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帝国との国境まではちらほらとはぐれデーモンが居る程度だったので、マルク君が鉄球の投擲で難なく倒した。
帝国側の国境から一番近い街はコメットが最初に入った街である。
「帝国の国境から最寄りの街はイーストウッドという街ニャ。その街は悪政のせいで疲弊していたけど、最近領主の方針が変わったのか活気があるらしいニャ」
ナビはマントの裏に描かれた世界地図とメモらしき物を見ながら案内する。
「そのマントの中は地図になっていたんですね」
「そうニャ。この地図は生涯をかけて作り上げた物ニャ。くれと言われてもあげられないニャ」
「くれなんて言わないから安心してください」
うーん、イーストウッドに入る時に元エディア共和国の人間だとバレると厄介だよな。
「よし、イーストウッドは避けて行きましょう。ただし、街の様子を見てデーモンが居るようだったら排除します」
各自、頷いて街から少し離れた場所で野営の準備を始める。
その間に俺は隠遁のローブを着て、街に潜り込んだ。
「安いよ安いよー!帝国で一番美味しい熊肉だよー!」
「ここの領主様を改心させたというナスディーの実だよ!買っていかないかい?」
初めてここに来た時より活気があるように感じた。
特にデーモンの気配も感じられない。
問題なしと判断して野営場所に戻った。
「街の様子はどうでした?」
アンナが聞いてきた。
「特に問題はなかったです。デーモンの気配もありませんでした」
「それなら良かったです」
「熊肉の串焼きとキノコのスープを買ってきましたよ」
「キノコスープ!?」
ルネのキノコセンサーが反応している。
「全員分あるので、落ち着いて下さい」
全員で夕食を食べた。
熊肉は少し臭みがあるが、スパイスが塗り込んであるので美味しい。
キノコスープは何のキノコなのか判別不能だが、鑑定の結果毒ではなさそうなので美味しくいただいた。
夜の見張りはアンナとルネとマルク君が交代でやってくれるそうなので、お言葉に甘えることにした。
夜中にマルク君の悲鳴で起こされたのはちょっと勘弁してほしいね。
翌朝、イーストウッドを出発する。
イーストウッドからまっすぐ西の方向に首都ゲーロがあるらしい。
「でも、イーストウッドからまっすぐ西に進んでは駄目ニャ。魔の谷と呼ばれる大きく深い谷があるのニャ」
「じゃあ、どうするんです?」
「少し南に迂回するとジャンピングブリッジと呼ばれる橋があるのニャ」
「なんか嫌な予感がする橋の名前ですね」
「着いてからのお楽しみニャ」
谷に沿って1日かけて南下すると、橋は見当たらないが、巨大な2つ塔と街が見えてきた。
崖の反対側も同じように2本の塔と街が出来上がっている。
「ここがジャンピングブリッジと名も無き街ニャ!」
「なるほど、やっぱり巨大なゴムで人や物を飛ばしてますね」
「成功率は7割くらいらしいニャ。そのせいで、飛ぶ勇気のない者が集まって街になったらしいニャ」
普通に橋をかければいいのにと思ったが、きっと何か理由があるのだろう。
「さて、飛ぶ列に並びましょう」
「僕は絶対に飛びませんよ!あんなの怖すぎる!ひいいい」
アンナに首根っこを掴まれたマルク君が引きずられて行く。
「マルク君、南無」
しばらく並んでいると、次の次が自分達の飛ぶ番になった。
前に並んでいた冒険者風の男達は失敗したらしく、谷底に落ちて行った。
それを見てしまったマルク君は気絶したので、荷物として飛ばすことにした。
係員がカウントダウンを始める。
「3、2、1、発射!」
物凄い加速度がかかり、その後浮遊感を味わい、落下が始まる。
「念の為、プロテクション!ウィンド!」
衝撃緩和のプロテクションと落下地点調整のウィンドを全員にかけた。
落下地点には巨大なクッションが置いてある。
その後、全員無事にクッションに落下した。
「面白かったです!もう一度やりませんか?」
「面白い」
アンナとルネは気に入ったようだ。
「また帰りにやればいいですよ。今は先を急ぎましょう」
「「はい!」」
ちなみにハティは小型化して肩に乗っていた。
ジャンピングブリッジの街を出たらハティには再度巨大化してもらい、ナビとルネと気絶したマルク君を乗せる。
「このペースなら、2日で首都ゲーロに着きそうニャ!」
あと2日か、待ってろよ皇帝。




