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 僕ちゃん、いや、スネーキー子爵は俺のスキル【蟻地獄】の中で藻掻いている。あれだけ余裕ぶっていたのが見る影もない有様だ。


「憐れな奴……」


 俺が思わず呟くとジタバタと藻掻いていたスネーキー子爵がピタッと動きを止めた。


「……今、何と言った?」


 今まで俺の言葉はほとんど届いてないと思っていたが、まさか今のつぶやきが聞こえたのだろうか。


「僕ちゃんを、この高貴な僕ちゃんを平民風情が『憐れな奴』だとおおおお!?」


 黄金の魔導アーマーがブルブルと震えている。操縦桿を握ったままブルブルしているのかもしれない。


「猿ごときに本気を出すこともないと思っていたがもう我慢の限界だ! ママにも禁止されている真の実力を見せてやる! 全補助魔石接続! 出力200%!!」


 黄金色だった魔導アーマーが徐々に赤くなっていく。熱風が吹き荒れ、何度も肌に叩きつけられる。


 これ、普通の人だったら接近すら難しいんじゃないか? 近づいただけで全身大火傷になるはずだ。まぁ、俺には炎熱無効があるから問題はないけどね。


「……」


 スネーキー子爵の魔導アーマーはフワリと浮かび上がると簡単に蟻地獄を抜け出した。


 そして急に喋らなくなったスネーキー子爵を不思議に思った。


「なんで急に無口になったんだろう。もしかして、熱でスピーカーが壊れたとか……?」


 魔導アーマーがピクッと動いた。図星だったようだ。一番厄介だった音攻撃が無くなったようだ。


 スネーキー子爵としてはかなりパワーアップしたつもりぼようだけど、こちらとしては弱体化したように見えてしまった。


 自分が魔導アーマーに乗るときは使い時に気をつける必要がありそうだ。


「!!」


 赤熱した魔導アーマーが同様に赤熱した大剣を構えて亜音速で飛来してくる。出力2倍は伊達ではないようだ。


 俺は両手剣を構えてそれを迎え撃つ。


「〜〜ッ!!」


 剣同士の衝突の瞬間、これは絶対に正面から受けてはいけないヤツだと悟った。


 全力で回避行動に変更し、ギリギリで回避に成功した。真横を熱風が通り過ぎ、焦げ付いた匂いがする。


「危なっ! 今のをまともに受けていたら真っ二つにされていたかも」


 でも、よくよく考えると物理無効スキルで無効化される可能性のほうが高いかな? どっちにしても死ぬことはないけど、服や防具が駄目になるのは嫌だ。


 俺は両手剣を構えて次の攻撃に備える。すると、ある事に気付いた。


「あああ! 俺の両手剣が真っ二つにされてるじゃん!!」


 防具の心配をしていたら武器を破壊されたでござる。許すまじ!


 通り過ぎたスネーキー子爵の魔導アーマーを見ると既に反転しこちらを狙っている。そして魔導アーマーの胸部分が開き、赤く輝く。そして輝きは段々と強くなっていく。


「こんなに離れた距離で何を……まさか! 遠距離攻撃も可能なのか!?」


 どうする? 今から接近しても間に合わない。魔力が減って、もう上級魔法は撃てない。俺が考えている内にどんどん輝きが増していく。


 そして、一際強く光った瞬間こちらに赤い閃光が発射された。


「熱光線か! 熱光線には熱光線! 太陽神の怒り!!」


 互いの熱光線が中央でぶつかり合う。莫大な熱量が発生し、周囲の物を燃やし尽くす。


 しばらく膠着状態が続いたが、太陽神の怒りのほうが先に終了してしまった。


「!!」


 必死に回避を試みたが、熱光線が太陽神の仮面に当たり、俺は反動で吹き飛ばされた。炎熱無効スキルによってダメージはないが、太陽神の仮面が顔から外れて吹き飛ばされてしまった。


 その直後、相手の攻撃も止んだ。


 俺は仮面と武器の恨みを込めてスネーキー子爵を睨みつける。そしてふと違和感を覚えた。


「ん? あの魔導アーマー何か変だぞ」


 俺は新しく取得した千里眼スキルを使って魔導アーマーを観察する。


「もしかして、外装の表面が溶けてるのか!?」


 赤熱し、かなりの高熱となっているであろう魔導アーマーは溶け始めていた。魔導アーマーを手に入れたい俺としては最悪の展開だ。


「スネーキー子爵は馬鹿なのか! このままじゃ魔導アーマーが壊れてしまうじゃないか!」


 一刻も早くスネーキー子爵の暴走を止めなければならない。しかし、魔力はほとんど空っぽ。魔物スキルでは傷すら付けられなかった。両手剣は切断されてしまった。他の武器は持って来ていない……。


 俺は覚悟を決めた。


「もう、こうなったら信じられるのは己の肉体のみ! かかってこいやぁ!!」


 攻撃手段が残されていない俺は格闘術10に全てを賭ける事にした!


 俺の掛け声に応えるかのように魔導アーマーが急加速で接近してくる。


 極限まで集中力を高めた俺には魔導アーマーがスローモーションに見える。


(いけるッ!)


 魔導アーマーの大剣の腹を拳で叩き剣の軌道を逸らす。ジュッという音と共にバジリスクの革で作った篭手が焦げて炭と化す。


 そのまま、人体の弱点である正中線をすれ違いざまに連打した。


「あ、魔導アーマー相手に正中線とか意味ないか……!」


 今更後悔しても仕方がない! 俺は通り過ぎていく魔導アーマーに向き直ると再び構えた。


 先程よりも魔導アーマーの表面が溶けているように見える。更に動きも悪くなってきているようだ。


「もう時間がない! 絶対に次で決める!!」


 魔導アーマーの反転が終わりこちらに加速してくる。だが、加速が弱い。今が好機!


 俺は魔導アーマーに向かって全力で加速する。


「ウィンド・ウォーター・ファイア!」


 俺の背後に追い風を発生させ、更に水蒸気爆発を起こす。背中が押される感覚に身を任せて更に加速する。


「うおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」


 赤熱し赤く輝くスネーキー子爵の魔導アーマーが目の前に迫るが俺は避けない。正面から受け止める覚悟だ。


 魔導アーマーが持つ高熱の大剣が大上段の構えに位置している。スネーキー子爵も次の攻撃に賭けているのだろう。


 俺はもう小細工はしない。単純な力比べだ。大きく弓を引くように右拳を構える。


「死ねええええええええ!」


 スネーキー子爵の声が聞こえた気がした瞬間、魔導アーマーの腹が開き大量の金属の矢が射出された。スネーキー子爵の隠し玉だ。


 俺は全身に矢を浴びるが、物理無効によって無事だ。そのまま前進し、スネーキー子爵の魔導アーマーと正面衝突する。


 衝撃波が円形に広がり、地面が陥没する。この衝撃だけでもスネーキー子爵はダメージを受けたかもしれないが、まだ足りないかもしれない。俺は停止した魔導アーマーの後ろに回り込み腰に手を回す。


「喰らえ! 3連続ジャーマンスープレックス!!」


 魔導アーマーにダメージを与えるよりもスネーキー子爵にダメージを与える事を優先した結果、中を大きくシェイクしてやればいいと考えた。その結果が3連続ジャーマンスープレックスである。


 3回分の衝撃音が周囲に響き渡った後、静寂が訪れた。


「はぁ、はぁ、……勝った!!」


 俺は思わずガッツポーズをとった。欲しかった魔導アーマーもなんとか壊れる前に停止させることが出来た。


「完璧だ……!」


 俺は計画通りに事が進み、魔導アーマーを手に入れたことで顔がニヤけてしまう。


 しかし、第三者から見たコメットの防具はほとんどボロボロであり、ほぼ全裸であり、その状態でニヤついている姿は完全なる変態であった。

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