095
「あ!結局、魔王の場所を聞きそびれてしまった……」
「ワン!」
「お、もしかしてハティなら匂いで分かるのかい?」
「ワンワン!」
ハティは任せろと言いたげな風に堂々としている。
「じゃあ、案内は任せたぞハティ!」
ハティが走り出したので付いていく。
しばらく廊下を走っていくと突然ある部屋の前で止まった。
「ハティ、本当にここなのか?全然高い場所じゃないんだけど」
そう言いつつも扉を開ける。
「え……?」
そこは調理室で、料理人がステーキを焼いているところだった。ハティはまた肉の匂いに釣られたのだ!
「お前達、使用人じゃなさそうだな。客人か?」
料理人にしては乱暴な言葉使いだ。
「ええ、客人といえば客人ですね」
「ステーキ食いたいのか?」
「は、はい。特にこのハティが食べたいようです」
ハティを指差す。
「いいぞ、ほら皿に盛ってやる。2人とも食え」
「ありがとうございます」
ステーキは絶品だった。
「ごちそうさまでした、失礼しました」
怪しまれる前にそそくさと部屋を出る。
「ハティ、肉の匂いじゃなくて魔王の匂いを追ってくれよ」
「ウォン!」
ハティは吠えると窓を突き破って外に出た。
「なるほど、外から見れば一番高い塔がすぐに分かるな!ハティやるじゃないか!」
ハティと共に屋根に飛び乗り、どんどん高い場所を目指す。
帝国の城には5つの塔があるようだが、真ん中の塔が一番高いようだ。
「ハティ、あの塔か?」
「ワンワン!」
「よし、じゃあ肩に乗ってくれ。一気にジャンプする」
ハティが肩に乗ったのでジャンプする。
これだけジャンプ力があると、狙い通りの場所に飛ぶのはなかなか難しいが、長年の経験により身体が無意識に調整してくれる。
塔の側面にある窓から侵入しようと窓に足をかけた。
すると目の前には火の玉が迫っていた。
突然すぎて一瞬混乱し、ガードが遅れる。
「ウォン!」
ハティが吠えると火の玉とコメットの間に氷の壁が生まれた。
火の玉は氷の壁にぶつかると盛大に爆発し、塔の上部を吹き飛ばした。
「ウィンド」
コメットは空中に投げ出されたが、風魔法で浮かぶ。
すると、砂煙の中から人型の何かが現れた。
黒い顔に角が生えている。鎧も剣も全てが黒い。夜に戦ったら保護色で何も見えないだろう。
「黒いものが好きなんですか?」
どうしても気になったので聞いてみた。
「ああ、黒い物が好きなんだ。だから、世界を黒く染め上げたいのさ」
あ、この人関わっちゃいけないタイプの人だ。
「えーっと、失礼ですが、魔王さんですか?」
「闇こそが真実なのだ。皆はそれが解っていない……」
あ、会話のキャッチボールも出来ない人なんだ。本格的にヤバい人だぞ。
「あー、多分魔王っぽいんで倒しちゃいますよ?後で人違いでしたーとかやめてくださいよ?」
「貴様も光に寄っていく蛾なのだな。貴様は死を以て真実を知ることになるだろう!」
「殺せるものならやってみてください!」
「無限なる常闇の力よ」
魔王が聞いたことのない呪文を詠唱する。
「全てを吸い込め ブラックホール」
魔力の規模からして上級魔法である。
魔王とコメットのちょうど中間に黒い球が発生し、全てを吸い込み始める。
塔の瓦礫や、城の屋根が吸い込まれていく。
「吸引力の変わらないただ一つのブラックホールですか!」
コメットは風魔法で離れようとするが、段々吸い込まれつつある。
「勇者よ、お前の力はこんなものか?」
「勇者じゃないんですけど!人違いなんですけど!」
弱化の装備を全て外す。
空気を蹴る。
逃げる方向ではなくブラックホールの方向に向かう。
拳に魔力を込める。
ブラックホールをストレートパンチで殴りつける。
「やったか!?」




