050
アースディグで掘った穴から這い出した。爆発によってドームが崩落しようとしている。
祭壇には相変わらず宝玉が浮かんでいる。祭壇に近づくと浮かんでいた宝玉が降りてきた。
宝玉に触ってみる。
「ダンジョンマスターの消滅を確認しました。新しくダンジョンマスターを登録しました」
ちょっと待て。勝手に登録されたぞ。フィッシング詐欺のサイトみたいだな。
「ダンジョンを停止して作り直しますか?」
お、これはいいかもしれない。
「はい、停止してください」
「畏まりました。ダンジョンを停止します」
宝玉は光を失って、手の上に落ちてきた。
「終わった。やっと帰れるぞ!」
「ワン!」
ハティも喜んでいるようだ。
ドームがそろそろ本格的に崩れて来ているので、アースディグで安全な道を上に掘りながら地上に戻った。
地上はまだまだ慌ただしかったが、魔物は全て倒されたようで、落ち着きを取り戻しつつあるようだ。
入口近くにベルさんとファルダさんが居た。近寄って報告をする。
「ただ今戻りました。ダンジョンコアは破壊しました」
本当は破壊していないが、こんな物がまた盗まれたりしたら面倒なので壊した事にした。
「コメット君!いや、コメット様は魔法大学を、世界を救ってくれた英雄です!」
「ファルダさん急に様付けで呼んだりして気持ち悪いですよ。いつも通りでお願いします」
「いやいや、本当にそれくらいの窮地だったという事じゃよ」
後ろからの声に振り返ると、ザングドア学長が居た。
「コメット君、ありがとう」
ザングドア学長が深々と頭を下げる。おじいちゃんに頭を下げられる経験はなかなか無い為、恐縮してしまう。
「いやいや、頭を上げてください!注目されちゃってますし!」
頭を上げたザングドア学長は杖を掲げて言った。
「皆のものよく聞け!今回の騒動はフォルマン副学長によるものじゃ!しかし!魔術師コメットの活躍により危機は去った!次は我々の番じゃ!ただちに復旧作業に取り掛かるのじゃ!」
「「うおおおおおおおおおおおお!」」
魔法を駆使して壁やら地面やらが直されていく光景は凄まじかった。
「人間共の魔法もなかなかやるじゃねぇか」
小さくなったレッドドラゴンが褒めていた。
魔法大学はしばらく修理に時間がかかるということで自室にも戻れなくなってしまった。
仮設のテントは落ち着かない為、自宅に戻ることにした。
「ただいまー」
「「おかえりなさいませ」」
いつも思うけど、突然帰宅しても並んで待っているメイドや執事は凄いと思う。
ずっと並んでいるとしたら苦行すぎる。そんなわけないか。
「セバスチャンは居る?」
「はい、ここに居ます」
突然背後から声がした。
「うわ!びっくりした!」
セバスチャンは呼べば何処にでも現れるとでも言うのだろうか。軽くホラーだ。
「驚かせて申し訳ございません。コメット様が戻られたと聞きまして急いでやって来た次第で御座います」
「その件は、まぁいいや。レッドドラゴンとハティをテイムした事を伝えておこうと思ってね」
「承知しました。レッドドラゴンとハティはコメット様の領地で役立たせるご予定ですか?」
「ハティは癒やし系として連れて行くけど、レッドドラゴンはどうしたい?」
「俺はどうすっかな。一度この場所を見て回ってから決めるぜ」
「分かった。セバスチャン、そういう事だからレッドドラゴン次第ではお願いすることになる」
「お願いなどと言わず、命令すれば良いのですが、畏まりました」
時間が出来たので、テイムした従魔の為に家を作ってあげることにした。ドラゴン達は元々野ざらし状態で寝ていたらしい。大きく頑丈な家を作る必要があるな。
頑丈な家なら石で作ろうかな。
ロックドラゴンの岩鱗は頑丈だが大量に用意出来ない上に加工も難しい。
そこで花崗岩を使おうと思う。倉庫にはゴブリン達が掘り出した花崗岩が大量にある。鑑定してみると
【魔花崗岩】
花崗岩は、流紋岩質マグマが地上へ出ることなくゆっくりと冷却されてできる。更に高い魔力に長年さらされる事によって魔花崗岩となり、強度を増し、風化に強くなった。
魔花崗岩を同じ大きさのブロックに切り出して積み上げる。ドラゴン用なので出来るだけ大きめにする。
なんとなくドラゴンは神殿に居るイメージなので、パルテノン神殿に似せて作ってみる。ただ、爬虫類で寒さに弱そうなので床下暖房は完備だ。
ロックドラゴン、アースドラゴン、レッドドラゴン用の家を作ったところで、2週間が経過した。
一旦、魔法大学に様子を見に行ったほうがいいだろう。
レッドドラゴンは家が気に入ったようで、出てこないので置いていく。
ハティを肩に乗せ、魔法大学に向けて走る。
2時間後到着した。
「ベルさん、お久しぶりです」
「コメット様、おかえりなさい」
「魔法大学の復旧作業のほうはどうですか?」
「魔術師の皆さんが頑張ったので、ほぼ元通りになりました!」
「そうですか、それは良かったです」
「ああ、そういえば。ザングドア学長からコメット様が戻ったら連絡するようにと仰せつかっています」
「そうですか、でもザングドア学長の部屋って常に移動しているんじゃなかったですか?」
「はい、ですので連絡は鳩で行っています。後で連絡しておきますので、コメット様は自室にてお待ちください」
「わかりました」
とりあえず、自室に戻ることにした。
久しぶりの自室だ。ちょっと埃っぽい気がする。掃除でもしておくか。そういえば、魔法大学ってペット可なのだろうか?ハティのことについて聞くのを忘れていた。
しばらく掃除をしていると
「チリリン!」
入り口の扉まで行き開けると、ザングドア学長が居た。
「久しぶりじゃのう。入ってもいいかな?」
「はい、どうぞ」
掃除をしておいて良かった。ザングドア学長が部屋に入るのは初めてな気がするな。
テーブルに紅茶を2つ用意し、椅子に座る。
「まずは改めて礼を言おう。ありがとう」
「いえいえ、もう十分です」
「いや、そんなわけにはいかん。そこでじゃ。コメット君を魔法大学の特別顧問とさせてもらおうと思う」
「え?特別顧問?」
突然すぎて聞き返してしまった。
「そうじゃ、特別顧問だからといって特に何か仕事をしろというわけではないんじゃ。単純に名誉職というわけじゃよ」
「そういうことでしたら、構いません」
「そうか!それは良かった!コメット君に断られたらどうしようかと夜も眠れなかったんじゃ」
「ちなみに昨日は何時間寝たんですか?」
「16時間くらいかのう」
「十分すぎるほど寝てる!」
「そうかのう。ところで特別顧問となったコメット君の色位じゃが、最高位の黒となる予定じゃ。良かったのう」
「何か良いことがあるんですか?」
「禁書と呼ばれる公開されていない魔道書を読む権限が与えられるのじゃ」
「おお!それは最高ですね!」
「そうじゃろう」
「それ以外には?」
「儂の部屋に招待して移動する部屋クルーズの旅が出来る権利を与える」
「それはいらないです」
ザングドア学長はショックを受けた表情をし、うなだれた。
「他にはありますか?」
「あとは研究費として1日白金貨1枚が与えられる」
「え?凄い額ですね。そんなに良いんですか?」
「魔法大学は世界に唯一の機関じゃぞ。しかも各国に魔道具の販売や魔術師の派遣もしておる。お金ならいくらでもあるんじゃよ。お金よりも大事なのは知識なのじゃ」
「なるほど、よく分かりました」
「まだ他にも細々とした権限があるがファルダにでも聞いてみるとよい。このことは魔法大学の全員に公表するから、そのつもりでいるように」
「承知しました」
「では儂はお暇させてもらうかのう」
「はい、わざわざありがとうございました」
ザングドア学長は帰っていった。
「ふー、ちょっとびっくりしたな」
「ウォン!」
あ、ハティのことを聞いてみればよかった。まぁいいか。
5日後、魔法大学に所属する全ての魔術師が大ホールに集められた。
ざわつく大ホールにザングドア学長が現れ、片手を上げると会場が静まり返る。
「まずは本日まで魔法大学の復旧作業に協力してくれた皆の者に感謝を。ありがとう」
頭を下げる学長。
「ほとんどの者が既に知っておると思うが、先日の魔法大学に対する魔物襲撃事件はフォルマン副学長の企みによるものじゃった。奴は愚かにも魔法大学の地下にダンジョンを作ったのじゃ。だが、既にダンジョンコアは破壊された。魔術師コメットよ、こちらへ」
そう言うと光魔法らしきスポットライトがコメットに当てられ、壇上までの道が出来上がる。コメットはザングドア学長の隣に行く。
「魔術師コメットが破壊したのじゃ。彼は単身ダンジョンに挑みダンジョンマスターであったフォルマン副学長を倒したんじゃ。彼の偉業を讃え、ここに魔術師コメットを魔法大学の特別顧問とすることとし、色位を最高位の黒とすることを宣言する!」
「「うおおおおおおおお!」」
大歓声と拍手が鳴り響く。特に人望がある訳じゃないと思われがちなコメットだが、歓声を上げる魔術師をよく見ると鍛冶用のハンマーを手に掲げている。並列魔法の信者のようだ。
「では、特別顧問コメットよ。皆に向けて何か一言」
「え!?」
聞いてないんだけど?と思いザングドア学長の顔を見るとニヤニヤしている。やりやがったなザングドア学長!ちくしょうこうなったら仕返しをしてやる!
「特別顧問になりましたコメットと申します。俺が特別顧問となったからには、特別に皆さんに1つだけ魔法を伝授しようと思います。それは初級魔法のウィンドです」
会場がざわつく。ザングドア学長は何を言い出すかと怪訝な顔をしている。
「皆さんお静かに、ただのウィンドではありません。無詠唱のウィンドです。では、まずは的を用意します」
「土の力よ 壁となれ アースウォール」
土の的を作り出す。
「次に右手をかざします」
そして右手をかざし目を閉じる。カッと目を開き、右手を見えない速度で打ち出す。
「ウィンド!」
風魔法(物理)である。土壁の的は粉々に砕けた。
「「おおおおおおおおおお!」」
「どうなってるんだ!?」
「本当に無詠唱だったぞ!」
コメットが右手を上げて静かにさせる。
「皆さんも同じことが出来るようになります。毎日1000回腕立て伏せをしてください。腕立て伏せ後に息が乱れなくなったら、次の段階に進めます。まずは腕立て1000回を乗り越えて下さい。以上です」
フッフッフ、これで魔術師達は見事なマッチョマンになり、ザングドア学長は暑苦しい思いをすることになるだろう。
こうして、魔法大学の騒動は幕を閉じた。
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