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俺とロスキタスはギラギラと輝くドームの前で佇んでいる。ドームの頂上には巨大な魔石が浮いている。
「これが?」
「冒険者ギルドで一番インパクトのある宿屋を聞いた結果がコレです。でも、見た目以上に凄そうですよ」
「コメット様がそこまで言うとは」
「だってこの建物全体を魔力が流れています。恐らく壁をミスリルでコーティングしているんだと思います。理由は分かりませんが……」
「某が先頭を」
「うん、そうですね。まぁ、危険は無さそうですけどね」
ロスキタスを先頭にして宿屋に入るが、人の気配は何もない。受付らしき場所には紙(恐らく魔道具)が置かれているだけだ。
ロスキタスが紙を覗き込むと文字が浮かび上がる。
『冒険者証をここに置いてください』
「これでよいか?」
ロスキタスが冒険者証を指示された場所に置くと、紙の文字が切り替わる。
『2階206号室にお進みください』
次は俺の番だ。冒険者証を指定の場所に置く。
『206号室はダブルベッドですが、同室を希望ですか?』
「いやいや! 男同士同室でダブルベッドはあり得ないですから! 別の部屋でお願いします!」
「護衛しやすいので某は構わんが……」
『では、同 「別室でお願いします!!」 ……承知しました。2階207号室にお進みください』
なんだこれ? 海外旅行なんかでは稀によくある対応らしいけど、裏に人間が隠れてたりするんだろうか? これが魔法で作られたシステムだったら作者ヤバいんじゃないか?
部屋に入るとけっこう広く12畳ほどのスペースにダブルベッドが置かれている。ドライヤーのような魔道具や湯沸かし用の魔道具が置かれており便利な時代になったことを実感する。
最も特筆すべきは、ベッドの壁に描かれた2つの魔法陣だ。魔力感知で解析する。
「この魔方陣は微弱なヒール、そっちの魔法陣は微弱な魔力回復効果がありそうですね。ということは、ここだったら魔法の鍛錬し放題ってことじゃないですか!」
新しい魔法を覚えたら、ここで鍛錬しようそうしよう。付与術も覚えたら魔力を使う予定だし、控えめに言ってこの宿最高じゃないか。
「よーし、今夜は魔力消費系の魔法を鍛錬しまくるぞー!」
そんなこんなで夜は更けていった。
「もう朝ですか……」
調子に乗って鍛錬しすぎた。完徹してしまった。だが、魔力使い放題のこの環境が悪いのだ。俺は悪くない。
「今日はどうしようかな」
選択肢としては、1.新魔法を覚える。2.付与術を覚える。3.エデンダンジョンでレベル上げ。4.冒険者としてクエストを受ける。5.観光する。6.魔導アーマーを直す。
「うーん、割と多いな。とりあえず1と2の新魔法と付与術を優先的に進めようかな。せっかくこの宿屋があることだしね。ついでに5の観光かな」
6.魔導アーマーは無理だ。シャーリンちゃんと最大級の魔石が必要だからだ。ついでに言えば、作業場も必要だけど魔法国で魔導アーマーを修理する作業場を用意するのはほぼ不可能だろう。
俺は支度をして206号室のロスキタスを呼んで食堂で朝食をとる。
「コメット様は寝不足か?」
「ええ、魔法の鍛錬をしていたらいつの間にか朝でしたよ。ロスキタスはどうでした?」
「力が湧き上がる部屋は珍しいのでな、某も鍛錬をしていたところ新しい力を得る事が出来たのだ」
俺はロスキタスが魔力の膜に覆われている事に気づいた。これは身体強化と言うやつか。
「鑑定してみてもいいですか?」
「ああ」
ロスキタスを鑑定すると、やはり身体強化だった。
「身体強化に間違いないです。ロスキタスは基礎身体能力が高いですから、かなり強化されそうですね」
今夜は俺も身体強化を試してみよう。俺達は朝食を終え、宿を出て王宮へ向かった。




