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「やっと改造が完了したのじゃ!」
ずっと姿を見ていなかったあの魔導技師が漆黒の魔導アーマーに乗って来た。
と思っていたのだが、違和感に気づいた。シャーリンちゃんは実験の失敗で5歳児くらいの見た目になってしまったのだが、今はどう見ても10歳児くらいだ。
「シャーリンちゃん……ですか?」
「当たり前じゃ! こんな天才が何人も居るわけないじゃろ!」
シャーリンちゃんは魔導アーマーから飛び降りると自慢げに胸を反らせた。
「ふん! 言いたい事は分かっておるわい! 何故ワシの年齢が進んでいるのか疑問に思っておるのじゃろ。だが、今は説明している暇はない! とにかく今はこの魔導アーマーに乗って戦うのじゃ!」
「わ、分かりました」
今は目くらましが効いてるとはいえ、直に回復してしまうだろう。たしかに暢気に会話をしている場合ではない。
俺は急いで魔導アーマーに乗り込んだ。
「あ、言い忘れておったがまだソイツは未完成じゃ。通常の魔石では5分しか持たんぞ」
「え!?」
突然のカミングアウトに驚いたが、それで終わりではなかった。
「ついでに言ってしまうが、早く倒さないとどんどん年老いてしまうから早めに倒すんじゃぞ!」
「えぇ!?」
俺は理由を問おうとしたが、目の前のエンペラーイビルシケイダが復活してしまったようだ。
『下等種族が小癪な真似をおおおお!』
「げっ! もう復活したのか! シャーリンちゃんは離れていてください!」
エンペラーイビルシケイダが一直線にこちらに向かってくる。
「操縦方法の説明も練習も無しですか!?」
俺が目の前のレバーを握り適当に動かすが魔導アーマーの反応はない。
『死ねい!!』
「魔力を込めるんじゃ!」
エンペラーイビルシケイダとシャーリンちゃんの声が聞こえたと同時に魔力を込めると魔導アーマーは動き出しイメージ通りに緊急回避した。
「イメージ通りに動く。いや、イメージ以上ですね」
エンペラーイビルシケイダよりも速く動き回避したのだ。
「この速さなら、あのスキルも使えそうです!」
俺は急旋回しエンペラーイビルシケイダの背後に回り込む。
「吸収!」
魔導アーマーに魔力を流し込んでいるせいか通常は相手に触れている必要がある吸収が魔導アーマー越しでも発動した。
《スキル:皇帝統率を吸収しました。皇帝統率を取得しました》
俺の接近に気付いたエンペラーイビルシケイダは大きく距離を取った為、スキルは1つしか奪えなかった。しかし、本人はかなり驚いたようだ。
『貴様! オレに、オレのスキルに何をした!?』
まぁ、驚くよね。俺もスキルを奪われた時は相当焦ったし。
エンペラーイビルシケイダのスキル【皇帝統率】が無くなりドワーフ王城に侵入したエリートイビルシケイダの動きが鈍くなる。
『吸収させてもらっただけですよ。時間もないので次のスキルに行かせていただきますね』
俺は皮肉を込めて敬語で答えると即座に魔導アーマーを操って背後に回ると見せかけて上から攻撃する。と同時にスキルを発動させる。
「吸収!」
《スキル:配下回復を吸収しました。配下回復を取得しました》
「な!? 傷が勝手に塞がっていく!」
「負傷兵も治ったみたいだぞー!!」
倒れていたドワーフ王城の兵士達が回復し立ち上がる。それを見た他の兵士達が歓声を上げる。
「ドワーフ兵は俺の配下じゃないはずだけどな……」
その光景を見て俺は苦笑するしかない。
俺の事を救世主や指揮官のように思っていれば発動するのだろうか。
『オレのスキルを返せえええええ! 次元斬! 次元斬!』
「うわっと!」
さすがに次元斬を受けたら一発アウトだろう。
『死ね! 死ね! シネエエエエエ!』
半狂乱になったエンペラーイビルシケイダが次元斬を連発する。
「くっ! これはっ! 避けきれないかもっ!」
魔導アーマーの機動力をもってしても全てを避けきるのは不可能だった。
少しずつ外装が削られていく中、俺は覚悟を決めた。




