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――更に数日後、俺達は呼び出され宝物庫に連れて来られた。戦後の処理が一旦終わったのだろう。
「おおおーーー!!」
大量の金銀財宝や明らかに名工が作ったと思われる武器防具類が置かれている。
「む、この槍は……」
一緒に連れてきたロスキタスが一本の槍を手に取って眺めている。そこでふと思い出した。そういえば俺、ロスキタスの槍を作ってあげるの忘れていた、と。別に約束をした訳でもなかったがなんとなく申し訳ない気持ちになった。
「ロスキタスはその槍が気に入ったんですか? 1つ目はそれで決定ですね」
「な!? コメット様の褒美なのに某が頂く訳には!」
「いいんです。これは日頃お世話になっている俺の気持ちですから」
「……そこまで言うのならば、有り難く頂戴いたす」
普段から寡黙で真面目な顔ばかりしているロスキタスだが、どことなく嬉しそうだ。
「1つは決まったから、残りは2つですか」
「は、はい。その通りでございますです」
冷や汗をダラダラ流している財務大臣が答える。
「どうしようかなぁ」
あっ、良い事を思いついた。
「秘技! 数珠つなぎ!」
最近暇な時間を利用してスキルレベルを上げた裁縫スキルによって編み出した秘技を繰り出した。
細く頑丈なジャイアントスパイダーの糸でお宝同士を繋いだのだ。
そして1つのお宝を持ち上げるとジャラっと他のお宝も持ち上がる。
「これで1つ分でどうですか?」
「なんじゃそりゃあああ!? 良い訳あるかああああ!! あんた秘技とか言って何かしたじゃろ!!」
さすがの財務大臣もツッコミを入れざるを得なかったようだ。
「バレたら仕方がないですね。もっと腕を磨くとしましょう。お詫びとして、残り2つは……」
「なんじゃ!? これ以上どうするつもりなんじゃあああ!?」
「無しでいいですよ」
「ナシって何じゃ!? そんな無茶な要求が通るかああああ!……無しじゃと?」
「ええ、ここにある物で特別欲しい物はロスキタスの武器以外見当たりませんでした」
帝国の金貨も大量にあるのでお金には困っていない。あ、良い事を思いついた。
「代わりと言ってはなんですが、帝国金貨を金塊にしてくれませんか?」
「金貨を金塊にじゃと? 我々ドワーフにとっては簡単な事じゃが、何故じゃ?」
「これから魔法国に行くのですが、帝国とは戦争中なので帝国金貨は使えない可能性があるんですよ」
「なるほどのぅ。良いじゃろう」
「じゃあ、契約成立ということで」
俺と財務大臣は握手を交わした。
――それから数週間が経過した。今日は俺達がドワーフ王国を出発する日だ。
「それじゃ、行きますか」
俺が言うと、帝国から魔法国に向かう面々が頷いた。
「では、出口までご案内致します」
ドワーフ騎士団団長であるヴァリングが案内役のようだ。
わざわざ案内してもらわなくてもいいと最初は断ったのだが、どうやら出口までの道(穴)がまるで迷路のように入り組んでおり常人ではたどり着けないと言われ、大人しく案内役をお願いしたという経緯だ。
「お気をつけてくだされーー!!」
「救世主様ありがとーーーー!!」
『なんまんだぶなんまんだぶ……』
ん? 見送りに来ていたドワーフの一団の中からの声援があったが、お婆さんドワーフが最後に現地の言葉で何か言ったと思ったら自動翻訳されたらしい。
内容についてはともかくとして、こういう事もあるんだなと苦笑いするしかない。
「そちらも地下の旅は危険ですから気をつけて下さいねーーーー!!」
「十分に分かっておるわーー! 儂らはドワーフじゃぞ!!」
お互いに声を掛け合って別れた後、本当に迷路のような洞窟をひたすらに歩いた。
――数時間かけて地上に出た。出口は森とサバンナのちょうど境界にあるようだ。案内役のヴァリングは分岐路がなくなった時点で戻っていった。
「すぅーーはぁーー 新鮮な空気ですね」
「ヴァリングさんの話では森に沿って進めば街道に出られるとの事でしたね」
俺が深呼吸しているとマリアさんが話しかけてくる。早く魔法国に行きたいんだろう。俺も今の魔法がどんな風に進歩しているのか知りたいので同じ気持ちだ。
「そうですね。じゃあ、早速進みましょう!」
「はーい!」
「御意」
「了解です!」
俺の合図でロスキタスやマリアさん達、元奴隷の方々が歩き出す。
きっと魔法国に行けば魔導アーマーの魔石も手に入るだろうし、新しい魔法も覚えられるかもしれないし、ワクワクが止まらないな!
俺は魔法国を堪能する事を決意し魔法国を目指すのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ドワーフ王国編はこれで完結です。




