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「こんにち「ワン!」」
冒険者ギルドに入って挨拶をする。
冒険者達はもう慣れてしまったのか、驚かなかった。
受付に行き討伐依頼の完了報告をする。討伐証明部位がよく分からなかったので牙を1本だけ持って来た。
「依頼達成の手続きが完了しました。金銭の報酬はありません。報酬は全て冒険者ランクアップとなります」
「へ?」
「コメット様にちゃんと説明したはずです。ポポ村には払える報酬がない為、全て冒険者ランクのアップで支払われます、と」
そうだったんだ。ちゃんと聞いてなかったとは言えない。
「そうでしたそうでした!アハハ、問題ありませんよ!」
「コメット様は現在白金級ですから、ミスリル級への昇格となります。登録証をお預かりしますね」
「はい」
登録証を渡すと、代わりにミスリルで出来た登録証を渡される。
ミスリル級か、ちょっと自慢出来そうなランクにはなれたかな。今度、レイナルドとヘレナに会ったら自慢しちゃおうかな。
だが、最後に2人と別れた時の記憶が蘇る。あの時たしか2人に闇魔法で目くらましをしたんだった。絶対にヘレナは怒っているだろう。
よし、2人に会うのはしばらくナシだ。
ポーション類を買い足してから、一旦自宅に帰ることにする。
シャトラインの郊外と言っても一般人が歩いて2日ほどかかる程度には遠いところに自宅はある。
今はロックドラゴンのおかげで道路が整備され、1日で行けるようになったらしい。今初めてその道を通っている。
道には、行商人や職人や農民が行き交っている。中には冒険者のような出で立ちの者も居る。
何故、この人たちは俺の自宅に向かっているのだろうか?
いつも慌ただしく森を駆け抜けていたので気付かなかったのだ。
冒険者風の男に聞いてみる。
「こんにち「ワン!」そこの冒険者の方、この先に何をしに行くのですか?」
「びっくりした、肩に乗ってるのは犬か。何しに行くのかって?そりゃあ当然、仕事だよ」
「どんな仕事ですか?」
「冒険者の仕事と言えば魔物を討伐することだろ」
当たり前のことを聞くなという目で見てくる。
「なるほど、目的の魔物は何ですか?」
「なんでそんなことをお前に教えてやる義理があるんだ?」
「すみません、興味があるだけなんです。これはお礼のポーションです」
「おう、そうかい。なら教えてやってもいいか。北の森には凶暴なジャイアントビーやバーサークバードが居るんだが、素材が高く売れるんだよ。この道が出来たから早く行けるようになったしな」
「なるほど、そういうことでしたか」
セバスチャンやオークキング達の正体がバレて討伐対象に指定されたのかと思って焦ってしまった。
「しかも、この先の土地が開拓されてて城が建っていたり、宿があったり、露店が並んでいたり、物凄い賑わいなんだ。料理も美味いしな」
「え!?」
「なんだお前、そんなことも知らずに向かってたのか?着いたら驚くだろうよ」
そういうと冒険者はポーションを受け取り、離れて行った。
俺の土地ってそんなことになってんの?
聞いてないよセバスチャン!
俺は行商人や職人達と同じペースで歩いて行くことにしてみた。
道中で道路に使われている石を持って帰ろうと頑張っている奴が居たが、生半可なSTRではビクともしないようだった。
さすがロックドラゴンの鱗。たしかにロックドラゴンの鱗を売れば一攫千金かもしれないな。
STRが高い奴が来たときの対策をしておいたほうがいいかもしれない。後でセバスチャンに伝えておくことにする。
他の人にも話を聞いてみよう。
「商人さん、何の商売をしているんですか?」
「冒険者の方ですか?」
「はい、冒険者のコメットと申します」
「そうでしたか!私はゴールドマン。商人です。私は冒険者向けの商品を売ろうと思いまして、北の開拓地に向かっているんです」
「なるほど、じゃあ、いつかゴールドマンさんの商品にお世話になるかもしれませんね」
「そうですね、是非買ってください。開拓地に行く目的はもう1つありまして、家畜野菜を買い付けてシャトラインで売ろうと思っているんですよ。家畜も野菜も評判が良いので」
「なるほど」
と、話をしているとゴールドマンは馬車の御者から呼ばれて行ってしまった。
なんだか自分の土地で静かに暮らそうとしてただけなんだけど、いつのまにか凄いことになってきたな。自分は何もしてないけど。
この日はゆっくり1日かけて景色を楽しみながら自宅へと帰ったのだった。




