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魔導列車の後方にはまるでマンションのような建造物がくっついていた。夕陽を背景にして巨大な影がそびえ立っている。
「シャーリンちゃん、これはどういうつもりですか!?」
「ああ、お主か。どうじゃ! 凄いじゃろ!?」
「凄いですけど、アレは一体何なんですか?」
「何って、もちろん魔導列車の増築じゃよ。元奴隷が多すぎて乗れないと相談を受けてのう」
それなら魔導列車に客車が増えていくと予想していたのだが、まさかマンションとは……。
「こんな大きな建造物を引っ張る力は魔導列車には無いですよね?」
「……ふふふ、よくぞ聞いてくれたのじゃ! このシャーリン移動宿3号は独自の魔導機関によって動力を生み出すことが――」
しまった、と後悔してももう遅い。スイッチの入ってしまったシャーリンちゃんの講義が始まってしまったのだ。
――1時間後。
「というわけで、魔導列車は今までの100倍の馬力を出すことが可能になったのじゃー!!」
「……長かった。よく分かりました。シャーリンちゃんに説明を求めてはいけないということが……」
今日は一日色々とありすぎて疲労がピークに達していた。そこにシャーリンちゃんの長い説明による追い打ちである。
「ん? 何をブツブツ言っておるのじゃ?」
「いえ、魔導列車改造の件はよく分かりました。もう夜になってしまいましたし、聞きたいのは1点だけです。シャーリンちゃんは今後どうしますか? カーラさんと一緒に砂漠のオアシス都市に行きますか? それとも俺やマリアさん達とロディニア魔法国に行きますか? ここに残るという選択肢もあると思いますが、どうしますか?」
「そうじゃな。お主達と魔法国に行くのも悪くないかもしれんな。よし! ワシはロディニア魔法国に行くと決めた!」
「いいんですか? てっきりカーラさんの魔導アーマーの改造目当てにカーラさんに付いていくと思っていたのですが」
「魔法国の技術を学べば、きっとワシの魔導アーマー技術は更に高まるのではないかと思うのじゃ。それにロスキタスの魔導義足のメンテナンスもしなければならないしのう」
「なるほど。意外とちゃんとした理由があったんですね」
「意外は余計じゃ!」
「聞きたいことは以上です。今日はゆっくり休んでください」
「ああ、今の作業が終わったら寝ることにするよ。寝不足は老体には堪えるからのう」
老体? どう見ても幼女なシャーリンちゃんはまだまだ元気そうに見える。俺は聞かなかったことにしてその場を去った。
翌日、奴隷解放や食料のチェックなど色々と準備をしていたところ魔導列車が完成したようなので見に行った。
「どうじゃ! シャーリン移動宿4号は! カッコいいじゃろう!」
「あれ? 昨日は3号じゃなかったですか?」
「気に入らなかったんでな、作り直したんじゃ!」
あの巨大な建築物を作り直したとは到底信じられないが、ツッコミを入れた瞬間に嬉々として説明を始めるシャーリンちゃんが思い浮かんだ為、無言を貫くことにした。それにしても昨日は徹夜で作業をしたのだろうか。
「……。これで今日中にはオアシス都市に向けて出発できそうですね」
「もう動力源に魔石もセットしてある。いつでも出発可能じゃ」
「では、今すぐオアシス組は魔導列車に乗り込んでもらいましょう。マリアさん、お願いします」
「はい。伝えてきます」
元奴隷の人々からの人気が一番高いのは救ってくれた太陽神らしいが、二番目に人気なのはマリアさんらしい。元々同じ奴隷だったということと俺やカーラが作戦で不在の間にまとめ役をしていたのがマリアさんだったからだ。
マリアさんからの指示が伝わり、ぞろぞろとシャーリン移動宿4号に乗り込んでいく。こんな巨大な建築物が移動するというのが今でも信じられないがもうすぐ答えは分かるだろう。
最後にカーラが魔導アーマーに乗ってやってきた。カーラは魔導アーマーから降りて俺の前までやってきた。
「コメット殿、この身を助けてもらい本当に感謝している。オアシス都市までの護衛は任せてくれ」
「いえ、(帝都観光のついでに)当然のことをしたまでです。魔導列車の護衛をよろしくお願いします」
「うむ。では、また会おう」
そう言ってカーラが手を差し出してきたので、俺も握手で応える。カーラが魔導アーマーに乗り込み魔導列車に合図を出すと魔導列車が動き出し少しずつ加速していく。
「本当に動いた。凄いですね」
「当然じゃ! 天才魔道アーマー技師であるワシが作ったのじゃからな!」
シャーリンちゃんが自慢気に胸を張っている。見た目が幼女なせいで、微笑ましい絵面になってしまっているが事実として巨大な建築物が移動している様を見ると素直に関心してしまう。
「それじゃあ、魔法国ロディニアに向けて出発しましょう。こちらの移動手段は俺の獣魔達でいいですか?」
「忘れておるのか? ワシのドリル型魔導アーマーがあるじゃろうが」
シャーリンちゃんが攫われた際に脱出用に急造した魔導アーマーだったっけ。帝都を脱出する際にも活躍していたが、今回それを使って移動するつもりなのだろうか。
「それは……1人乗り魔導アーマーではなかったですか? 確かロディニア魔法国行きは10人は居ましたよ。まさか魔導アーマーでトンネルを掘って全員徒歩でついていくなんて事は無いですよね?」
俺が疑問を口にする。
「当たり前じゃ! ちゃんと全員乗れるように工夫したわい!」
「そうですか。それならいいですかね……?」
若干の不安は残るが思わず納得して許可をしてしまった。
「さあ、ドリル型魔導列車に皆乗り込むのじゃ!」
魔法国行きの全員がドリル型魔導列車に乗り込む。従魔達はさすがに魔導列車には乗れないのでここで解放した。現地解散組は既に出発済みだ。
「地中を進んで魔法国に行くとは思わなかったです。大丈夫でしょうか?」
マリアさんが不安な表情を浮かべる。
「うーん、多分大丈夫だと思うんですが、シャーリンちゃんが作った物って良くも悪くも何か起こすような予感がするんですよね」
俺は苦笑いしながら答えた。
「固定装置解除よし! 深さ0-2-0! 進路2-7-0! 出発進行じゃー!」
ロディニア魔法国とはどんな国だろうか。1000年の間に魔法はどれだけ発達したのか。大きな期待を胸に俺達は帝都を出発した。
これにて世界大戦_帝国編は終了です。




