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――巨大蝉との戦いから数日が経過したが、未だに戦後の処理は続いている。
「ドワーフの皆さん、忙しそうですね」
「僕、暇だよー! 部屋に居るのもうやだー!」
俺の部屋まで遊びに来たマリアさんとルート君だ。
「時間がかかるのも仕方がないことです。王都の大部分が破壊されてしまいましたからね」
俺がそう答えるとマリアさんは家を失った人々を思い悲しげな表情となり、ルート君は我慢するしかない現状を認識し絶望の表情となる。
「ルート君、ドワーフ城の探検をして来たらどうでしょう?」
「城内の探検ならもうドワ君としちゃいました……」
「ドワ君……? あ、ドワーフ王のドワーザルガⅢ世のこと?」
「そうです。一緒に王家の秘密の隠し通路とか、宝物庫を見てきました!」
探検した時の事を思い出したのか少しテンションが上がったルート君。
「いいですねぇ。でも、全て見終わってしまったということですか?」
「そうなんです」
「うーん、困りましたね」
俺とマリアさんは何かないかと考えていると
「良いニュースを持ってきてやったぞい!」
部屋のドアをバーンと開けて飛び込んで来たのは元帝国魔導アーマー技師のシャーリンちゃんだった。
壊れてしまった俺専用魔導アーマーを持ち帰って部屋に閉じこもっていたはずだが、修理は終わったのだろうか。
「そんなに慌ててどうしたんですか? 良いニュースって何ですか?」
勝手に部屋に入りズカズカと近くまで来たシャーリンちゃんに問いかける。
「お主達、暇なんじゃろ? 遺跡の探検をしたくないかえ?」
「行きます!」
「「……」」
目を輝かせて答えるルート君に俺達は苦笑いで答えるしかなかった。
――という訳で俺達は遺跡入口の前まで来ていた。
「なるほど、先日の大地震で壁が崩れて遺跡の入口が見えるようになったんですね。それにドワーヴン輝石で中は明るいですね」
「そういうことじゃ。ドワーフ達には許可を取ってあるから入っても大丈夫じゃよ」
シャーリンちゃんがこんなに気が利くのはおかしい。何か狙いがあるに違いない。
「シャーリンちゃんは何が狙いなんですか? 何か手に入れたい物でもあるんですか?」
「もちろんあるぞい。それはお主にとっても必要な物じゃ」
俺とシャーリンちゃんが共通して必要な物といえばコレしかない。
「魔導アーマー関係ですか?」
「そうじゃ、魔導アーマーの安定動作の為にはどうしても特別な魔石が必要なんじゃ。ドワーフの遺跡であれば少しは期待出来るじゃろ」
「たしかにそうかもしれませんね」
「さぁ、ゆくぞい!」
そう言うとシャーリンちゃんは先頭を歩き遺跡の中へ。
「ちょっと待ってください! 罠があるかもしれませんから俺が先頭です!」
「仕方がないのう。では、出来るだけ急ぐように」
「分かりましたから、少し離れてついてきてください」
俺はそう言うと歩き出す。通路は真っ直ぐに伸びている。
少し進むと足に見えないほど細い糸が引っかかり、カシャッと横の壁が開き丸い穴が見えた。そして穴から矢が発射された。矢は俺に向かって飛んでくる。
「ほいっ!」
俺は余裕で矢を掴む。鑑定してみると毒が塗られているらしい。
俺は矢を放り捨てるとまた歩き出す。後ろで「凄い!」とはしゃぐルート君の声。
少し歩くとまたカシャッと横の壁が開き丸い穴が見えた。そして穴から銃弾が発射された。
今のはどうやって人が通った事を検知したのだろうか? 地球であれば赤外線センサーで通過を検知? それとも超音波センサーで距離を測ったとか? この世界なら魔力を検知するような方法があるのかもしれない。
「ほっ!」
俺は手のひらで銃弾を受けた。手のひらに当たった銃弾はポロリと地面に落ちる。
「お主の身体はどうなっておるんじゃ? ちょっと解剖してもよいか!?」
「絶対にお断りします!」
「残念じゃ……」
俺はシャーリンちゃんに返事をしつつ進む。
次から次へと罠が発動されていく。落とし穴、火炎放射、飛び出す槍、硫酸の池、振り子の大鎌、謎の爆発なんて罠もあった。
「う〜ん、ここまで罠が多いとは思いませんでした」
さすがの俺も笑ってしまうほど厳重な守りだ。過剰すぎる防衛とも言える。
「それを全部潰すお主もどうかしてると思うんじゃがのぅ」
シャーリンちゃんのツッコミは無視だ。
「あ、やっと扉が見えましたよ」
多くの罠を潜り抜けた曲がり角の先に木の簡素な扉があった。
あれだけ厳重に守られていながらただの木の扉とは……かなり拍子抜けである。遺跡というよりは、ただの小部屋のようにも見えてしまう。
「うーむ、これでは期待薄かのぅ」
「そんなぁ……。僕頑張ったのに」
「とりあえず、中を見てみましょう」
俺達は警戒しながら扉を開けた。




