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「このアリーナ内ではいかなる外傷も受けないようになっておる。だから、どんな攻撃を受けても死ぬことはない」
「へぇ〜それは便利ですね」
「じゃが、痛みは感じるので安心はできんぞ。脳が痛みに耐えきれなければ最悪、廃人じゃ」
「な、なるほど」
これはちょっと気をつけないといけないな。闇の塔の爺ちゃんは下手すると痛みで心臓が止まる可能性もある。
「それと、壁沿いに魔法を吸収する障壁が張られているので壁を破壊する心配はしなくても良いぞ」
「分かりました」
「ルールは簡単じゃ。地面の丸印があるじゃろ。あの中に立って、魔法のみで戦う。それだけじゃ」
ちょうど一人が立っていられる程度の丸印が闘技場にいくつか描かれている。
「丸印から出たら負けじゃ。気絶または負けを認めても試合は終了とする。では、配置につくがええ」
一通りの説明が終わったらしくダークヴィーンは丸印に向かっていく。それに合わせて他の塔の管理者達も移動を始めた。
俺の位置は真ん中のようだ。これでは囲まれて袋叩きのようなものだ。
「多対一を自分から言い出したとはいえ、あからさま過ぎじゃないですかね……」
地面に描かれている丸印は小さい。『丸印から出てはいけない』というルールから推測するに、純粋に魔法をぶつけ合って戦う事を目的にしているようだ。俺は一歩進み、丸印の中に入る。
「では……開始じゃ! 闇の力よ、自在なる羽を与え給え、フライ!」
フライは闇魔法だったのかよ! 重力操作ってことかな?
「鋼の如き岩の力ヨ……」
「獰猛な炎の獣……」
「最速たる疾風の力よ……」
「絶対なる氷の力よ……」
「いと深き闇の力よ……」
それぞれの管理者達から詠唱が聞こえてくるけど、あまり聞き慣れない詠唱だ。
「聞いたことない詠唱だなぁ。っていうか、未だに無詠唱というか詠唱短縮というか出来てないんですね。これ、今攻撃したら勝てるんじゃ?」
しかし、今勝ってしまうと相手の魔法が見れなくなってしまう。
「未知の魔法が見てみたいからやめとこう。それじゃ、迎撃だけ準備しとこう」
迎撃はどうしようかな? あまり強すぎる魔法だと相手の魔法を突き破って相手に大ダメージを与えるかもしれないし、弱い魔法だとこっちがダメージ受けるかもしれないし?
いや、そもそもスキルに魔法無効があるから問題はないのか。いやいや、魔法を受けきって無傷だったら逆に問題になるか。そんな事を考えていると長かった詠唱が終わるようだ。
「アイアンアローレイン!」
「サラマンダーウェーブだが!」
「ソニックインパクト!」
「フローズンフォグ」
「エンドレスグラヴィティ」
各自から濃密な魔力を纏った魔法が放たれる。
「おお、地面が」
俺の足元の地面が陥没する。これはエンドレスグラヴィティの効果? と思っていると横からの衝撃が来る。これはソニックインパクトかな?
そして次に俺の周りの空気がキラキラと輝き始める。気温が下がり凍っていく。まぁ、俺は氷結無効があるから凍らないけど。
そして、頭上からは鉄矢が無数に降ってくるし、召喚されたサラマンダー達が波のように押し寄せてくる。
「さすがに何もせずに無傷だったら不自然だよね。フォトンバリア!」
マジックレジストもかけるか迷ったけど、どうせ無効化されるからとかけないことにした。
代わりに見た目が派手なフォトンバリアを使ってみた。このフォトンバリアは昔にクリスタルフォトンドラゴンのシリウスから教わった魔法だ。効果もなかなかで最上級の光魔法である。
「なんじゃ!?」
「目ガー!」
「まぶしっ!?」
「クッ!」
光が収まると塔の管理者達は固まってしまっていた。当然、俺は無傷だ。まるで信じられないようなものを見るかのような視線で俺を見てくる。
「「「……」」」
「まだ終わりじゃないですよね? さぁ、もっと魔法を撃ってきてください!」
「ひ……」
「ひ?」
「光の塔の管理者の出現じゃ〜〜!」
「伝説の光魔道士だわ!」
「強い、オス」
「オレに封印されし邪竜が光の者を呼び寄せてしまったか……」
「私の火魔法が正面から防がれるのは初めてなんだが!」
「こうしちゃおれん! 直ちに光の塔の建設を行うのじゃ!」
塔の管理者達は勝負の事を忘れてしまったかのように慌ただしく闘技場を出て行った。俺はそれを呆然と見送るしかない。
「これどうしろっていうんですか……」
この場に残されたのは、俺とマリアさんと魔法対決の余波で壊れた闘技場だった。壊れないんじゃなかったのか……
ひとまず、魔法を教えてもらう件は見送りとなってしまった。マリアさんが教えてくれてもいいと伝えたが、塔の管理者に筋を通す必要があるらしい。
でも、まぁ、フライは戦闘中に見たからもう覚えた。それ以外の魔法も覚えたから割と満足したので宿に帰宅して寝た。




