199
「お前達は我々スネーキー魔導私兵団により包囲されている! 大人しく出てこい!」
外から拡声器を使った声が聞こえてきた。
「スネーキー子爵がやって来たみたいですね。皆さん、準備はいいですか?」
カーラ、ロスキタス、従業員達が静かに頷く。
ネルソンはブンブンと首を振っている。この男はまだ覚悟が出来ていないのか。
「よし! 行きますよ!」
俺は太陽神の仮面を被るとネルソンを後ろから羽交い締めにして外に飛び出した。ちなみに奴隷商人アランデルはカーラに羽交い締めにされており、ネルソンが捕らえたフィッツジェラルドはロスキタスが羽交い締めにしている。
「や、奴等が出てきたぞ! 人質を盾にしているぞ!」
スネーキー魔導私兵団がどよめく。その隙に俺は敵の戦力を観察する。
前方には魔導アーマーが12機。更に建物を囲むようにただの兵士が数百人程、そして中央には黄金色の魔導アーマーに乗ってこちらを睨みつけている男。多分、この男がスネーキー子爵だ。
スネーキー子爵らしき男が一歩前に進む。
「僕ちゃんはスネーキー子爵である! 今すぐに人質を解放し投降するのだ! そうすればママから買って貰った魔導アーマーで苦しまずに殺してやる!」
あんな大人が僕ちゃんて……。そんなことよりも、こっちが処刑されることは確定のようだ。俺は一歩前に出て答える。
「分かりました。人質を解放しましょう!」
バン! っとネルソンゴーレム商会の扉を開くと、従業員達が全員飛び出す。更にロープで両手を縛った傭兵達も一気に解放した。
「おい! どうなっている!? 人質が多すぎだ! 全員止まれええええ!」
スネーキー子爵が慌てて指示を出しているが現場は大混乱となっている為、指示に従う者など居ない。
「今の内です! 南門に向けて走って下さい!」
俺が指示を出すと、俺とロスキタスとカーラは人質を連れたまま全力で走り出す。
「ま、待て! くそ! 歩兵では間に合わん! 魔導アーマー兵は僕ちゃんについてこい!」
スネーキー子爵が黄金の魔導アーマーで追いかけてくる。黄金魔導アーマーは他の魔導アーマーよりも速度が速いようだ。見た目だけじゃなく中身も特別製ってことか。
「決めた! あの黄金の魔導アーマーは俺が貰う事にします!」
「コメット殿! 今そんな余裕はないのでは!?」
横を走るカーラが言った。自然とカーラの乗る赤い魔導アーマーが視界に入る。
「今だからこそです! 帝都を出たら次はロディニア魔法国に行くんです! 暫くの間は帝国には戻れないんですよ! そしたら魔導アーマーは手に入らないんです!」
そう、魔導アーマーを手に入れるなら今しかないのだ。誰になんと言われようともこのミッションは達成しなければならない!
「そ、そうか。私達はどうする? 手伝えばいいのか?」
カーラが若干引き気味になっている。少し熱弁しすぎたかもしれない。しかし、反省はしていない!
「いえ、作戦通りにお願いします。俺は南門を抜けたらスネーキー子爵と戦います!」
魔力は空っぽだが、俺の武器は魔法だけじゃない。剣術や格闘術もスキルレベルは最大なのだ。
「了解! では作戦通りだな!」
「ああ、そろそろ南門だ! ロスキタス!」
「承知!」
ロスキタスは人質として連れてきていたフィッツジェラルドを全力疾走の速度のまま解放した。
スガベシャアアアア!!
フィッツジェラルドは地面を勢いよく滑って止まった。しかし、フィッツジェラルドは悲鳴すら上げなかった。
「ちゃんと隷属化が効いてるようですね」
俺に抱えられているネルソンが感想を漏らした。アランデルに続きフィッツジェラルドもネルソンの奴隷にしておいたのだ。そして余計な発言は禁止している。
「フィッツジェラルド殿が解放されたぞ! 4班はフィッツジェラルド殿の回収と救急処置をしろ!」
3機の魔導アーマーが集団から離脱し、フィッツジェラルドを回収に向かったのが見えた。
「よし、敵の戦力が減った! 南門を抜けて下さい!」
「了解!」
帝都の大きな南門を抜けた。俺達のすぐ後ろを魔導アーマー部隊が追いかけてくる。スネーキー子爵を含めてまだ10機も残っている。もう少し数を減らしておきたいところだな。
「ウィンド!」
南門に向けて先にウィンドを放つと通行人達が突風で吹き飛ばされた。これで南門周辺に通行人は居なくなる。
「ファイアボール!」
南門に向けてファイアボールが飛んでいく。魔力は空っぽとはいえ下級魔法くらいならば問題なく撃てる。
ドドォォォォン!!
ファイアボールが命中し、南門が崩れ落ちていく。
「マズい! 南門が崩れる!」
スネーキー子爵が叫ぶがもう遅い。スネーキー子爵含む6機の魔導アーマーは南門を抜けることが出来たが、残り4機の魔導アーマーは足止めされてしまったようだ。
「チクショウ! 僕ちゃんの魔導アーマー部隊が!!」
「作戦を次の段階に進めます! ロスキタスGO!」
「承知!」
ロスキタスが俺達から離れて別ルートの方向に進む。敵の戦力を分断する作戦だ。
「敵が別れたぞ! 2班は奴を追え!」
スネーキー子爵が指示を出すと最後尾を走っていた2機がロスキタスの逃げていった方向に向かっていった。本来は1つの班で3機のはずだが、先程の南門の崩落に1機巻き込まれたのかもしれない。これで残りは4名だ。
「ふう、南門が小さくなってきましたね。そろそろアランデルを解放しましょう」
「分かった。3、2、1、投下!」
カーラがアランデルを投下した。またしても盛大に砂煙を上げて滑っていく奴隷商人。ネルソンの命令によりやはり無言だ。
「おい! また人質が解放されたかもしれん! やむを得ん! 誰か1名、確認し必要であれば帝都へ護送しろ!」
「分かりました!」
スネーキー子爵の側近と思われる魔導アーマー兵がアランデルを回収しに向かった。これで残りは3機。俺は後ろを見てスネーキー子爵と2機の魔導アーマーが追いかけて来るのを確認した。
「最後の仕上げといきましょう。カーラさん、後は頼みました!」
「分かっている! 魔導列車で会おう!」
カーラは俺から離れていく。そしてそれを追うようにスネーキー子爵の部隊から1機の魔導アーマーが追いかけていった。これでスネーキー子爵の部隊は残り2機だ。
「さて、ネルソンさん準備はいいですか?」
「い、嫌です! どうか痛いのはご勘弁を!」
「残念ですが我慢してください。あとゴーレム販売は引き続きお願いしますね」
「最後の別れの言葉がそれですかああぁぁぁぁぁぁぁ」
最後にネルソンが投下された。ネルソンは盛大な砂埃を立てて転がっていった。多分相手は解放された人質が誰なのかを把握できていない。だから、解放されたのが誰なのか確認し、そして回収する為に人員を割かなければいけないのだろう。そうして俺を追いかけてくるのはスネーキー子爵のみとなった。
ふっふっふ、計画通り。あとはスネーキー子爵の魔導アーマーをぶんどってフィナーレだ。俺は逃げることをやめてスネーキー子爵と対峙した。




