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 ――ドワーフ王国を出発してから数日歩き、いくつかの村や都市には入らず通り過ぎた。


 観光を目的としている俺としては都市になんとか入り込みたかったが、マリアさんや元奴隷の人々に止められた。理由は、魔法国での身分証を持たない俺達では都市に入ることも出来ず、下手をすると投獄される可能性があるとのことだ。


 それなら魔法国の首都も同じではないかと思うのだが、マリアさんには首都に知り合いが居るらしく、そのコネクションでなんとかなるとのことだった。


「おー! あれが噂の首都ですか」


 遠目に魔法国の王都らしきものが見える場所まで来た。


「ああ……帝国に囚われた時はどうなることかと思いましたが、私達はついに帰ってきたのですね……」


 マリアさんが魔法国首都を見て涙ぐんでいる。他の人々も歓声を上げて喜んでいる。その中の老人の1人がこちらに歩いてきて一礼する。


「ここまで連れてきていただきありがとうございますじゃ。それにこんな物までいただいて。おかげで都に戻っても路頭に迷う者は()らぬでしょう」


 老人の手に持っているのは金のインゴットだ。これは大量の帝国金貨をドワーフ国で精錬して貰ったのだ。俺はドワーフの金の精錬方法に興味があったので見学したところ、地球で言う「アマルガム法」にとてもよく似た方法であった。


 アマルガム法とは、金を水銀に溶かし不純物を取り除き、「アマルガム」と呼ばれる合金にし、その合金を加熱することで水銀を蒸発させ、金だけを取り出す方法である。


 ドワーフ達は水銀を使わず、銀色のスライムを使用して金を精錬していた。銀色のスライムは【魔銀スライム】というらしい。スライムに金を食べさせ金を溶かした後、そのスライムを倒した後に素材を熱すると金が残るということだった。今度【魔銀スライム】を見つけたら手に入れたい。


 というわけで、俺達は大量の純金を持っている。それが村や都市に寄り道出来なかった一因でもある。純金を持っている集団など、襲ってくださいと言っているようなものだ。まさに問題ホイホイである。


「それは良かったです。しかし、奪われないように注意してください。出来るだけインゴットは人目につかないようにすることをおすすめします」


「分かりました。皆にも伝えておきます」


 俺はアイテムボックスがあるから金を入れてある。


 更に言うなら、アイテムボックス内の大半は魔導アーマーが占めている。魔導アーマーは外に出さないほうがいいだろう。なぜなら、魔法国と帝国は絶賛戦争中だからだ。敵国の兵器を持ち込んでいることがバレたら面倒なことになる。


 現在、俺達は草原の見晴らしが良い丘の上に居る。わざわざ街道を避けて進んできたが、そろそろ街道を進まなければ逆に怪しまれてしまうだろう。


「そろそろ街道に出ると皆さんに伝えてください」


「分かりました」


 老人は休憩中の人々に連絡に向かった。



 それから1時間ほど歩いた頃、突然気配察知に反応があった。


「囲まれていますね」


「む、某にはまだ何も感じないのだが」


 ロスキタスの気配察知にはまだ反応がないようだ。


「ほら、あそこの草むらをよく見て下さい。目で見ても少し違和感があるでしょ。それに、あっちも。そっちもです」


「なるほど。たしかに囲まれている。コメット様の察知範囲には感服するしかないな」


「ロスキタスは後方を守ってください。それと皆にも知らせておいてください」


「御意」


 ロスキタスは短く返事をすると素早く後方に移動していった。



 そのまま何食わぬ顔で進むと、目の前に4名の武装した(しかし薄汚れている)男達が進路を妨害するように現れた。


 それと同時に左右、後方からも男達が姿を現し、総勢16名の武装集団に囲まれる形となった。


 まぁ、盗賊だろうな。一応武装はしているが全員の装備は統一感もなく、少し良さげな武器を持っているのに防具は安物だったりする。


 恐らく奪った武具を装備しているせいでチグハグな感じになってしまったのだろう。


「げっへっへ! 通行料を置いて行きな!」


 先頭の弱そうな男が吠える。奴らの中では下っ端のように見えるが、恐らく間違いないだろう。


「お前らは囲まれている! 無駄な抵抗はやめて大人しくしておくことだ!」


 奴らの中で一番後方で偉そうにしている男が大声で叫ぶ。こいつが盗賊団のボス、もしくはリーダー的な存在なのだろう。


 元奴隷の人々からは悲鳴が上がる。だが、俺が盗賊団の言う通りにするわけがない。


「昔知り合いのドラゴンがこんな事を言っていました。『襲ってきた人間から財宝を奪うのは当たり前』この意見には俺も賛成です。特に相手が自分より弱い場合はね」


「俺様が弱いだと? お前達の中に鑑定持ちが居るならこのドレーク様を鑑定してみろ!」


 鑑定してみろだって? そんなことを言う盗賊は初めてだ。興味本位に鑑定してみようか。


「鑑定」


 名前:ドレーク(本名:プッピ)

 職業:大盗賊(小心者)

 年齢:40歳(50歳)

 LV:999(50)

 HP:99999(5555)

 MP:9999(555)

 STR:999(55)

 VIT:999(55)

 DEX:999(55)

 AGI:999(55)

 INT:999(55)

 LUK:999(55)


 スキル

 ステータス偽装1



 ……なんだこれ? それぞれの項目に括弧がついてるな。というか、スキルにステータス偽装1があるっていうことは、こいつステータスを偽装して強く見せようとしているらしい。しかも、LV999って偽装するにしても不自然過ぎてアホ過ぎるでしょ。


「無職のプッピさん、こんにちは」


「な!? どうして俺様の本名を!! それを知っちまったからには生かしておけねぇ! 野郎共やっちま」


 俺は停止状態からの急加速で一気に間合いを詰めると、盗賊団のボスの顔を思い切りビンタした。


「あがぁぁああああああああ!!」


 盗賊団のボスは自身のアゴが外れ、更に皮膚の痛みにより転げまわる。


「もう一発です。歯を食いしばれ!」


 俺はボスのもう片方の頬をビンタする。


「あびゃあああああああああ!!」


 痛みに耐えかねたのか盗賊団のボスは意識を失ったようだ。


「他にビンタされたい方は居ますか?」


 俺がにっこりと笑顔を向けると盗賊達は全員武器を捨て投降した。俺は盗賊たちを許した。しかし、ロスキタスは


「コメット様は寛大な心で許したようだが、報いは受けねばならん」


「ぎゃあ!」


「ぶふぁ!」


「あばばばば!」


 ・・・


 盗賊全員に一発ずつビンタした。


 盗賊団全員の武装を解除させ所持品は全て没収。もちろんスキルも吸収させてもらい新しいスキル【ステータス偽装】をゲット。事情聴取を行い、他に仲間が居ない事は確認済みだ。そして盗賊たちは荷物持ちにジョブチェンジした。都に着いたら衛兵に引き渡すけどね。


「いやぁ、ラッキーでしたね。さすがに無一文では都市に入る事も出来ないでしょうから」


「コメット様は手際が良すぎですよ」


 俺は盗賊団から没収した魔法国金貨を指で弾いた。マリアさんの知り合いを頼るにしても都市に入れなければ探す事も出来ない。


 身分証はオアシス都市の狩猟ギルドの会員証くらいしかないが、最悪お金を握らせればなんとかなるだろう。


 金のインゴットを握らせたらそれはそれで問題になりそうだったからね。良かった良かった。


 その後、俺達は無事に魔法国王都にたどり着くことが出来た。

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