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宿屋はもう引き払ったけど、たしか魔術師ギルドで個室が貰えてるはずだ。
「ララさん、こんばんは」
「最近見ないから心配してたんですよ。コメットさん」
「すみません、冒険者ギルドからの依頼で街を離れてました」
「まぁ、コメットさんは冒険者でもあったんですね」
「魔術師が本業です!」
「魔術師ギルドとしては、そうしてもらえると助かりますね」
「俺の部屋を教えてもらっても?」
「はい、2階が寝室です。1階が研究室です。どちらも表札がありますので確認してください」
「分かりました。ありがとうございます」
2部屋も貰えるなんて最高だ!魔術師になれるのは貴族や金持ちが多いからかな?冒険者ギルドとの待遇の違いに驚く。
寝室に行き、やっと一息ついた。
火魔法を覚えたので火魔法のスキルレベルを上げたい。
しかし、室内で撃ち続けるわけにもいかない。
何か良い案はないものかと、ベッドでゴロゴロしながら考える。
そしてアイデアの神が降臨し、妙案を思いつく。
「これだ!」
今日はもう遅いから、寝ることにする。
翌朝、魔術師ギルドの皆が起きた頃にバルギのところに行く。
トカゲ顔だが、よく見るとイケメンな気がする。
「おはよう、バルギ」
「おはよう」
「研究は上手くいった?」
「ああ、コメットのおかげで上手くいったよ。ランクも上がったぞ、ホラ」
魔術師ギルドの証である透明なプレートが橙色になっている。冒険者でいう金級くらいかな。
「約束の水魔法を教えて貰ってもいい?」
「いいぞ、今から教えようか?」
「今からお願いします」
「じゃあ、見本を見せよう」
魔力感知によって、バルギの魔力の動きを観察する。
さすがバルギだ、魔力は静かに流れるような動きで手のひらに集まる。
「水の力よ ウォーター」
水が生まれて、コップに注がれる。
コメットが同じように真似ると、水が生まれてコップが溢れてしまった。
「コメットは、魔力操作も威力も凄まじいな。いや、一発で真似できる魔力感知を褒めるべきか」
ウォーターとウォーターアローを教えて貰い、次の目的の場所に行く。
「オーサさん……その節は申し訳ありませんでした」
風魔法(物理)で壁を壊してしまったことの謝罪である。
「いいんですよ、あの時貰ったお金で壁も元通りですから。それよりもなにか御用ですかな?」
「実はオーサさんに風魔法を教えていただきたいのです」
「なんと、コメットさんはあんなに凄い風魔法が使えるではありませんか。しかも詠唱破棄で。あんなのは見た事もありません」
「ハハハ……いや、あれは独学でして、もっとちゃんとした魔法を知りたいのです」
「分かりました。では、こうしましょう。お互いに風魔法を教え合うというのはどうでしょうか?」
「……え?」
これは不味いぞ。どう頑張ってもオーサさんが風魔法(物理)を使えるはずがない。
でも、風魔法がどうしても必要だ。ごめんよ、オーサさん。
「分かりました。お互いに教え合うことにしましょう!」
「そうですか!私もあの魔法が使えるようになるなんて夢のようです!では、早速教えていただけますかな?」
「すみません、あの魔法は前準備が必要なのです。とりあえず毎日1000回腕立て伏せをしてください」
「腕立て伏せ、ですか……?」
「腕立て伏せをしても息切れしなくなったら準備完了です」
「わ、分かりました。頑張ります!では、私も教えますね」
オーサさんは風魔法を実演する。魔力の流れは、水魔法よりも速い。そして手のひらに集まり回転している。
「風の力よ ウィンド」
強い風が吹いた。
コメットも真似てみる。
「風の力よ ウィンド!」
強力な風が吹き、オーサの研究室にある資料が飛んでいく。
メキメキッ バリッ
風魔法(物理)で開いた穴の修復箇所が壊れ、また穴が開いた。
「あああああああああ」
オーサさんは倒れ、コメットの悲痛な叫びがこだました。




