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「あ!結局、魔王の場所を聞きそびれてしまった……」


「ワン!」


「お、もしかしてハティなら匂いで分かるのかい?」


「ワンワン!」


 ハティは任せろと言いたげな風に堂々としている。


「じゃあ、案内は任せたぞハティ!」


 ハティが走り出したので付いていく。


 しばらく廊下を走っていくと突然ある部屋の前で止まった。


「ハティ、本当にここなのか?全然高い場所じゃないんだけど」


 そう言いつつも扉を開ける。


「え……?」


 そこは調理室で、料理人がステーキを焼いているところだった。ハティはまた肉の匂いに釣られたのだ!


「お前達、使用人じゃなさそうだな。客人か?」


 料理人にしては乱暴な言葉使いだ。


「ええ、客人といえば客人ですね」


「ステーキ食いたいのか?」


「は、はい。特にこのハティが食べたいようです」


 ハティを指差す。


「いいぞ、ほら皿に盛ってやる。2人とも食え」


「ありがとうございます」


 ステーキは絶品だった。


「ごちそうさまでした、失礼しました」


 怪しまれる前にそそくさと部屋を出る。


「ハティ、肉の匂いじゃなくて魔王の匂いを追ってくれよ」


「ウォン!」


 ハティは吠えると窓を突き破って外に出た。


「なるほど、外から見れば一番高い塔がすぐに分かるな!ハティやるじゃないか!」


 ハティと共に屋根に飛び乗り、どんどん高い場所を目指す。


 帝国の城には5つの塔があるようだが、真ん中の塔が一番高いようだ。


「ハティ、あの塔か?」


「ワンワン!」


「よし、じゃあ肩に乗ってくれ。一気にジャンプする」


 ハティが肩に乗ったのでジャンプする。


 これだけジャンプ力があると、狙い通りの場所に飛ぶのはなかなか難しいが、長年の経験により身体が無意識に調整してくれる。


 塔の側面にある窓から侵入しようと窓に足をかけた。


 すると目の前には火の玉が迫っていた。


 突然すぎて一瞬混乱し、ガードが遅れる。


「ウォン!」


 ハティが吠えると火の玉とコメットの間に氷の壁が生まれた。


 火の玉は氷の壁にぶつかると盛大に爆発し、塔の上部を吹き飛ばした。


「ウィンド」


 コメットは空中に投げ出されたが、風魔法で浮かぶ。


 すると、砂煙の中から人型の何かが現れた。


 黒い顔に角が生えている。鎧も剣も全てが黒い。夜に戦ったら保護色で何も見えないだろう。


「黒いものが好きなんですか?」


 どうしても気になったので聞いてみた。


「ああ、黒い物が好きなんだ。だから、世界を黒く染め上げたいのさ」


 あ、この人関わっちゃいけないタイプの人だ。


「えーっと、失礼ですが、魔王さんですか?」


「闇こそが真実なのだ。皆はそれが解っていない……」


 あ、会話のキャッチボールも出来ない人なんだ。本格的にヤバい人だぞ。


「あー、多分魔王っぽいんで倒しちゃいますよ?後で人違いでしたーとかやめてくださいよ?」


「貴様も光に寄っていく蛾なのだな。貴様は死を以て真実を知ることになるだろう!」


「殺せるものならやってみてください!」


「無限なる常闇の力よ」


 魔王が聞いたことのない呪文を詠唱する。


「全てを吸い込め ブラックホール」


 魔力の規模からして上級魔法である。


 魔王とコメットのちょうど中間に黒い球が発生し、全てを吸い込み始める。


 塔の瓦礫や、城の屋根が吸い込まれていく。


「吸引力の変わらないただ一つのブラックホールですか!」


 コメットは風魔法で離れようとするが、段々吸い込まれつつある。


「勇者よ、お前の力はこんなものか?」


「勇者じゃないんですけど!人違いなんですけど!」


 弱化の装備を全て外す。


 空気を蹴る。


 逃げる方向ではなくブラックホールの方向に向かう。


 拳に魔力を込める。


 ブラックホールをストレートパンチで殴りつける。


「やったか!?」

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