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現在、帝国に向かって走っている。
移動に馬車は使わない。走ったほうが何倍も速いからである。
俺が先頭、2番目がマルク君、3番目がアンナで一列になり走っている。
ルネはAGIのステータスが低いのでハティの背中だ。
通常、急ぎの馬車で5日間かかる道のりを1日半で走り切った。その内の半日は休憩である。
国境付近の要塞が見えてきた。
要塞は帝国兵と魔物に囲まれているようだ。
エディア共和国側はかなり劣勢のようだ。
急いで要塞に向かう。
途中で帝国兵が、こちらに気付いた。
「共和国の援軍か!?それ以上近づくと敵とみなすぞ!」
「俺達は冒険者パーティ【コメリ】だ!押し通らせてもらう!!」
仕込杖イチに大量の魔力を込める。
走りながら居合抜きを行うと、吸魔の斬撃が飛び、直線上の敵が全員魔力切れで倒れる。
そこを走り抜ける。前方の兵士達が道を塞ごうと移動を始めている。
もう一度斬撃を飛ばす。
要塞までの道は死守する。
横から後ろから、矢や槍が飛んでくるが、ルネの風魔法により吹き飛ばされている。
敵兵ゾーンを抜けると今度はデーモンゾーンのようだ。
デーモン達はこちらに気付いて魔法を撃ってきた。
「ロックウォール」
分厚い岩の壁で、全ての魔法を受け止めた。
「次はこっちの番だな」
「ファイアアロー」
500発のファイアアローが空中に出現し、前方のデーモン達に飛翔する。
前方のデーモンはファイアアローに貫かれて灰となった。
また道が出来た。そこを走り抜ける。
走り続けて、ようやくエディア共和国の要塞にたどり着いた。
扉に近づくと、内側で待機していた兵士が扉を開けてくれた。
「開けてくれてありがとうございます」
「いえいえ、援軍に来ていただいてありがとうございます。将軍がお待ちです」
将軍?要塞から見ていたのかな。
「分かりました」
兵士についていくと作戦室のような場所に着いた。そこには兵士達よりも豪華な鎧の男が待っていた。
「ようこそ、我が要塞へ。私はバルトロメ・ダルガ将軍だ。貴殿はもしや、かの有名な冒険者のコメット殿か?」
「はい、コメットと申します。冒険者ギルドからの援軍で来ました」
「おお!そうであったか!たしかミスリル級冒険者だったな?」
「いえ、先日アダマンタイト級になりました」
「なんと!世界に数人しか居ないとされるアダマンタイト級に!それならば先程の戦いも納得できるな!」
「戦況はどんな感じですか?」
「それが、なかなか悪い状況だ」
「数日以内に帝国軍の援軍が2万人ほど到着するようだ。対してこちらの兵士は2000ほど、敵はデーモンも使役していて戦力は雲泥の差だ」
「そうですか、では撤退戦ですか?」
「ああ、そうなるだろう。君たちには敵の包囲網を突破できるだけの力がある。撤退の手助けをしてはもらえないだろうか?」
コメット1人であれば、何万人の敵兵だろうと問題なく倒せるだろう。
しかし、数で包囲され、守るべき味方が大勢居ると話は別である。
ここはやはり撤退するべきなのだ。
「分かりました。敵の包囲網を突破し、ここに居る兵士を無事に逃す役目、引き受けます」
「おお!そうか!もう玉砕覚悟で打って出るしかないと諦めかけていたが、ここにきて希望が持てたわい!」
「では、明日にでも作戦決行ですね?」
「そうだ、もう敵の援軍が合流するまで時間が残されていない。今日はゆっくり休んでくれ」
「分かりました。将軍もゆっくり休んでください」
「ああ、そうさせてもらう。おい!コメット殿一行を客室にお連れしろ!」
「はっ!」
兵士に連れられて客室に入った。
簡素な作りで、ベッドが4つあるだけだ。
床で寝ろと言われないだけマシなんだろう。
早めの夕食を取り、あとは各自の自由時間になった。
「皆さんはここで休んでいてください。俺は要塞を一回りしてハイヒールをかけまくってきます」
「はい」
「分かりました」
「……zzZ」
「ルネもう寝てる!?早っ!!」
アンナが大きなリアクションで驚いている。
俺はそれを見て苦笑しながら部屋を出た。
要塞の中を走り回りながらハイヒールをお見舞いしていく。
「ハイヒール」
「ハイヒール」
「ハイヒール」
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怪我をしている兵士も元気になったようだ。
自分達の部屋に戻ると、3人はもう既に寝ていたので俺もすぐに眠りについた。




