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053 閑話3 コメット探偵の1日

 ある日のこと、コメットは魔術師ギルドに来ていた。


 魔法大学の特別顧問となった事で、年間責務は免除となった。


 しかし、やらなくていいと言われるとやりたくなったりするものである。


「こんにち「ワン!」」


「こんにちは、コメットさん」


コメットとハティはシャトラインの魔術師ギルドに来ている。


「何か依頼はありますか?」


「ありますよ。でも珍しい依頼なのでやめたほうがいいかもしれません」


「どんな依頼ですか!?そういう依頼を待ってたんです!」


「それなら説明しますね。先日起こった事件の調査をしてほしいという依頼です」


「事件……ですか」


「はい、とある魔術師が殺された殺人事件なんですが、その手口に不可解な点が多く魔術師の視点でアドバイスが欲しいとのことです」


 なにそれすごく面白そう。


「その依頼受けます!どこに向かえばいいですか?」


「街の東に衛兵の兵舎があるので、まずはそこを訪ねて下さい」


「分かりました」


 兵舎に急ぐ。


 兵舎の扉をノックすると、衛兵が現れた。


「こんにち「ワン!」、魔術師ギルドから派遣されてきましたコメットと申します」


「ああ、魔術師か。助かるよ。中に入ってくれ、詳細を説明しよう」


「はい、お願いします」


 中に入ると、テーブルと椅子がある。


「まぁ、座ってくれ」


「分かりました」


「俺はパベルだ。よろしく頼む。早速説明に入らせてもらう。先日、とある魔術師が自宅で殺害される事件があった」


「ふむふむ」


「魔術師は後ろから剣で刺されてうつ伏せに倒れていた。これは他殺である証拠だろう」


「たしかに、そうですね」


「だが、その魔術師が倒れていた部屋は全て内側から鍵が掛けられていたのだ」


「明らかに他殺なのに密室だという事が不可解というわけですね?」


「そうだ。魔術師としてそんなことが可能なのか調査してほしい」


「分かりました!早速向かいます!」


 地図と家の鍵を受け取り、問題の家に向かう。20分ほど歩くと到着した。


「ここか、早速入ってみよう」


 鍵を開けて入る。


 玄関を入って右に部屋がある。部屋の扉は無くなっている。扉は蹴破られ、地面に転がっている。内側からしか鍵が閉められないタイプの扉だ。ここが密室だった場所だろうか。


 部屋に入ると、血のついた絨毯がそのままにされていた。


 なるほど、ここで被害者の魔術師は倒れていたんだな。


 出血量から考えて、ここで殺されたのは間違いないようだ。


 辺りを見回すが、何もない部屋だ。生活感がまるでない。


 まるで犯人が片付けたかのようにも感じる。


 魔力感知を最大にしてみる。


 すると、部屋の入り口と窓に水属性の魔力が微かに残留しているのが分かった。


 水属性の魔法を使って密室殺人を行ったのか?一体どうやって?


 情報が足りないと感じた俺は兵舎に戻ることにした。


「パベルさん、現場を見てきましたよ」


「おお、どうだった?」


「まだなんとも言えません。第一発見者の方をご存知ですか?」


「ああ、第一発見者はあの家の大家さんだよ。高齢のおばあさんだよ」


「その方は魔法が使えたりしますか?」


「いや、普通の一般人だ。それに事件当時のアリバイもある」


「アリバイですか?」


「ああ、その日は死体を発見するまでずっと友達数名と紅茶を飲んでいたらしい。もちろん確認は取った」


「なるほど、そのおばあさんに話を聞いてもいいですか?」


「許可する。どれ、おばあさんの家を地図に書き込んでやろう」


「ありがとうございます」


 兵舎を出て、おばあさんの家に来た。


 ノックをすると、おばあさんが出てきた。


「突然訪問してすみません、魔術師のコメットと申します」


「これはご丁寧にどうもね、あたしゃベニータ。ベニータばあさんと呼んどくれ」


「ベニータばあさん、俺は衛兵からの依頼で先日起こった殺人事件について調査をしています。当日の事についてお聞きしても?」


「そうかい、立ち話もなんだから家にお入り」


「お邪魔します」


 家に入ると小綺麗な部屋に案内された。普段からここでお茶会でもしていそうな雰囲気だ。


「それで、当日の事についてだったかい?」


「はい、思い出せる範囲で結構ですので、出来るだけ詳細にお願いします」


「そうさね、あの日は、午前中ずっとこの部屋でお友達とお茶会をしてたんだよ。お昼も一緒に食べて、午後は日課の掃除をしたよ」


「お友達は何人来ていたんですか?」


「2人だよ」


「2人のどちらかは魔術師だったりしますか?」


「ああ、2人とも昔魔術師だったみたいだねぇ」


「水の魔法が得意だったり?」


「ああ、たまにコップに水を出してもらったりしたよ」


 これは気になるな。


「話を戻しますが、事件のあった家も掃除しているんですか?」


「そうだよ。あそこの管理はあたしがやっとるんだからね。あの日もいつも通り家の周りを掃除しとった」


「ふむふむ」


「でも、あの日はいつもと違った。何か気になって窓を覗くと人が倒れとった!あたしゃ慌てて衛兵を呼んだのさ」


「何故、窓から覗いたんですか?いつもは覗かないんですよね?」


「はて、なんだったかね。その後が衝撃的だったから思い出せないねぇ」


「そこをなんとか思い出せないですか?例えば、水に関係する何かがありませんでしたか?」


「水……ああ!そう!窓に氷柱(つらら)があって気になったんだよ!しかも変な形だった。矢印のような形で、それのせいで中を見たんだよ」


「矢印の氷柱……」


 これは犯人の仕業に間違いないだろう。しかし、何故そんなことを?


「お友達の2人をここに呼んでもらえますか?」


「ええ、そろそろお茶会をしにここに来る予定よ」


 10分後、2人がやって来た。コメットは事情を説明し、質問をさせてもらうことを了承してもらった。


「では、ホセフィーナさんに質問です。水魔法を使うことは出来ますか?そして氷を出すことは出来ますか?」


「水魔法は使えますが、氷は出せません。水魔法のレベルが低いので」


「なるほど、ではソフィーヤさんはどうですか?」


「私は火魔法しか使えません」


 実はこっそり鑑定で確認済みである。


 コメットは必要に迫られない限りは人に対して鑑定を行わない方針である。


 2人は事件とは無関係だった。また振り出しに戻ってしまった。


「分かりました。お二人への質問は以上です。もし何か気付いたことがありましたら、兵舎のパベルさんまでご連絡ください」


 そう言って立ち去ろうとすると


「そういえば、衛兵の方が来てくれてからあの家の玄関の鍵を開けようとした時、気になることがあったねぇ」


「気になること?」


「たくさんの鍵の中からあの家の鍵を探すのに手間取ってしまったんだ」


「ふむふむ」


「その時、衛兵の方が私に玄関の鍵は開いている可能性があるからまずは試してみたらどうだって言われてね」


「なるほど」


「それで試してみたら本当に玄関の鍵は開いていて驚いたことを思い出したわ」


「その衛兵の名前は覚えていますか?」


「たしか、エンリケさんだったかしら」


「ありがとうございます。俺は行かなきゃいけない場所がありますので、これで失礼します」


 おばあさんの家を出て、兵舎に急ぐ。


「パベルさんとエンリケさんを呼んでください」


「コメット君、何か分かったのかい?」


「なんで俺が呼び出されなきゃいけねぇんだ?」


「先日の魔術師殺人事件についてエンリケさんにお聞きしたいことがありまして」


「俺はお前に話すことなんて何もねぇよ」


「いいえ、あります。第一発見者と一緒にあの家の玄関に入ったそうですね?」


「チッ……ああ、そうだよ」


「エンリケさんは、第一発見者が玄関の鍵を探して手間取っている姿を見ましたか?」


「ああ、見たよ」


「第一発見者に対して玄関の鍵は開いているかもしれないから、まずは開けてみろとも言いましたね?」


「ああ、言ったよ。それがどうした?」


「玄関の鍵が開いていたことを知っていたんですか?」


「はぁ?そんなこと知っているわけないだろ!」


「その日のアリバイはありますか?」


「てめぇ、俺が犯人だと疑っているのか?」


「いいえ、疑っているわけじゃありません。犯人じゃないことを確認したいだけです」


「では、次はパベルさんに質問です。エンリケさんは水魔法が使えますか?」


「エンリケはたしか、元魔術師だったはずだ。水魔法が使えると聞いたことがあるな」


「おい、俺の情報を勝手に言うんじゃねぇ!」


「エンリケさん、魔法で氷を作り出すことは出来ますか?」


「……出来ねぇよ」


 はい、ダウトー。こっそり鑑定で既に氷を作り出せることは確認済みだ。


「第一発見者は窓の氷を見て、事件のあった部屋を覗くことになったと証言しています。本当にエンリケさんは氷が作り出せないのでしょうか?」


「俺は氷なんて作れねぇ!ましてや窓に氷柱(つらら)なんて作れるわけがねぇんだ!」


 それを聞いてコメットはニヤリと笑った。


「誰も窓に氷柱(つらら)があったなんて言ってませんよ。どうして第一発見者と犯人しか知らない情報を知っているんでしょうか?」


「な、なんとなくそう思っただけだ!もし仮に俺が犯人だとしても、密室で殺人は出来ねぇ!密室での殺人を説明できなけりゃ不審死で処理されるだろうよ」


「では、説明しましょう。あの日、エンリケさんは魔術師の背中に剣を突き殺害しました。そして堂々と部屋を出て扉を閉めます。扉の下の隙間から氷魔法を流し込み氷のストッパーを作ったんです」


「なるほど、そうすれば鍵がかかっているように錯覚してしまうな」


 パベルさんが頷く。


「だが、氷なんかすぐ溶けちまうだろうが!そんな方法は無理だ!」


「そうなんです。だから、窓に矢印の形をした氷柱を設置して、発見されやすくしたのでしょう。鍵を探すのに手間取るおばあちゃんにアドバイスしたのも早くしないと氷が溶けてしまうからですよね」


「エンリケ、お前を拘束させてもらう!魔道具を使用した尋問だ。嘘はつけないぞ」


 がっくりとうなだれるエンリケ。


「あいつが悪いんだ。魔術師時代に俺の研究論文を盗みやがった。そのおかげで俺は年間責務を達成出来ず、魔術師ギルドを辞めたんだ。全てあいつのせいなんだ!」


「この国には法がある。お前はそれを承知でこの国に住んでいるはずだ。自分の犯した罪を認めて法の裁きを受けるんだな」


 こうして、魔術師ギルドの珍しい依頼は幕を閉じた。

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