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「それで、これは付与の魔法陣を描く彫金タガネと魔法ペンと魔法インクでしょ〜。必要に応じて魔石の粉末も使うわ。それとこっちは素材となる魔導コンロよ」
ガチャガチャと魔道具を準備しているティナ。説明もしてくれる。
「ふむふむ、魔法陣を描くんですか」
「そうよー。初心者の内は魔法陣大全の書を見ながら描くんだけど、私は全部覚えちゃったし応用してるからもはや別物なのよね。そうだ! 後でコメット君に魔法陣大全を渡すね!」
「ありがとうございます。それで俺は何を手伝えば?」
「私が魔法陣を描く時に魔法陣に対して一定の魔力をずっと流していて欲しいのよ。魔力が足りないと効果は発揮されないし、少しでも魔力を込めすぎると爆発するから注意してね!」
「わ、分かりました」
なるほど、先程の爆発の原因はそういうことか。
「じゃあ、始めるよ」
魔導コンロには既に彫金タガネで彫ったであろう魔法陣が描かれている。
ティナは魔法ペンにインクをつけずに魔法陣の溝に沿ってペンを動かす。
「ほら、こうやって動かすからその時に魔力を流し込んでね」
「こんな感じですか?」
俺がティナに合わせて魔力を流し込む。その際はペン先と同じくらいの細さと一定の強さを心がける。
「もう少し魔力を強く。そうそう、完璧よ! あとは魔力を一定に保ってね」
「了解です」
――その後、魔力操作10の俺は難なく作業を終わらせた。
次から次へと出てくる魔道具には驚いたが、師匠の命令を完璧にこなすことが出来た。思ったより魔力を使ってしまった。
「こんなに完璧な魔力操作は初めて見たわ。貴方は何者なのよ」
「ただの旅人ですよ。付与術に興味がある、ただの旅人です」
「ふーん、それじゃあ付与術に興味がある旅人さんにお礼をしなきゃね!」
ティナはただの旅人という言葉を信じてなさそうにジト目でこちらを見た後、部屋を出て行き大きな本を抱えて戻ってきた。
「はい、これが魔法陣大全よ! あとはコメット君用の魔法ペンと魔法インクね。彫金タガネはどこにでも売ってるから自分で用意してね!」
「ありがとうございます!」
「どうする? 今すぐ練習する?」
「いえ、連れの者が外で待っているのでそろそろ帰ります」
これだけ揃えば宿屋で無限の魔力を使って訓練し続ける事が出来るだろう。
「じゃあ、今日はお疲れ様! また明日ね!」
「あ、はい。お疲れ様でした……?」
勢いで返事してしまったが、返事を聞いたティナは手を振ると完成した魔道具を抱えて慌ただしく部屋を出て行った。
俺は建物を出てロスキタスに声をかける。
「ロスキタス、終わりましたよ」
「はっ!」
そこで俺は先程ティナが言った内容を思い出した。
『また明日ね!』
明日も手伝いをする約束をしてしまった事に気づいた。
「しまったああああああ!」
「コメット様!?」
あの宿屋に籠もって付与術の鍛錬に集中しようと思っていたが、明日もティナの手伝いをしなければいけなくなった。
俺は頭を抱えるが、もうどうしようもないと諦めるしかなかった。




