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「次の者! 身分証と通行証、それから所持品を見せろ!」
王都の門では門番が厳しいチェックをしている。帝国との戦争中ということでかなりチェックが厳しそうだ。
「うーん、所持品のチェックまでするとは思わなかったですねぇ」
俺はアイテムボックスがあるから隠し放題だが、他の人達は普通に所持している。例の金インゴットを所持しているのがバレたら面倒な事が起こる予感がする。
「大丈夫です。私に任せて下さい」
いつの間にか先頭にマリアさんとルート君が来ていた。そしてマリアさんは自信満々といった感じだ。
「はぁ、そこまで言うのでしたらマリアさんにお任せします。ですが、問題になるようでしたら俺が出ますよ」
「分かりました」
しばらく列を待っていると自分達の順番が回ってきた。
「次の者!」
「私はマリア・フォン・テンベルク。そして、このお方はルート・ベネディクトゥス・アウグストゥス・フォン・ロディニア様です。王宮に連絡をお願いします」
え? マリアさんが呪文のように長いルート君の名前を名乗っていらっしゃる。どどどどいうこと?
もしかしてルート君は貴族なのか? まさか王族なんてことは……
「ロ、ロディニアって王族!? は、はい! 直ちに確認して参りますので少々お待ちくださいいいい!」
門番は慌てて上長に連絡した後、王宮の方向に走り去った。
「驚きました。ルート君は王族だったんですか」
「はい。ルート様の安全を確保する為、コメット様にお伝え出来ず申し訳ありませんでした」
少し待つと、門番よりも明らかに格上と思われる数人が城の方向からやって来た。そして俺達は取り囲まれた。
「ルート様、マリア様、失礼ですが確認をさせていただきます。この水晶に触れてください」
あ、これ定番の魔道具じゃないですか? 犯罪者が分かる的な?
「わかった。じゃあ、僕からやるね」
ルート君が触れると水晶が紫色に光る。
「おお! この色はまさしく王家の証!」
ルート君はちょっとドヤ顔になると後ろに下がる。次のマリアさんも水晶に触れると水晶は青く光った。ルート君の時よりも光が強い。
「この輝き、これほどの魔力の強さは元宮廷魔術師であるマリア様で間違いない。それに犯罪歴もない。問題ありません。魔導馬車を用意しておりますので、お乗りください」
ちょっとだけ俺も水晶に触ってみたいと思ったが、恐らくマリアさんよりも強い光が出て話がややこしくなるので自重した。
いつの間にか用意されていた魔導馬車と呼ばれる乗り物を見ると馬の人形が宙に浮いており馬車を引っ張っているようだ。
魔導馬車は2台用意されているが、どう見ても全員は乗れそうもない。これは多分、2人だけ魔導馬車ってことなのだろうな。
「まず、最後尾の16名の荷物持ちは私達を襲った盗賊団ですので引き取ってくださいね」
「はっ! 衛兵!!」
騎士が指示を出すと盗賊達は衛兵に連れて行かれた。
「見た通り私達は15名以上居ます。魔導馬車が足りないと思いますので魔導馬車を増やしてくださいませんか?」
「この魔導馬車はルート様とマリア様に用意されたものです。その薄汚い者達を魔導馬車に乗せるには王宮で許可を得なければなりません」
マリアさんは騎士の言葉を聞いて眉間にシワを寄せた。同行者を薄汚い者と言われたせいだろう。
「私達の命の恩人であるコメット様を差し置いて魔導馬車に乗るわけにはいきません。私達は徒歩で向かいますので、そうお伝え下さい」
マリアさんは有無を言わさぬ態度で歩き始めたので、俺達は慌てて都の中に入ったのだった。




