098 閑話 レイナルドとヘレナの冒険2 前編
ガーマ帝国とエディア共和国の戦争が始まった頃、レイナルドとヘレナはシャトラインの領主であるホソ・デブラジオから呼び出されていた。
「領主からの呼び出しなんて絶対面倒事に決まってるわよ!」
「今の活動拠点はシャトラインなんだ。呼び出しを拒否したらシャトラインを追い出されるかもしれないよ」
「うーん、本当に面倒ね。そろそろ活動拠点を移すのもアリかもしれないわね」
「とりあえず、領主の話だけでも聞いてみよう」
2人がシャトライン城に着くと、城の応接室に通された。
少し待つと以前会った時とは別人のオーラを放つホソ・デブラジオが扉を開け入ってきた。
「2人ともよく来てくれた。まずはミスリル級冒険者への昇格おめでとう」
レイナルドとヘレナは白金級だったが、地道に依頼をこなし、先日ミスリル級に昇格したのだった。
「ありがとうございます。それで俺達を呼び出した理由とは何でしょうか?」
「そうだな。では単刀直入に言おう。帝国との戦争が始まったのだ。万が一、このシャトラインが攻撃された時のことを考え、有能な人材を避難させたいのだ」
「有能な人材とは?俺達が護衛できる人数にも限界はありますよ」
「分かっている。有能な人材とは1人だけだ。ヘロン博士だ」
それを聞いたヘレナは驚いた。
「え!?あの若干12歳で錬金術を極めたというヘロン博士!?」
「そうだ、魔道具制作のスペシャリストでもある」
「どこに避難させればいいのですか?」
真面目なレイナルドが話を進める。
「東にあるシルリア王国だ。一時的に避難する旨は伝えてある。王都まで護衛してやってほしい」
「分かりました!」
「分からないわ!」
「どっち!?」
デブラジオが思わず素を出してしまった。
「ゴホン!何が分からないのだ?」
「報酬は何を貰えるの?」
「む、そうだったな。褒美は私が出来ることなら何でもしよう」
「え!?全財産ちょうだい!」
「ヘレナ!冗談でも言ってはいけないことがあるんだぞ!」
「全財産はさすがにやれないが、私の秘蔵の武器コレクションの中で最高の剣と杖を渡そう。前払いで良いぞ、どうだ?」
「それならオーケーよ」
「俺も貰えるのですか?ありがとうございます!」
デブラジオは隣の部屋から剣と杖を持ってきた。
「まず剣は【神剣ミスティルテイン】神殺しの剣と言われている。次に杖は【バルログの杖】火属性魔法を強化してくれる杖らしい」
「ありがとうございます」
2人は武器を受け取った。
「交渉成立だな。では、博士!入ってきてくれ」
12歳くらいの眼鏡をかけた金髪の少女が部屋に入ってくる。
「ヘロンです。よろしくお願いします」
「俺はレイナルド。こっちはヘレナ。君の護衛は任せてくれ」
「はい、お願いします」
「さっそくだけど、準備をしたら出発しよう。いつ帝国が攻めてくるか分からない状況だからね」
「分かりました」
3人は準備を整えて、シャトラインの東門に集合した。
シルリア王国まではかなりの長旅になる為、馬車を借りた。もちろん費用はデブラジオが出している。
「準備はいいかい?よし、出発!」
馬車に乗って、シャトラインを出発した。
その2日後、シャトラインは魔物の群れと帝国兵に襲われるのだった。
何も知らない3人は順調に旅を続ける。
6日後、首都ロートスに着いたレイナルド達は街で一泊した。
カン!カン!カン!
その夜、3人は大きな鐘の音で目を覚ます。
「何が起こってる?」
ヘレナが窓を開けると首都の西側が燃えて明るくなっている。
「敵襲よ!」
ヘレナは窓に足をかける。
「どうする気だ!?」
「倒してくるつもりよ」
「ヘロンの護衛はどうするんだ?」
「レイナルドに任せる。よろしくね!」
ヘレナは窓から飛び出していった。
「全く、ヘレナはいつもこうだ」
ヘロンは不安そうだ。
「大丈夫、ヘレナが帰ってくるまではここで待っていよう」
レイナルドはいつでも宿を出ていけるように準備を始めた。
一方ヘレナは西側にたどり着き、デーモンと対峙していた。
「帝国はデーモンの養殖でも始めたのかしら?火の力よ 敵を貫け ファイアアロー!」
デーモンは魔法を避けきれずにファイアローを受けて燃え上がった。
ヘレナは次の魔法の準備をしていたが、デーモンは一撃で倒れた。
「この杖のおかげで、ただのファイアローでも倒せるのね」
ヘレナは周辺を走り回りながらファイアローを連発し、デーモンを倒していった。
翌朝、首都の人々が集まって来た。
「街を救った英雄だ!」
「名前をお聞かせください!」
「あたしはヘレナ!偉大な魔法使いよ!感謝しなさい!……アイタ!」
いつの間にか背後に居たレイナルドがヘレナの頭にチョップする。
「何をしてるんだ!任務があるだろ?さっさと出発するぞ」
レイナルドに掴まれて引きずられるヘレナ。
「あぁ〜あたしは街を救った見返りが欲しいだけなのに〜」
「「…………」」
住民達は何も言えず、去っていく3人を見送った。
3人の向かう先は何かを暗示するかのように暗雲が立ち込めていた。




