093
一方、ルネはマッドと戦っていた。
「ホッホッ!儂の土魔法と互角に渡り合える者がいたとはのう!岩の力よ 敵を貫け ロックアロー!」
マッドが放った岩の矢がルネに迫る。
「疾風の力よ ブラスト!」
ルネは得意の風魔法で矢を吹き飛ばす。
「では、これならどうじゃ?岩の力よ 壁となれ ロックウォール!むん!」
マッドはロックウォールで作った岩の壁を戦鎚で砕いて大量の岩を飛ばす。
「疾風の力よ ブラスト!あっ!」
風魔法で防御したが、いくつかの岩がルネを直撃した。
ルネの額からは血が流れている。
「どうしたお嬢ちゃん?もう終わりかのう?」
「……」
ルネは岩で弾かれて中身がこぼれたマイバッグを見ていた。中のキノコが潰れている。
「絶対に許さない……!」
「怒ったところで儂には勝て……ん?」
「死の力よ 依代に宿りて我に従え クリエイトアンデッド!」
ルネが用意していた触媒からスパルトイが誕生した。
そのスパルトイの頭には何故かキノコが生えている。
「あの敵を倒せ」
ルネが命令を出すとスパルトイがマッドに襲いかかった。
「なんの!儂は接近戦も問題なく出来るんじゃ!」
スパルトイと互角の接近戦をするマッド。
ドヤ顔のマッドがルネの方を見る。
「なん……じゃと……!?」
そこには5体のスパルトイが誕生していた。
「やれ!」
ルネの号令と共に襲いかかるスパルトイ達。
「ぐっ!ぬおっ!」
さすがのマッドも防戦一方となる。
そこに、ルネの詠唱が響き渡る。
「凄烈なる」
「なんじゃ、その呪文は!?儂にも知らない呪文じゃと!?」
「暴風の力よ」
「この魔力は!これはいかん!」
マッドが逃げようとするがスパルトイに囲まれていて身動きが取れない。
「ストーム!」
「この儂が負けるとはああああああ!」
暴風と無数の真空刃がスパルトイもろともマッドを切り刻んだ。
アンナとルネが戦っている頃、マルクとイザベラは睨み合っていた。
いや、イザベラが一方的に睨み、マルクは怯えていた。
「こんな小童が妾を楽しませることなんて出来るのかえ?」
「出来ません!」
「情けない男じゃのう!もうよい、凍ってしまえ」
イザベラの足元から氷の道が伸び、マルクに向かう。
イザベラのユニークスキルだろう、詠唱もなかった。
「ひいっ!」
マルクは逃げ回るが、氷の道は追尾し続ける。
「これに触ったら僕はどうなるの!?絶対に触っちゃいけない気がする!」
だが、氷の道はずっと残っている為、次第に逃げ道が減っていく。
「もっと逃げなきゃダメだ。もっと逃げなきゃダメだ。もっと逃げなきゃダメだ」
マルクは猛スピードでイザベラから離れると一定距離で氷の道は止まった。
「死ぬかと思ったーーーー!」
マルクの膝はガクガクと震えている。
「やっぱり無理だよ。僕なんかが戦える相手じゃない」
「じゃあ、大人しく死んで頂戴!ダイヤモンドダスト!」
イザベラは霧状の氷を噴射する。
「うわあっ!」
不意を突かれたマルクは避けようとしたが右手が凍ってしまった。
ポーションは持っているが戦闘の最中に飲むことは難しい。
黙り込むマルクを見てイザベラが笑う。
「フフフ、もう打つ手がないことに気付いたようじゃな」
マルクはイザベラの言葉も聞かず呟いている。
「こんな時、コメットさんならどうするんだろう?僕にあるのは速さとコメットさんから貰った風属性の短剣2振りだけだ」
マルクは覚悟を決めた顔をして、口に短剣を咥える。
左手にはもう一振りの短剣を持つ。
「まだ妾に逆らうか!」
怒りの形相になったイザベラの周りをマルクはグルグルと走り始める。
そして、だんだんと加速していく。
「なんじゃ、気でも狂ったのかえ。どれ、邪魔してやろう」
イザベラは余裕の笑みを浮かべ、氷の道を伸ばす。
だが、氷の道はギリギリ届かない。マルクはイザベラの攻撃範囲を計算して動いていたのだ。
「くそ!小賢しい真似を……って、小童はどこじゃ?」
マルクの行動は先程と変わっていない。ただ、加速し続けているのだ。残像しか見えないほどに。
「ま、まさか!」
イザベラがその事に気付いた時にはもう遅かった。
マルクは円運動からイザベラの方角に進路を変更した。
イザベラから見ると横の動きから急に点の動きに変わった為、マルクを見失うことになった。
イザベラは氷の盾を生み出し、更に腕で急所をガードする。
マルクは左手の短剣に魔力を込めると下から上に斬り上げた。
風の斬撃が飛び、イザベラの盾と腕が跳ね上げられた。
マルクは更に速度を上げ、咥えた短剣と共にイザベラと衝突した。




