212
防衛戦が開始してから1時間が経過したが、ジャイアントセミーの数が全く減らない。死骸の山は出来ているが、ジャイアントセミーの後方から続々と現れてキリがない状況だ。
「吸収!」
《スキル:防御力強化1を吸収しました。物理無効に統合されました》
この1時間の戦いで俺の戦い方も変化してきている。ジャイアントセミーの防御力強化のスキルを奪うことでただのドワーフ兵士でも攻撃が通じるようになる事が判明したからだ。
「吸収!」
《スキル:防御力強化1を吸収しました。物理無効に統合されました》
ジャイアントセミーの防御力を減少させて処理はドワーフ兵士に任せる。俺は次のジャイアントセミーに向かうという作業だ。
「吸収! 次の獲物は……ん? あの敵はなんだろう?」
初めて見るタイプのセミだ。ジャイアントセミーよりも一回り大きく、色も黒っぽい。
「鑑定」
【ジャイアントイビルシケイダ】
LV:95
HP:15000
MP:5000
STR:150
VIT:450
DEX:100
AGI:50
INT:70
LUK:30
スキル:防御力強化5
ジャイアントシケイダが進化した姿。殻が金属でコーティングされており、凶暴性が増している。幼虫期に食した金属によって殻の硬さが変わる。97年間地下で生活し、地上で成虫となり大繁殖する。
ジャイアントシケイダの進化した姿か。ジャイアントセミーじゃなかったけど惜しかったな。うん、名前の事は忘れよう。地球のアメリカに17年蝉や13年蝉とかが居るらしいけど、こいつは97年蝉か。たしか生き残る為に自然と素数の年数に姿を現すようになったとか。
「こいつはレベルも防御力も高すぎてドワーフ兵士でも倒せないかもしれないな。でも、念の為……吸収!」
《スキル:防御力強化5を吸収しました。物理無効に統合されました》
「ロスキタス! こいつは別種です! ドワーフ兵士でも倒せそうですか!?」
ロスキタスがジャイアントイビルシケイダを槍で穴だらけにして倒した。
「この硬さではドワーフ兵の斧では歯が立たないだろう。ドワーフ騎士であれば多少戦えるだろうがな」
ジャイアントセミーの数は減り、代わりにジャイアントイビルシケイダの割合が増えてきている。これはマズい事になりそうだ。
「わかった。ロスキタスはヴァリングにそう伝えてください!」
「御意!」
ロスキタスは少し遠くで戦っているドワーフ騎士団長ヴァリングに報告しに行った。ヴァリングはドワーフ兵達に指示を出し、後方に下がらせたようだ。
「吸収! 猛毒! 強撃!」
俺は魔力を温存する為にスキルメインで戦っているが、単体に効果のあるスキルが多く殲滅速度は上がらない。範囲スキルである蟻地獄を一度だけ使ってみたが、ジャイアントセミーの数が多すぎて足止めにもならなかった。
少しずつ魔物の群れが侵入してくる。これ以上下がると範囲が広すぎてカバーしきれない。
「うぎゃああああ!!」
「助けてくれえええええ!!」
ついにドワーフ兵士達に被害が出始めた。
「撤退! ドワーフ兵は撤退せよ! 命を無駄にするな! 騎士は隊列を維持しつつ後退だ!!」
ヴァリングが指示を出す。さすがにここまでか。
「ロスキタス! 俺達も下がりましょう! ゴーレムは最後まで引き続き門で魔物を殲滅!」
「承知!」
俺はロスキタスとゴーレムに指示を出して、最後に上級魔法を使うことに決めた。
「冴ゆる氷雪の力よ フリーズ!」
今回は丁寧に詠唱付きで魔法を発動させる。出来るだけ広範囲となるように魔力を練り上げる必要があったので、どうせならと詠唱してみた。
「さすがはコメット様!」
門を超えて遠くまで見える範囲の魔物を氷漬けにした。
「これだけ凍らせれば多少の時間稼ぎにはなると思います。それでは王城に戻り……」
俺がそう言いかけた時、ジャイアントイビルシケイダ達の後方――視認出来るギリギリの場所が爆発四散し粉々になった氷がドワーヴン輝石に照らされてキラキラと舞っていた。
「敵の新手がもう来ているみたいです! 急いで戻ってください!」
門の前にアダマンタイトゴーレムを残し、俺とロスキタスはドワーフ騎士団の後ろについて急いで撤退した。




