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「これがドワーフ王国の朝か……」
俺は目覚めるとすぐに呟いてしまった。ドワーフ王国の朝は正直言って夜と何も変わらないからだ。
「今日の予定はどうしようかな。もしもアダマンタイトの用意が出来ているようだったらゴーレムを作ってしまおう。簡単な仕事は先に終わらせてしまったほうが気が楽だしな」
例えばメインの仕事とサブ的な些細な仕事を両方抱えていた場合、サブの仕事を先に片付けた方がメインの仕事に集中出来るし精神衛生上そのほうが良い。
「それが終わったらドワーフ王国観光だ!」
そうと決まれば身だしなみを整えて、体調や魔力が問題ないか確認する。ゴーレムは大きさや素材によって作成に必要な魔力が異なるからだ。
今回は門を守れる程度に大型で、素材も魔力を通しにくいアダマンタイトなのでほとんどの魔力を使ってしまうだろう。
こんな時に錬金術のスキルを上げておけば魔力ポーションを用意出来たのにと悔やんでも仕方がない。
コンコン
ちょうど準備を終えるとドアがノックされた。
「はい」
「おはようございます、コメット様。朝食の用意が出来ましたので食卓までご案内します」
――朝食はキノコスープと粉末状にしたキノコのパンだった。今は食後のキノコティーを飲んで休憩しているところだ。
朝食はキノコ尽くしだった。洞窟で採れる食材といったらキノコくらいしかないのだろうか?
かつての仲間にキノコ大好きっ娘がいたが、このキノコ料理を見たらどんなリアクションをするだろうか。
思わず笑ってしまいそうになり、慌てて周りを確認するとドワーフ王国の宰相と目があった。
「コメット様、正式にアダマンタイトを提供させて頂くことに決定致しました」
「あ、ありがとうございます」
ゴーレムを作ってあげる為の素材なのでお礼を言うのも少し変かと思ったが、こちらを信頼してくれた事に対する礼として言っておく。
「いえいえ、とんでもございません。アダマンタイトは既に城の工房に運び込んであります。お時間のある時にお立ち寄りください」
「分かりました。早速向かいますね」
「某はコメット様についてゆくぞ」
ロスキタスはいつも通りか。
「僕は王様と城を探検してきます!」
「私がちゃんと見張っておりますのでご心配なく」
ルート君の見張り役としてマリアさんがついていくらしい。適任だな。
シャーリンちゃんの姿が見えない事に少し不安が過ぎったが面倒事に巻き込まれる未来が見えたので、気にしないことにした。
俺とロスキタスは早速王城にあると言われる工房に向かった。
「コメット様! お待ちしておりましたぞ!」
大きな熊のようなガタイの男、ドワーフ騎士団長ヴァリングが工房の扉の前で待っていた。
「わざわざ待っていてくれたんですか? ありがとうございます」
「いやいや! お礼など滅相もないです! 私が勝手に待っていただけですから! それにゴーレムを作る所を見られるなんて一生に一度あるかどうか……おっと、私の話はどうでもいいですな。どうぞ、この部屋です」
ヴァリングが扉を開けてくれたので入ると、かなり広く天井も高い部屋で様々な工具や溶鉱炉のようなものが完備されていた。そして中央に大量のアダマンタイトが置かれ山となっている。
「これは凄いですね」
「ドワーフ王国で最高の工房です」
何やら兵器の試作品のような物もちらほらと置かれている。
「ドワーフ王国の兵器はここで作られているのですか?」
「はい。攻城戦に使うような大型兵器もここで作られておりました。今は魔物との戦いの為に武器防具を作るのに手一杯な状況ですが……」
「なるほど……では、この辺りの広めのスペースを使わせて貰ってもいいでしょうか?」
「もちろん大丈夫です! 工具や設備もご自由にお使い下さい」
「ありがとうございます」
俺は部屋の中央のアダマンタイトの前に立つ。ここで大型ゴーレムを作ると設備に当たってしまいそうだ。少し移動させようか。
「大顎!」
蟻地獄の大顎でアダマンタイトを挟み込み、移動させた。
「コメット様!? 何ですかそのスキルは!?」
ヴァリングは目を見開いて驚いている。
「いや〜、なんとなく覚えたんですよねぇ」
適当に誤魔化しておいた。
「なんて多才なお方なんだ!」
中年のごついおっさんにキラキラした目で見つめられても嬉しくない。どうせなら前途ある少年少女から見つめられたほうがまだマシだ。視線を逸らすと工房の奥にシャーリンちゃんが一瞬見えた気がしたが気のせいか。
「いや〜、ははは……」
俺は乾いた笑いしか出なかった。スキル:吸収で覚えましたとは口が裂けても言えない。
「では、気を取り直して……始めます!」
俺は魔力操作を行いアダマンタイト全体を包み込むように魔力を浸透させていく。
本来アダマンタイトは魔力を通しにくい金属であるが緻密な魔力操作によって可能となった。
1000年前に魔法大学の学長からここまで精密な魔力操作が出来る者は見たことがないとまで言わしめた実力なのだ。まぁ、1000年後の現在はどうなのか分からないけどね。
「クリエイトゴーレム!」
俺が魔法を発動させると魔力が中心に集まりコアが出来上がる。その後、周辺のアダマンタイトがムクムクと盛り上がりゴーレムの形を形成していく。
「ふう、魔力が足りないかと心配でしたがなんとか成功したみたいです」
目の前にはアダマンタイト製の巨大なゴーレムが直立していた。
「す、凄い……」
ヴァリングはゴーレムを見て半笑いになりながらブルブルと震えている。大丈夫だろうか?
「じゃあ、コイツを門まで移動させ……」
カンカンカンカン!!
俺が言い終えるよりも早く鐘の音が聞こえてきた。
「まさか! もう魔物達が門まで辿り着いたというのか!」
ドワーフ騎士団長のヴァリングは急いで窓から門の方向を確認する。俺も門の方向を見てみると、開いていた王都の門が急いで閉じられていくのが見えた。
「コメット様、申し訳ないが私は行かねばなりません!」
ヴァリングはドワーフ騎士団長の勤めを果たしに向かったようだ。
「コメット様も門に向かわれるのか?」
ロスキタスが俺に聞いてきた。
「ええ、もちろんです。本来なら門の外にゴーレムを配置したかったんですけど仕方がないですね。向かいましょう。ゴーレム、ついてこい」
ゴーレムにも指示を出して門に向かう。ちなみに工房には攻城戦兵器等を搬出する為の大きな扉があるようなのでゴーレムはそこから外に出た。
「門が破壊されるまで多分1時間程度ですかね~。ロスキタスはどう思いますか?」
俺がロスキタスに質問してみる。
「コメット様の推測通りかと」
「1時間あれば余裕で門が破壊される前までにたどり着けますね」
「恐らく大丈夫でしょう」
俺とロスキタスはアダマンタイトゴーレムを連れてゆっくりと歩く。大通りには警報を聞いた大勢の市民が王城を目指して避難を始めている。巨大なゴーレムのせいで事故が起こる可能性もあるのでゆっくり歩くしかなかった。
「これは何だ!?」
「ひっ!」
「化け物!」
すれ違うドワーフ達は皆アダマンタイトゴーレムを見ると驚愕し恐怖した顔をする。
しかし
「恐れるな! これはアダマンタイトゴーレム! コメット様がお作りになった守り神なのだぞ!」
ロスキタスが一喝すると民衆は静かになり、次第に別の声が聞こえてくる。
「頑張ってくれ!!」
「俺は応援するぞぉう!!」
「頼むー! 俺たちの王都を守ってくれぇ!!」
民衆の声は俺達を応援する言葉に変わっていった。




