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「コメット様、無事か!?」


 列車からロスキタスが出てきた。続いてマリアさんやルート君、元奴隷の人達が出てくる。


「これは損傷が激しいのう。これは修理にしばらくかかるぞ」


 シャーリンちゃんが既に車体のチェックを始めているようだ。


「ロスキタス、こっちは大丈夫です。皆は怪我とかありませんか?」


「怪我はなさそうですが、精神的なショックが大きいようで動けない方が何人か居ます」


 ロスキタスの代わりにマリアが答えた。あれだけの落下を経験すれば気分が悪くなるのも無理はない。


「そうですか。俺達は外の様子を見てきますから皆は列車内で休んでいるよう伝えてください。ロスキタスは護衛としてついてきてください」


「はっ!」


「分かりました」


 2人の返事を聞いた俺は蟻地獄を土魔法で固めながら登っていく。


 少し休憩したが、魔力は枯渇寸前だ。こんな状態で襲われたら面倒なのでロスキタスにはついてきてもらうことにした。落ちている途中で見えた魔物と争う人影も気になる。


「ロスキタス、さっき落ちている間に見た物について教えておきます」


「コメット様が見たもの?」


「はい。ここには人工的な明かりがあり、複数の人影が魔物らしきモノと戦っているのを見ました」


「なるほど、この音はその争いの音か」


「音ですか?」


 俺が周囲の音に意識を集中させると、遠ざかる魔導列車のエンジン音に紛れてかすかに雄叫びのような声や金属音が聞こえてきた。


「ああ、たしかに聞こえますね。戦況はあまり良くなさそうです! 早く行きましょう!」


 俺は走って蟻地獄を登り切ると、明かりの見える方向を確認する。


 背が低く、筋肉質、ヒゲに覆われた顔の武装した集団が2メートルはある巨大な(せみ)の幼虫のような魔物(ジャイアントセミーと名付けよう)の群れと争っているのが見えた。


「あれはまさか……ドワーフ!?」


 異世界に来てから長い年月が経過したが、ついに念願のドワーフに会う事が出来た。


「ふむ、あの見た目ならば間違いなくドワーフだ」


 ロスキタスも同意見のようだ。音でドワーフ側が不利だと推測していたが、目視で確認して推測が正しかったと確信した。なぜなら、ドワーフ達が頑張って斬りかかっているがジャイアントセミーの硬い殻に弾かれている。一部強そうなドワーフは互角以上に戦っているようだけど、多対多の戦いに影響を与えるほどではない。


「すぐに助けましょう!」


「承知!」


 俺とロスキタスは走ってジャイアントセミーの群れを横から急襲する。


「某はロスキタス! このコメット様の従者である! 助太刀致す!」


 ドワーフ達はこちらを見て一瞬驚いたが、助太刀だと分かると安堵の表情に変わった。かなりギリギリの状況だったらしい。


 ロスキタスは愛用の槍で戦うらしい。俺はどうしようかと思ったが、以前魔導アーマーとの戦いで剣が折れて以来何も用意していない事に気がついた。


「あ! 剣を直すの忘れてた!」


 仕方がない。格闘術でいいか。俺はドワーフと戦闘中のジャイアントセミーに急接近するとその横腹めがけて


「コメット流空手、正拳突き! 正拳突き! 正拳突き!」


 ジャイアントセミーの鎌のような手を破壊して、更に脚も破壊した。蝉の幼虫のような見た目だけあってなかなかに硬い外骨格をしているが、俺のレベルも上がっているので攻撃力でゴリ押した。


 これでドワーフにも勝機があるだろうと判断して次のジャイアントセミーに向かう。


 そんな作業を繰り返していると段々とジャイアントセミーの数は減っていき、最後の1匹を倒し終えると周囲から歓声が沸き起こった。


「あの者達は何者なんじゃ!?」


「あんなに苦戦していた魔物達を簡単に倒しおったぞ!」


「上から降ってきたのを見たぞ!」


「とにかく助かった!俺達は助かったんじゃー!」


 俺とロスキタスはジャイアントセミーの残党が居ないか周囲の警戒を続けつつ、ドワーフ達の出方を待った。


 すると、ドワーフ達の中から一際筋骨隆々のドワーフが進み出てきた。ジャイアントセミーと互角以上に戦っていたドワーフだ。纏っている武器・防具は上質な物のように見える。


「私はドワーフ王国騎士団団長ヴァリングだ。貴殿らの助力、感謝する」


「コメットと申します。こちらはロスキタスです。礼には及びません。偶然通りがかったというか、落ちてきただけですので」


「ふむ、部下から報告のあった落下物とはやはり貴殿らの事であったか」


「はい、そうだと思います。地上に戻りたいのですが方法をご存知でしょうか?」


「うぅむ……」


 騎士団長ヴァリングは何か言いにくそうに黙ってしまった。


「何か問題でも?」


「方法は知っているが、今は案内出来ない状況なのだ」


「先程のジャイアントセミーの件ですか?」


「ジャイアントセミー? 我々の間では違う呼び方をしているが、地上ではそう呼ばれているのか。これからは我々もジャイアントセミーと呼称するように部下に伝えておこう」


 え!?  俺が勝手に命名したんだけど、勝手に正式名称のように扱われている。これは少し不味いんじゃないか? でも、今更訂正するのも恥ずかしいし面倒くさい。もうどうにでもなれと諦めた。


「そ、それで案内出来ない状況というのは?」


「ああ、そうであった。今このドワーフ王国は滅亡の危機に瀕しているのだ。ある時から突然大量のジャイアントセミーが現れ、鉱山での採掘が出来なくなり、じわじわと領土が侵食されていった。ドワーフ王は全騎士団を引き連れ討伐に向かったが、全滅。現在はまだ幼い王子と急いで再編した騎士団でなんとか王都を守っているところなのだ」


 なんてこった。せっかくドワーフの国に来たのだから観光しつつ鉱物を買ったり、武器防具の作り方を勉強したりしたかったのに、こんな状況じゃ絶対に無理だ。そして、俺達を地上に案内している余裕もないということも納得した。


「地上までは無理だが、命の恩人にお礼がしたい。是非、王都に来てもらいたいが、どうだろう?」


「はい、お願いします。出来れば、そこにある魔導列車も運んでいただきたいのですが可能でしょうか?」


「問題ない。我らドワーフは土魔法が得意なのでな。部下達に運ばせておく」


「ありがとうございます」


 俺達は魔導列車に戻りマリアさん達に事情を説明し、全員でドワーフ王国王都に向かうことにした。

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