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俺とロスキタスは王宮入口で番兵にマリアさんを呼んで貰った。
「すいません、マリアさん」
「いえいえ、全く問題ありません。約束ですし、早速付与術師の所へ案内しましょうか?」
「はい、お願いします」
そしてマリアさんに連れられて行った先は王宮の敷地内にある建物だった。
「某は外で修行をしながら待たせてもらう」
ロスキタスは付与術に興味がないらしく外で修行をするようだ。
「お久しぶりでございます。マリア様。今日はどのような用で?」
入口で出迎えてくれたのは狐……多分狐獣人だ。獣人の年齢は見た目じゃ分かりにくいけど恐らく40〜50代くらいだろうか。
「クロウさん、お久しぶりです。ティナさんに会わせたい人が居るのですが」
「ああ、ティナならあそこの部屋に……」
クロウさんが奥にある部屋の方向を指差すと
ドカーーン!
爆発音の後、煙が出てきた。
「あー、またやりましたか」
「ケホッ、ゲホッ! もうちょっとだったのに!」
煙をかき分けて部屋から人が出てきた。多分ティナと呼ばれていた人物だろう。
「ティナ、安全マージンを十分に取って付与するようにいつも言っているだろう」
「そんなんじゃ付与術の発展なんか出来ないわ! 私には遠回りしている時間なんかないのよ!」
ティナは髪の毛はグシャグシャで服も焦げ付いていて酷い有様だが、元々が美人なのか何故か様になっている。
「そんなことよりティナ、お前さんに客人だぞ」
「客人……? あっ! マリア! 久しぶりね!」
「お久しぶりです。ティナさん、こちらはコメット様です。第三王子であるルート様と私の命の恩人です」
「はじめまして、コメットと申します」
「はじめまして〜! ありがとね! マリアの命を救ってくれて」
ティナが俺に手を差し出したので握手をする。
「いやいや、たまたま通りかかっただけなんですが助けられて良かったです」
「うんうん、それで? 私に何か用なの?」
ティナは次にマリアさんに質問した。いよいよ本題だ。断られたらどうしよう。
「はい、このコメット様に付与術を教えてあげてほしいんです」
「いいよー! その代わりマリアにも実験を手伝ってほしいなー」
「私ですか? 今はちょっと事後処理で忙しいのですが……あ、そうです! コメット様の魔力操作はかなりものらしいですよ?」
いきなり何を言い出すんだマリアさん。ティナがこちらにターゲットを変更したじゃないか!
「じゃあ、コメット君でいいよ! さぁ! こっちに来て! まずは部屋の片付けをしなきゃ!」
ティナは俺の手を握って走り出す。
「ちょ、ちょっと待ってください! 俺も片付けするんですか!?」
「当たり前でしょ! あ、マリアは忙しそうだからまた今度ね!」
「はい、それでは私はこれで失礼します。コメット様が付与術を習得出来るよう祈ってます」
無慈悲にもマリアさんは一人で帰ってしまい、俺は付与術の師匠(予定)と2人きりになってしまった。そしてそれは片付けという名の強制労働が確定した瞬間だった。
――2時間後、俺が魔法やら身体能力やらを駆使した結果、爆発した部屋の片付けという不可能と思われたミッションが完了した。
「ハァハァ……これでいいですか師匠」
「コメット君やるねぇ! 魔力操作も見せてもらったけど最高の逸材だよ!」
「ありがとうございます」
「じゃあ、さっそく付与術を始めよっか!」
お、ついに付与術を見せて貰えるのか! そう思っているとクロウさんがひょっこり部屋を覗いて
「ティナよ、あまり無茶な付与は控えるようにな。君は発想力は天才的だが、もう少し失敗を恐れたほうがいい」
そう言って去っていった。たしかに片付けはもうしたくない。
「もう大丈夫よ! コメット君が手伝ってくれれば成功間違いないわ!」
俺が手伝う事は決定事項なのか。まぁ、付与術を覚える為に丁度いいからいいけどね。




