075
部屋に戻ったコメットはやりたい事があった事を思い出した。
死霊魔法だ。
死霊魔法があれば、きっと便利だ。何かデメリットがあるようだったら諦めるけどね。
まずは魔道書を読みながら写本を作ることにする。
今持っている魔道書はルネから借りている物だからだ。
写本を作りながら練習をしてみる。
「死の力よ 依代に宿りて我に従え クリエイトアンデッド」
机に置いた一握りの骨粉から小さなスケルトンが誕生した。
面白いし、割とかわいいな。
次は解放の魔法を試す。
「死の力よ 魂を解放せよ リリースアンデッド」
ミニスケルトンが骨粉に戻った。
あとはこれを繰り返すだけでスキルレベルが上がるだろう。
死霊魔法の鍛練に没頭するあまり、数日が経過した。
コンコンとノックの音が響く。
「セバスチャンか?入ってもいいよ」
「失礼します。シャトラインからの使者がやって参りました」
やっと来たか。思っていたよりも遅かったな。
「じゃあ、謁見の間に行こうか」
「仰せのままに」
服装を整えて謁見の間に行く。
謁見の間の椅子に座ってしばらくするとシャトラインの使者が扉を開け、ズカズカと歩いてくる。
そして使者は立ったまま挨拶もせずにこう言った。
「領地を明け渡さないとは何事だ!元よりここはデブラジオ様の領地だ!このまま明け渡さないと言うのなら武力行使を行う!」
予想通りの展開で笑えてくるよ。親子揃ってそっくりな性格をしているらしい。
「セバスチャン、こいつにも理解できるように簡単に説明してやってくれ」
「承知しました。この土地は正当な対価を支払い購入した土地です。我が主が所有権を主張するのは当然だ。何か問題がありますか?」
使者が答える。
「問題はあるぞ!シャトラインから貴重な人材や資源がここに流れている!これは明確な敵対行為だろう!」
「それはたまたまでしょう。こちらがそれだけ魅力的な土地だというだけです。何か敵対行為をしている証拠があるのですかな?」
「証拠だと!?こちらが下手に出ていれば調子に乗りおって、今デブラジオ様率いるシャトラインの兵がこの街を取り囲んでいるのだぞ!立場を弁えろ!」
「ほうほう、証拠もないのに武力を背景にした脅しをしてくるわけですか。これは返り討ちにしたとしても正当防衛といえるでしょうな」
「な、な、なんだと!」
使者は真っ赤になって怒っている。
最後にコメットが言う。
「お前では話にならない、この話を持ち帰りデブラジオに報告するんだな」
「ぐぬぬぬぬ……そうさせてもらう!後悔することになるぞ!」
最後に捨て台詞を吐いて去っていく使者。
この感じなら武力行使一択になりそうだな。
「セバスチャン、戦闘準備。相手が仕掛けてくるまで動くのは禁止だ。戦闘になった場合も殺してはならない。兵士に罪はないしな」
「承知しました。コメット様からの命令です!散れ!」
セバスチャンの号令で素早く戦闘配置する使用人達。この人達こんな動き出来たんだ。
「セバスチャン、あとは任せてもいい?」
「はい、お任せください」
「俺は見渡せる場所で戦いを見ることにするよ」
「承知しました」
俺は城の屋根に移動する。南の方角には城下町があり、整備中の区画があり、最後に壁がある。
その壁の向こうに2000名程度の兵士が並んでいる。
本来その武力は帝国との牽制として用意されていたものだろう。
しばらくすると2000名の兵士の前で演説する1人の男が見えた。あれがデブラジオだろうか。
ラッパの音が聞こえ、2000名の兵士が雄叫びをあげながら壁に走ってくる。
敵の弓兵が壁の中に弓矢を撃ってくるが、風魔法らしきものに跳ね返されている。
敵の歩兵達は城門の扉を壊そうとしているようだ。しかし、いつまで経っても壊れない。
だって、ロックドラゴンの鱗でコーティングしてあるし、扉自体もウルツァイトで作られているからね。
次に壁に梯子をかけて登ろうとするが、風魔法で落とされている。
扉に対して魔法を撃ち始めたようだが、ロックドラゴンの鱗で無効化されている。
そうこうしていると、矢が尽きたのか撃ってこなくなった。
敵の兵士は全員疲れた顔をしているね。唯一怒った顔で兵士達を怒鳴りつけているデブラジオは元気そうだ。
そろそろかなと思っていると、門が開けられセバスチャンとレッドドラゴンが外に出る。
レッドドラゴンは上空に向けて大きく炎のブレスを吐いた。
敵の兵士は誰も動けなくなり、1人また1人と武器を捨て、最終的に全員が武器を捨てたようだ。
さすがはセバスチャンだ。誰も殺さず傷つけず決着をつけるとは。
セバスチャンが闇魔法を放ち、最後にシャトラインの領主デブラジオは倒れた。
多分、殺してはいないだろう。デブラジオは後で事情聴取しよう。
そう思い、謁見の間に戻ることにした。
謁見の間で待っていると、セバスチャンと使用人達が戻って来た。縄でぐるぐる巻きにされたデブラジオが引きずられている。
デブラジオは中肉中背の男だった。ホソ・デブラジオだからか。
「さるぐつわを外してやってくれ」
どうせ、恨みつらみを言うくらいしかしないだろうけどね。
「ップハ!お前達、ここは私の領地となるのだぞ!こんな事をして済むと思っているのか!」
「やっぱ、さるぐつわしといて」
「ムグー!ムググー!」
「俺達とこの街ヴァリアスを認め、協力するならば、今まで通りデブラジオはシャトラインの領主で居られるようにしよう。条件を飲めなければシャトラインは俺達が管理することになるだろう」
デブラジオは怒ったり、驚いたり、悲しんだりよく分からない表情をしている。
「セバスチャン、こいつの更生を頼んだ」
「畏まりました」
そうしてデブラジオは引きずられていった。
ちなみにシャトラインの兵士達には食事と野営道具一式を与えて、壁の内側で待機させている。
次に使用人2人を呼ぶ。
「2人には今日の出来事の詳細を元老院に伝えて欲しい」
「「はっ!畏まりました!」」
さて、共和国はどう動くかな?




