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「やっと観念したか! お前のせいで僕ちゃんの部隊がひどい目に遭ったのだぞ! お前を捕らえて帝都に戻ったら何ヶ月も拷問してやるから覚悟しろ!」
スネーキー子爵は魔導アーマーに取り付けられたスピーカーから大音量で怒鳴り散らした。
「うるさいな。そんな宣言をされて大人しく捕まる奴なんて居ると思っているんですか?」
俺は黄金の魔導アーマーをさっさと無力化、回収して魔導列車に向かう予定だ。
「僕ちゃんの魔導アーマーの性能は量産型の10倍なのだ! 見ろ! この美しい機体を! お前がどんな抵抗をしようと無駄! 無駄以外の何物でもないのだぁぁ!」
スネーキー子爵は俺のつぶやきに気づくこともなく色々とポーズを取りながら演説をしている。自分の魔導アーマーが相当気に入っているようだ。性能10倍かぁ、なおさら手に入れなくては!
善は急げだ。俺は片手を持ち上げると挑発するようにクイクイッと相手にしてみせた。
「御託はいいからかかってこい」
「貴様ああああ! 僕ちゃんの演説を理解出来ない猿の分際で生意気な! 一瞬で粉々にしてやる!!」
スネーキー子爵の魔導アーマーが爆発的に加速しこちらへ向かってくる。その後方には大きな砂煙が立ち昇り、本当に爆発が起きたかのような様相を呈している。
そこで、俺は大事な台詞を言い忘れていることに気づいた。危ない危ない。これは一度は言っておきたかったんだ。
「見せてもらおうか。帝国の魔導アーマーの性能とやらを!」
よし! 言ってやった! もうこれで思い残すことはない。いや、これだと死亡フラグになってしまうか。などと考えていると予想を上回る速度で魔導アーマーがすぐ近くまで接近していた。
「死ねええええ!」
うるさっ! すぐ近くから大音量のスピーカーで叫ばれて耳がキーンと鳴っている。ある意味これはこれでかなり有効な攻撃手段と言える。音を防ぐことは両手で耳を塞ぐだけで簡単だと思うかもしれないが、戦闘において両手が使えないことは致命的と言える。更に聴覚も遮断される為、相手の気配を察知することも難しくなる。
もし俺が魔導アーマーを手に入れたら、その戦法を取り入れてみようか。余計な事に気を取られている間にスネーキー子爵は魔導アーマー専用の大剣を上段に構え振り下ろしているところだった。
このタイミングではもう躱すことは出来ないと瞬時に判断した。ここは砂鋼の両手剣で受けるしかない。
ガキィンッ!!
「クッ……重……ッ!!」
ピキリと音がする。剣にヒビでも入ったのか、それとも俺の筋肉が悲鳴を上げているのか。俺のステータスは便利さ重視でAGIを主に上げていた為、STRはそれほど上げていない。それが今回は裏目に出てしまった。
本当か嘘か分からないが、スネーキー子爵の黄金の魔導アーマーは量産型よりも10倍の性能を持つと言う。つまり、攻撃力も俺の知る魔導アーマーの10倍ということだ。自分のレベルが下がったせいもあるが、これほどの威力だとは思わなかった。先程の加速力を見ても俺よりも速い可能性が高い。ステータスとしては完全に負けていると考えて作戦を立てたほうがいいだろう。
「馬鹿な!! 僕ちゃんの剣を受け止めるだとぉ!?」
大音量でスネーキー子爵が叫ぶ。だから耳元で怒鳴るんじゃない! 音の攻撃が一番ダメージあるかもしれない。
「ちょっとうるさいので黙ってくれませんか!」
「僕ちゃんに指図するな!!」
今度は横薙ぎに大剣を振るってくる。俺はしゃがみ込みその大剣をギリギリ躱すが強烈な風圧でバランスを崩してしまった。
「しまっ……!!」
その隙を見逃すはずもなく再度大上段からの振り下ろしがやって来た。もう両手剣の防御は間に合わない! 一か八かアレを使うしかない!
「大顎!!」
蟻地獄から吸収したスキル【大顎】だ。とっさに思いついたのは真剣白刃取りだったが、スキルに似たような物があると気づき一か八か使ってみたのだ。
ガガンッ!!
「なんだとぉ!?」
俺の前方に発生した大顎はスネーキー子爵の大剣を挟み込んだ。
成功だ。万が一失敗した時は確実に斬られていた。斬られるどころか、むしろ真っ二つになっていたかもしれない。
だが、大顎で挟み込んだ大剣の勢いを殺し切ることは出来なかった。スネーキー子爵の大剣は少し速度を落としたもののそのまま地面に深く突き刺さった。その反動で俺は後方に大きく吹き飛ばされる。
「くう……ッ!!」
帝都の外はサバンナのような地域である。遮蔽物がほとんど無い為、何十メートルも吹き飛ばされた。俺は両手剣を地面に突き刺しなんとか勢いを殺した。
そこへ遠くからスネーキー子爵の声が聞こえてくる。
「見たか!! 僕ちゃんの魔導アーマーの力を!! 猿の小細工など通用しないのだ!」
猿、猿とうるさい男だ。貴族以外は全員猿とでも思っているんじゃなかろうか。
奴の言っている小細工とは多分スキル【大顎】の事だろう。砂漠のない帝国に蟻地獄は居ない。全く見たことがないスキルでかなり驚いたんじゃないかな。
「そんなに見たければもっと見せてあげますよ!」
そう言って俺はスネーキー子爵に向かって走り出す。スキルの射程距離にはまだ届かない。
「僕ちゃんに敵わないと知りながら向かってくるとは良い度胸だ。が、無謀すぎて所詮猿は猿だなぁ! ギャハハハ!」
スネーキー子爵が下品な笑い声を大音量で撒き散らす。あの余裕ぶった表情をすぐに驚きの表情に変えてやろう!
「蟻地獄!」
スネーキー子爵の周囲の大地が砂漠化し、蟻地獄へと変化していく。
「な、何だ!? ぼ、僕ちゃん沈んでいく!?」
黄金の魔導アーマーが暴れれば暴れるほど砂に埋まっていき胸の辺りまで砂に埋まった。




