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イノセントダンジョンの1階はとにかく広い。小一時間ほど歩くとやっと中央にたどり着いた。
「これが例の場所なのか?」
「そうです。この闘技場は全員分用意してあるはずなので1人ずつ入ってください」
「ワシも入る必要があるのかのう?」
「あ、シャーリンちゃんは魔導アーマーの性能を測りたい時に入って下さい」
「なるほどのう、それじゃワシはそこの闘技場の近くで作業しとるわい。さぁ、魔導アーマーをそこに出すんじゃ」
「はいはい、分かりました」
俺は指示された場所に移動し、アイテムボックスから魔導アーマーを出した。更に必要になりそうな材料もポイポイと出しておく。
「あ、そうだ。イノセント、ここに置いた物は吸収しないように!」
「!?」
突然俺が空に叫んだせいで周囲の仲間が驚いた顔をこちらに向けている。
『承知致しました。設定完了』
その後に続くイノセントからの返事に更に驚く仲間たち。
「「……」」
「いやぁ、指示をしておかないとダンジョンに吸収されてしまうかもと思ったんですよ」
俺は何故か言い訳をしなければいけない気がして頭を掻きながら発言する。
「……ダンジョンに命令出来るって、かなり便利だよね。魔石とか金銀財宝とか宝箱に設置すれば無限に取り放題じゃない!?」
ティナが悪知恵を働かせて何か言っている。
「いや、魔力の供給源は俺の魔力なので有限です。決して無限ではありません。なので師匠は無駄な計画を立ててないで闘技場に入って下さい」
「何よそれくらいいいじゃない、ケチね!」
ティナは文句を言いながら闘技場に入っていき、ロスキタスは黙って闘技場に入っていった。シャーリンちゃんは草原で魔導アーマーを修理もとい超改造を始めている。
「さて、俺も修行を始めますか!」
俺は両手で頬を叩いて気合を入れると闘技場に入っていった。
闘技場の内部は休憩室や武器防具が並べられている部屋、食堂まで完備されていた。
そして食堂でエプロンを着けて働いているのはイノセントだ。せっかく気合を入れて闘技場に入ったのに気が抜けてしまった。
「イノセント、こんな所で何しているんだ?」
「食堂の運営です。魔物に任せる事も出来ますが魔力を消耗しますので」
「な、なるほど」
魔物に食堂を運営させることも出来る……?俺は思考の迷路に迷い込みそうになったので、何も考えない事にした。
「腹が減ったらまた来るよ」
「いってらっしゃいませ」
俺は手をひらひら振って中央に向かって通路を歩く。少し行くと視界が開ける。
「おお〜!」
闘技場の中央には懐かしのトリケラトプスが待ち受けていた。
トリケラトプスとは3本角を持つ草食恐竜だ。草食で大人しいが、戦闘となると恐ろしい速度で突進してくる相手だ。
「よーし! レベル上げ開始だ!」
俺はトリケラトプスに向かって飛びかかる。
トリケラトプスは最大の武器である3本角をこちらへと向けて威嚇してくる。
俺はスライディングの要領で相手の懐に飛び込もうとしたが
「あいたっ」
俺のスライディングは何かに阻まれて止まってしまった。
何かとはトリケラトプスは頭だ。地面スレスレまで下げ、こちらの思惑を阻止してきたというわけだ。
「うげっ!」
動きの止まった俺にトリケラトプスの前脚が大きく振りあげられ、俺の上に落とされた。
そしてトリケラトプスのストンピングはまだ終わらない。二度三度と繰り返し俺の身体が全て地面に埋没したところでやっと止まった。
「あぁ、装備が泥だらけに……こんにゃろっ」
一旦トリケラトプスとの距離をとる。
「ふぅーー……」
大きく深呼吸して頭を冷やす。俺は工夫して戦うことを諦めた。俺が以前トリケラトプスと戦っていた白亜紀とは違うのだ。今の俺には得てきたスキルがある。
俺はゆっくりと歩きだす。トリケラトプスはそんな俺に対して突進を始める。それでも俺は同じ速度で歩き続ける。
トリケラトプスの角が俺に突き刺さる――その直前に俺の手が角に触れる。
「次元斬」
俺の触れていた角がスパッと切断される。
「次元斬」
次の角も綺麗に切断された。俺はトリケラトプスの真横を通り抜けざまに最後の一撃を与える。
「次元斬」
俺が触れていた部分――トリケラトプスの首が切断され大きな音を立てて地面に落ちる。
《レベルアップ:レベルが302になりました》
「次元斬の威力は凄いなぁ。でも、使い勝手がちょっとね……」
次元斬はエンペラーイビルシケイダから奪った能力だ。あの皇帝蝉から放たれた次元斬は数十メートル離れた場所であっても切断していた。だが、今の俺では手を触れた箇所しか切断する事が出来なかったのだ。
「まぁ、いっか。次!」
俺の合図で次のトリケラトプスが奥から出現した。




