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従者ロスキタスを戦争の道具になどさせるわけにはいかない。それにルート君への暴行も許せない。
俺は魔力を練り上げる。そして複数の魔法を並列に構築していく。
「いやぁ、ロスキタスは私にとって手放すことの出来ない人材でして……。あっ、そうだ。ドワーフ王国で手に入れたサファイアなんかいかがでしょうか?」
俺の緻密な魔力操作により、遠く離れた場所のカーテンに火が着く。それも複数箇所同時にだ。
「か、火事だー!!」
それに気づいた客が騒ぎ出す。だが、俺はこの程度じゃ終わらない。
「普通のサファイアがお気に召さないのでしたら、ウォーターサファイアなんてどうですか? それともダークダイヤモンドなどもございますよ」
ブルーノと呼ばれた黒ローブの魔術師と第一王子であるバルトルトに向かって魔法を放つ。火魔法によってバルトルトの髪の毛は一瞬で燃え上がり、そして水魔法で鎮火する。そして闇魔法で視界を奪った。
「熱っ!! 冷っ!? 何も見えぬ!! 何が起こっている!!」
バルトルトに全ての魔法の効果が現れる。だが、ブルーノは魔法の無効化に成功したようだ。
「バルトルト殿下、ここは一時撤退します。小僧、この借りはすぐに返すぞ」
「貴様許さんぞ!! 貴様を連れてきたルートも同罪だ! 死刑にしてやる!!」
「はて? 何の事でしょうか? 俺は商品をオススメしただけですよ? (眠針!)」
「はうあっ!」
2人が逃げようとしたのでバルトルトに追い打ちの眠針を撃つと見事命中した。
倒れるバルトルトの顔付近にナスディーの実をこっそり転がすと、見事にヒットし熟れた果汁がバルトルトの顔中に飛び散った。
「大丈夫ですかー?」
「くっ! お前達! 援護しろ!」
黒ローブがバルトルトを抱え後退しながら叫ぶとオリハルコン級の冒険者達がこちらに走り寄って来る。さすがにこの場所で明らかな戦闘行為をすれば確実に目立つ。そして包囲されてしまう可能性が高い。
「じゃあ、そろそろ私達は帰りますね。ルート君も行きましょう。マリアさん、ルート君をお願いします」
「え? は、はい!」
俺は騒然としている人垣をすり抜けさっさとバルコニーに出る。ロスキタスは当然ついてくるし、マリアさんとルート君もなんとかついてきたようだ。
「それでは皆さん、ごきげんよう。フライ! ウィンド!」
俺自身はフライで飛行し、ロスキタスはウィンドの魔法で浮かせる。そしてバルコニーから飛び夜闇に溶け込むのだった。
――そこまで妄想を膨らませた俺の目の前にはまだバルトルト第一王子が居る。そう、今までの話は全部俺の脳内でシミュレーションした内容だ。自分がどのような行動をしたら、どのように周囲に影響を与えるのか常に考えて行動したほうが良い。
そして、このシミュレーションの最後は魔法国から追放される未来が待っている。だから、行動すべきか躊躇しているというわけだ。
「そこで何をしておるのだ! コメット殿はまだまだ賓客の相手をせねばならぬのだぞ!」
俺が黙っていると、天からの助けとも思えるような声が聞こえてきた。アレクサンダー国王だ。
「ち、父上。ふん! 運の良い奴め……」
そう言ってバルトルトは配下の黒ローブを連れて去っていった。
「息子達が迷惑をかけたようだな。詫びと言ってはなんだが、貴族位ならばすぐにでも「遠慮しておきます!」」
明らかに罠の誘いに俺は被せるように断っておく。
「陛下、コメット殿が困っているではありませんか。おや、ルートの口はどうしたのですか?」
第二王子がマリアさんの後ろに隠れているルート君の口が石化していることに気づき質問する。
「ルート様の口は……」
マリアさんが何と説明すればよいか迷っていると
「石化しておるな。ルートは自室に行きなさい。直ちに治癒術師を呼べ!」
王族が襲われたということで騒然となり、パーティーは中断となった。ルート君の石化は治癒術師のリカバーによって回復。マリアさんとルート君が状況の説明を行い、とりあえず俺達は一旦宿に戻ることとなった。
ちなみに犯人はほぼ確実に黒ローブの男だが、証拠がないとのことで罪に問うことは出来なかった。




