059
目的地は聖地パルへレム。前回は丸太に乗って飛んで行ったが、今回は本格的にしようと思う。
まず石柱を作ります。本当は他人の建物の柱を貰うのが正式なやり方ですが、今回は近くの岩を削って石柱を作りました。
次に聖地パルへレムの方向に投げます。
投げた石柱に飛び乗ります。
飛ばした石柱に風魔法を当てて加速させます。
「はい、到着しました」
「ワン!」
ハティも起きたようだ。
「ハティ、教会本部に行くぞ!」
以前、パルへレムに来た時、この街は大量の魔物に襲われていた。壊された建物もあったはずだ。今はどんな状態だろうか。
前回は壁を飛び越えたが、今回はちゃんと門を通る。
門には門番の兵士が居て、通過する人々をチェックしている。
「次の者!」
呼ばれたようなので、身分証として冒険者ギルドの登録証を見せる。
「ミスリル級冒険者の方でしたか、お引き止めして申し訳ありません。お通り下さい」
許可が出た。
「えーっと、教会本部はどこですか?あの真ん中の城でしょうか?」
「はい、その通りです」
礼を言って門を通り、教会本部を目指す。そういえばハティの事は何も聞かれなかったな。隠密スキルでも覚えたのだろうか?
街並みはまだ復旧作業が続いている状態のようだ。どことなく人もまばらな印象を受ける。
教会本部の城は真っ白な色をしている。街並みもそれに合わせてなのか白い家が多い。
景色を楽しみながら歩くと城に着いてしまった。
門の扉は閉められており、両脇には兵士が立っている。
「申し訳ありません。突然の訪問をお許し下さい。教会本部で回復魔法を学びたくて参りました。こちらがシャトラインの教会からの紹介状と冒険者ギルドからの紹介状です」
「上長に伝える。そこで待て!」
1人の兵士が紹介状を持って城の中に走って行った。
しばらくすると、門が開き中から人が出てきた。
「私はジェームズ、ここで神官をしている者です」
「俺はコメットです。回復魔法を学びたくてここに来ました」
「ええ、紹介状を拝見したので承知しています。詳しい話は中に入ってからということでいかがですかな?」
「はい、失礼します」
ジェームズが先を歩き案内をしてくれる。この城には一度入ったことがあったが、一番頂上の部屋しか知らない。門から入って改めて見ると城の大きさに驚いた。
「大きな城ですね。さすが聖地と呼ばれる場所ですね」
「ええ、ここには代々教皇様が住むことになっています。初代教皇様が聖地に相応しいものとなるようにこの素晴らしい城を建てられたと聞いています」
「なるほど、そういうことでしたか」
そんな会話をしていると目的の部屋に着いたようだ。
「ここでお待ちください」
そう言ってジェームズは部屋を出ていった。
しばらく待っていると部屋の扉が開き、ジェームズと10代前半と思われる女の子が入ってきた。
「あなたがコメット様ですか?」
「はい。そうですが、あなたは?」
「失礼しました。私はシャルロット・コーブルク・ド・パルム。この国の教皇です。この度は聖地パルへレムを救っていただきありがとうございました」
教皇と名乗った少女が立ったまま頭を下げてきたので、こちらも慌てて立ち上がり頭を下げてしまった。
「いえいえ、教皇様ともあろうお方がこんな平民に頭を下げるなんて恐れ多いです」
「コメット様、教皇様はどうしても直接感謝を伝えたいとご所望でしたので、このような場を設けさせていただきました」
ジェームズが説明してくれた。
「そういうことでしたか、感謝は受け取りましたから教皇様もジェームズさんも座ってください」
このままでは回復魔法の話が進められないので、座るように促す。2人は素直に座ってくれた。
「それで回復魔法は教えていただけるのでしょうか?」
「ジェームズ、説明をお願いします」
「コメット様、回復魔法は教会の規則で神官にしか伝授することを許されていません」
「はい。シャトラインの教会でもそう聞きました」
「コメット様は神官になるおつもりですか?」
「いいえ、今は他にやりたいことがあるので神官にはなれません」
神様を信じているわけでもないし、神官になる資格もないと思っている。
教皇様は少し残念そうな表情をしている。
「そうですか。ならば、回復魔法をお教えすることは出来ません」
ジェームズは回復魔法を教えることは出来ないと言い切った。
やっぱり正攻法では教えてもらえないようだ。では次の策だ。
「そうですか……。それならば仕方がありません。諦めます」
すごく残念そうな空気を醸し出して、一呼吸置く。
「では、せめて回復魔法を俺にかけていただけないでしょうか?どのような回復魔法があるのかを身を持って知りたいのです」
これが秘策である。詠唱を覚えて魔法をコピーしてしまえばいい。
「それくらいならば良いと思われますが、教皇様いかがいたしますか?」
「恩人の頼みです。もちろん許可します」
「ですが、念の為、詠唱が聞こえぬようにコメット様の耳を塞がせていただきます。口元も布で覆わせていただきますがよろしいですね?」
なんだって!?これはマズい。何か考えろ俺!
「それでは、何という魔法をかけてもらったのか分かりませんので、魔法をかける前に魔法名だけでも教えてもらえますか?」
「良いでしょう」
ふー助かった。実は詠唱は最初から覚える気はないのだ。魔力感知10の力でマジックホールの動きを観察し、あとはトリガーとなる魔法名さえ分かればコピーは可能となるのだ。
「ジェームズ、回復魔法が得意な者を呼びなさい」
「はい、呼んでまいりますので少々お待ちください」
ジェームズが部屋を出ていく。
「コメット様はミスリル級冒険者なのですよね?」
「はい、紹介状にそう書かれていました?」
「ええ、書かれていました。とてもお強いとも。もしまたパルム教皇国が危機に陥ったら助けていただけますか?」
「はい、いいですよ」
そう答えると、教皇様は嬉しそうに微笑んだ。
「その肩に乗っているのは、ワンコですか?」
「ハティと言います。触ってみますか?」
教皇様はハティが気に入ったようだ。
その後は他愛ない雑談をしていると、ジェームズがトカゲ獣人の神官を連れて戻ってきた。
「連れて来ました。神官のザハギです。回復魔法を得意としています。早速始めましょう」
ザハギは既に口元を布で覆って準備完了した状態だ。
「はい、お願いします」
「まずは基本のヒールです。魔法をかけた相手の体力を回復します」
耳を塞がれる。
魔力感知に集中する。
マジックホールの動きがはっきりと分かった。
直後、自分の身体がパァっと光った。ヒールが発動したようだ。
耳栓が取られる。
「次は、ハイヒールです。ヒールの上位魔法です。効果が高くなります」
先程と同じ手順で繰り返される。
「次は、リカバーです。毒、麻痺などの状態異常を回復します」
「次は、ディスペルです。石化、呪いなどの状態変化を回復します」
「次は、プロテクションです。防御力が上がります」
「次は、マジックレジストです。魔法防御力が上がります」
「回復魔法は以上です。いかがでしたか?」
回復魔法の実演が終わったようだ。
「とても貴重な体験が出来ました。ありがとうございました」
もう今すぐにでも試したい。回復魔法を使ってみたい。その為には、この場を早く切り上げるべきだ。
「今夜は、コメット様の歓迎会を準備しております」
「あっ!そういえば急用を思い出してしまいました!本当に申し訳ありませんが、今日は帰りますね!これは寄付です。迷惑料とでも思ってください」
白金貨10枚を渡して、返事も聞かずに部屋を出た。
よし、早速自宅に戻って回復魔法の練習だ!




