、コボルトとは正面から戦えば死にかける。オークと真正面からぶつかれば確実に死ぬだろう。
「2階層が『林』になっているのは知っているでしょう? 木の上に登って、下を通るオークの頭を剣で狙ってました。オーガやウルフには決して敵わないので、そっちは避けて」
それでだいたい400Gほど稼いでいたらしい。
ちなみに6階層のアイアンゴーレムの魔石は4500Gで売れる。
でも6階層に行くまでの準備なんかもあって、そこまでぼろ儲けではない。それでももっと浅い階層よりも儲かるが。
「ケビンは、それだけで大丈夫なのか?」
「僕は、冒険者になるときに持ってきたお金がまだあるので大丈夫です」
ケビンはそう言ったので、俺たちはまた明日、昼前にギルドに集まることにして別れた。
ケビンと別れ、俺は隔離階層に《転移》した。
すると黒骸騎士が俺を待っていたようで、近寄ってきて手のひらを見せてきた。
「主、ついに今日、5階層でこちらが集まりました」
そう言って黒骸騎士が出した手のひらには、キラキラと輝く小さな物体がちょこんと乗っている。
「これは?」
「聖銀、です」
聖銀とは、ダンジョンで採れるとされる7つの金属のうち、上から3番目にレアな金属である。
よく採れるものから順に、銅、鉄、銀、金、聖銀、魔金、神鉄だ。
そして珍しい金属ほど有用だ。
聖銀の1番の特徴はその軽さだ。加工前は対して軽いわけではないが、手を加えることでとんでもなく軽くなるらしい。
だがその軽さに似合わず頑丈だ。
さらに身に付けているだけでHPが少しずつ回復したり、毒等の状態異常になりにくく、治りやすいという特徴もある。
基本的にアクセサリーに使われたりする。金持ちは聖銀100%の物を持ってたりするのが自慢らしい。
1番安い銅が1グラム10Gなのに対して、聖銀は1グラム1,500Gだ。
そして銅から神鉄までは、全て『坑道』で採れる。
熱心な冒険者は朝から晩まで5階層でツルハシを振っているだろう。
俺もマイナーモールという60~70センチほどのもぐらのモンスターを大量に放っている。
マイナーモールには、《穴堀》《採掘》《貯蓄》《送転》というスキルがある。『坑道』の壁や地面に潜る《穴堀》。金属を採る《採掘》。一定量まで採掘した金属を体内に貯めておく《貯蓄》。金属が貯まったら、俺の《倉庫》に送る《送転》。
もし冒険者がマイナーモールを討伐したら、体内に《貯蓄》してあった金属がそのまま手に入るので、運次第では一気に稼げるだろう。
「これが聖銀か……。半月でこれだけって少なすぎない?」
「まぁ、それだけ希少ということです。神鉄どころか魔金さえも、いまだに発見されていないのですから」
「じゃあ、お前のアスカロンってヤバいくらい高い?」
アスカロンは、一月くらい前に来た冒険者から手に入れた大剣だ。
並みの剣の倍ほど、2メートルほどの、分厚い黒光りする刀身の両刃の剣。
Strが100も追加され、さらに追加で300ダメージというあり得ない効果を持つ。
この大剣は、魔金で出来ていた。
「とんでもない業物ですし、かなり値が張るとは思いますが……、なにぶん要求ステータスが高いですから」
そういえばアスカロンは、使うにはStrが500は必要とか言う全くもって意味がわからない大剣だった。
Str500って、俺のレベルが160越えないと無理だもんな。
それを当たり前に使えるんだから、黒骸騎士は頼もしい限りだ。
「なあ黒骸騎士。剣士が強くなる方法ってなに?」
黒骸騎士は強い。
ステータスの高さだけでなく、《剣術Ⅰ》の状態でも《闇魔法》で作った剣を巧く使っていた。
同じ《剣術Ⅰ》のケビンとは全く違う。
「一番簡単なのはレベルを上げること。次にスキルレベルを上げること。単純ですが、これにつきるでしょう」
それは知ってる。
「じゃあ《剣術》にほとんど才能がないやつが剣士として強くなるには?」
「そうですね……才能がほとんど無いといっても《剣術》を持っているというなら、実戦が一番です。次点で試合や打ち合いですね」
「素振りとか、型とかじゃなくて?」
「実戦です。そうすることでレベルやスキルレベルが上がるのはもちろんのこと、さらに体捌きと足捌き、咄嗟の判断力と応用力も身に付きます。敵は人だけでなくモンスターも含むなら、尚更様々な実戦経験を積むべきです」
ならやっぱりこのままダンジョンで戦い続けるのがいいんだろうか。
「それと、武器も重要ですよ。細い剣、太い剣、短い剣、長い剣、両刃、片刃、両手剣、片手剣。同じ《剣術》でもどの剣が合うかは人それぞれですから」
この世界のスキルは幅が広い。
例えば魔法なら、よくあるような『ファイヤーボール』とかは無い。
自分で、どの場所に、どんな形で、どれくらいの時間MPを注ぐかを考えないといけない。
スキルレベルが上がると、より細かい設定が、より効率良く出来るようになる。
確かにケビンに合う剣を探すのはいいかもしれない。
ケビンはよく足を動かして戦うから、軽くて切れ味のいい剣が向いているかもしれない。
でも問題は剣は高いということ。
このダンジョンの周りには、ギルドとそれに併設された酒場。冒険者が買い物をするテント型の商店。冒険者が寝泊まりする宿しかない。
立地的には、ダンジョンが崖のようになっている岩肌に出来ていて、本来は馬車などもまず通らないらしい。
だから道も整備されてなくて、大きい馬車は通れない。
よって一度に大量に運び込めずに値段も最寄りの町より少し高いらしい。
数打ちの鉄剣でもかなりの値段なのだ。最低でも10,000Gはする。
だから俺は基本的に自分の身体を武器にする《格闘術》を鍛えることにしたんだし。
少なくとも今日みたいな稼ぎじゃ到底無理だ。




