052 閑話2 レイナルドとヘレナの冒険
レイナルドとヘレナは2人とも白金級冒険者であり、パーティとして長く活動している。
冒険者ギルド長からの依頼でコメットと知り合い、少し経った頃の事である。
「ヘレナ、これから冒険者ギルドに行くよ。ギルド長がまた頼みたい仕事があるらしい」
「あたしは嫌よ。まだ前回の報酬を全額貰ってないのに」
「仕方がないさ、その報酬ってギルド長のポケットマネーだろうからね。それに俺達は冒険者なんだ。ギルド長に恩を売っておいて損はないよ」
「まぁ、一理あるわね。仕方がない、話だけは聞いてあげるわ」
こうして2人は宿屋を出て冒険者ギルドに向かうのだった。
しばらくし、冒険者ギルドに着いた2人は受付に行く。
「こんにちは、サリーさん。ギルド長から呼ばれて来たんだが」
「こんにちは、レイナルド様、ヘレナ様。応接室でお待ちください。ギルド長を呼んで参ります」
「分かった」
2人は応接室へと通され、椅子に座って待つ。2〜3分後、ギルド長が入ってきた。
「来てくれてありがとう!正直なところ、今回は困り果てていてな。先日指名依頼をしたばかりのレイナルド君とヘレナ君には頼みづらいところもあるのだが、とりあえず話を聞いて欲しい」
「分かりました」
レイナルドが代表して返事をする。
「最近、ガーマ帝国との国境付近に正体不明の魔物が現れるとの事だ。目撃者はヴィンチ村の農民だ。そこで2人に調査をお願いしたい。出来れば生け捕り、無理ならば死体を持ち帰って欲しい」
「あたし達がやらなきゃいけない事なの?他の金級冒険者でも十分な気がするんだけど」
「実は、帝国の動きがきな臭いのだ。このエディア共和国かパルム教皇国に戦争を起こすんじゃないかと言われている。魔物の調査中に帝国に関連する不測の事態が起こる可能性もある」
「なるほど、そこで白金級の俺達にしか出来ないというわけですね」
「そういうことだ。無理を言っているのも分かっている。だから報酬を2倍にする。依頼を受けてはくれないか?」
「やりましょう!」
「ちょっとレイナルド!ここは報酬をもっと上乗せさせるチャンスだったでしょうが!」
「ヘレナ、ギルド長には散々お世話になっているんだ。俺は受けるべきだと思う」
「仕方ないわね。報酬は終わってから相談ということでいいわ!」
「すまない。2人とも頼んだぞ!」
こうして2人は準備を整え、ヴィンチ村に向かった。
2人はヴィンチ村行きの馬車に乗ってから5日経過した頃、ようやく村にたどり着いた。冒険者ギルドの依頼で来た冒険者であると説明すると村長の家に案内された。
「ようこそおいでくださいました。村長のドギーです。こっちが目撃者のマイクです」
2人とも犬獣人のようだ。
「俺は白金級冒険者のレイナルド。こっちは同じく白金級冒険者のヘレナだ」
「おお!白金級ですか!こんな村の為にありがとうございます!」
「お気になさらずに。それで詳細を教えていただいてもよろしいですか?」
「では、マイク。説明してくれい」
「おらは毎日、村の畑で農作業さしてるんだ。あの日は畑に必要な害虫の嫌がる草を探しに西の森に入っただ。その時、森の奥から不気味な雄叫びが聞こえてびっくらこいて逃げてきただよ」
「不気味な雄叫びですか?オークやゴブリンではないですか?」
「オークでもゴブリンでもなかっただよ。長年ここで暮らしてるけんど、初めて聞く恐ろしい声だべ」
「なるほど、ありがとうございました。あとは実際にそこへ調査に行ってみます」
レイナルドとヘレナはとりあえずその日は村に一泊し、次の日の朝に西の森に向かうことにした。
翌朝、目撃したという森に来てみた。鬱蒼とした暗い森である。
レイナルドとヘレナは西側(帝国側)に向かって歩いていく。
1時間ほど歩くと
「グオオオオオオオオオ」
遠くから声が聞こえる。お互いに顔を見合わせるレイナルドとヘレナ。
「行くぞ!」「ええ!」
声が聞こえた方向に走る。少し開けた場所に出た。
そこには1階建ての建物が建っていた。
「多分、ここだよな?」
「入ってみるしかないわね」
音を立てずに近付いて建物の中に入る。
中は暗く、細い通路が続いている。たまに部屋の入り口があるが、ほとんど何もない部屋となっている。
しばらく進み続けると地下に続く階段が現れた。
「地下か、嫌な予感がするわね」
ヘレナの予感はよく当たる。
「だが、行くしかないだろう」
地下に降りると、また通路が続いている。歩き始めると
「グオオオオオオオオ!」
「「!!」」
すぐ近く、通路の先から声が聞こえた。2人は黙って走り出した。
通路の先にある部屋に飛び込むと、そこには黒いローブの人間4人とレッサーデーモンらしき魔物が居た。
レッサーデーモンの下には魔法陣が描かれており、召喚の儀式をしたようだ。
「誰だお前たちは!」
黒いローブの男が叫ぶ。
「火の力よ 敵を貫け ファイアアロー!」
答える代わりに魔法を放つヘレナ。
だが、レッサーデーモンが腕で魔法を弾き返す。
その間に踏み込んでいたレイナルドの横薙ぎの剣によってレッサーデーモンの胴が上下に分かれる。
黒ローブ達はその間に部屋の奥にある通路から逃げている。
「待て!」
レイナルドとヘレナは慌てて追いかけると、通路の両脇にある部屋から2体のレッサーデーモンが現れた。
「2匹か……最速で倒すぞ!」
レイナルドは狭い通路で2匹に突進する。突きを放ち、片方のレッサーデーモンの脚を斬りつける。
その直後、レイナルドは伏せる。そこにファイアアローが飛来し脚を怪我したレッサーデーモンの頭を炭にした。
一瞬で同族が殺されたレッサーデーモンが驚いて隙を見せた。レイナルドはその隙を見逃さず、剣の一閃でレッサーデーモンの首を切り落とした。
「逃げられる前に急ぐぞ!」
「分かってるわよ!」
更に走って奥に行くと広い部屋にたどり着いた。黒ローブ4人もそこに居る。
「諦めて捕まる気になったか?」
レイナルドが尋ねる。
「そうではない。お前達を排除することにしたのだ!いでよ!ハイデーモン!」
先程の魔法陣よりも大きく複雑な魔法陣からハイデーモンが召喚された。
「ワレ ヲ ショウカン シタノハ オマエカ」
「そ、そうだ!命令だ、あそこの2人を殺せ!」
「フム……」
ハイデーモンは考える素振りを見せた後、腕を振るい黒ローブ4人の首を切り落とした。
仲間または従属しているわけではなかったようだ。
「ツギハ オマエタチダ」
ハイデーモンがレイナルドとヘレナを見る。
「ヘレナ!いつも通りの作戦で行くぞ!」
走り出しながらレイナルドがヘレナに声をかける。
それを聞いたヘレナが詠唱を始める。
レイナルドが剣でハイデーモンの首を斬りつけるが腕でガードされる。
「キンッ」
腕の音とは思えないような音が響いた。
「火の力よ 敵を貫け ファイアアロー」
ハイデーモンに向かってファイアアローが飛ぶ。
ハイデーモンがファイアアローを手で払うと火の矢は掻き消えてしまった。
レイナルドはハイデーモンの脚を斬ろうと試みたが逆に蹴り飛ばされた。
後ろに飛び威力を殺したおかげで無傷ではある。
「こいつはなかなか強いわね」
「作戦Cで行こう」
「それしかないようね」
レイナルドがハイデーモンに肉薄し、斬り結ぶ。
「炎の力よ」
ヘレナの詠唱が聞こえたレイナルドは後ろに後退する。
「敵を貫け」
レイナルドは大きくジャンプし剣を大上段に構える。
「ファイアジャベリン!」
火の槍が出現し飛翔する。しかし、ハイデーモンではなくレイナルドに向かって行く。
ファイアジャベリンはレイナルドの剣に命中、剣と一体化し魔法剣のようにも見える。
「これで終わりだああああああ!」
レイナルドの気迫のこもった一撃によりハイデーモンは左右に一刀両断され燃え上がった。
「さすが、あたしのファイアジャベリンね!」
「まぁ、ヘレナの魔法のおかげなのは間違いないけどね。依頼は達成したけど、もう少し調べてみよう」
「そうね!お宝を見つけなきゃ!」
レイナルドは苦笑いしながら黒ローブ達を調べる。黒ローブのポケットから手紙が見つかった。
「レッサーデーモンを指揮し、首都ロートスを急襲せよ、だと?」
多分、帝国の刺客だろう。
ヘレナがお宝を見つけて喜んでいるが、レイナルドの胸中には不安が広がるのだった。
「レイナルド、変な顔してないでデーモンの死体を持って帰るわよ!」
「やっぱり、俺が持って帰るのかよ……」
「当然でしょ!力仕事はレイナルドの仕事だし、その死体臭いし……」
最後の方の言葉はほとんど聞こえないほど小声だった。
「分かりましたよ、やればいいんだろう」
そして2人は無事、ヴィンチ村に戻ったのであった。
ヴィンチ村の村長ドギーは感謝の言葉を伝え、依頼達成のサインを行う。
翌朝、ヴィンチ村からシャトラインに向かう2人を見送ったドギーは最後にこう呟いた。
「あのレイナルドって人、めっちゃ臭かったな!」




