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「不味い事になった!! コメット殿は居るか!?」
あの声はカーラだ。噂をすればなんとやら、カーラが裏口から帰ってきたようだ。しかし、あの慌てぶりからすると良くない状況みたいだ。
「こっちです! 何があったんですか!?」
カーラが俺達の居る地下室まで降りてきた。
「今こっちに向かって貴族が兵を引き連れてきているぞ! 私達が帰還途中に突然襲われてな。捕らえたデュソリエ奴隷商会の連中とゴーレムを囮にして時間稼ぎをしているが、直にここに来るはずだ!」
「貴族? もしかしてスネーキーと名乗っていませんでしたか?」
「ああ、たしかそんな名前を叫んでいたな。そのスネーキーとやらは何者なんだ?」
「アランデル奴隷商会の後ろ盾となっている貴族のようです。魔導アーマー研究所の所長もしているらしく、魔導アーマーも多数所有しているとか」
「そういえば、さきほど襲われた時も魔導アーマーが多く居たぞ! どうするのだ? もうすぐここまで来てしまうぞ!」
帝国に来た目的は観光……ではなく、魔導アーマーと一体化してしまったカーラを助ける事だった。その目的は既に達成している。
「潮時……かもしれません。それなら作戦は……」
俺やロスキタス、カーラは機動力が高いので魔導アーマーから逃げ切ることも可能だろう。しかし、マリアさんやルート君、ネルソンはただの一般人だ。逃げ切ることは難しいだろうね。じゃあ、策は限られてくる。
「作戦を考えました。マリアさんやルート君、奴隷の方々は一般人なので一刻も早くここから逃げてください。俺達で逃げる時間を稼ぎます」
「分かった! マリア殿とルート君にそう伝えれば良いのだな!?」
「はい、すぐ出発するように言ってください。それと先導するのは……」
ゴゴゴゴゴ……
「しまったーー!! ドリル君1号の操縦をミスってしもうたーー!!」
壁を突き破って現れたのはシャーリンだった。
「シャーリンちゃん……」
「すまん! 本当に事故だったんじゃ! 許しておくれーー!!」
「ナイスです! シャーリンちゃん!」
「へ……?」
シャーリンちゃんは怒られると思っていたところを褒められたのでリアクションに困ったようだ。
「今から一般人のマリアさんとルート君と奴隷達を帝都の外に逃がすので手伝ってくれませんか? ドリル君1号で地下を進んでいき、俺達が乗ってきた魔導列車まで先導してください!」
「わ、分かったのじゃ! 怒られないのならなんでもいいのじゃ!」
これで、逃げるのは問題なさそうだ。
「あのー、ところで私や従業員も先に逃げて宜しいですよね?」
ネルソンが何やら言い出した。
「ダメです」
「えええええ!? どうしてですか!? 私はどこからどう見ても一般人でしょう!?」
ネルソンは目玉が飛び出るほど驚いているが、俺は冗談や嫌がらせで留まれと言っている訳じゃない。
「これは作戦なんです。ネルソンさんや従業員達には人質になって貰います」
「……へ?」
「ストーリーとしてはこうです。ネルソンゴーレム商会は太陽神を崇拝する謎の組織に脅されて協力していたんです。そして奴隷商会との抗争に巻き込まれてしまったと言う訳です。俺達はネルソンさんとアランデル達を人質にして逃げ、帝都を出たら解放します」
「な、なるほど。それで、その後私はどうしたら……?」
「多分、貴族に保護され尋問を受けると思います。しかし、奴隷のアランデルと口裏を合わせておけば大丈夫でしょう」
「ううむ。……あっ、しかし、アランデルが私の奴隷だと気づかれたらどうしたらいいのですか!」
「その時は運が無かったと覚悟を決めて下さい」
「ひいい! 何の覚悟ですか!? 無理です勘弁してください!」
ネルソンは半泣きだ。ちょっと可哀相なので助け舟を出す。
「大丈夫ですよ。諦めろと言っている訳じゃないんです。ハッタリを言う覚悟を決めるという意味です。『私が死んだりゴーレム販売を害された場合、ゴーレムが暴走する呪いを太陽神にかけられている』と言えばいいんです」
「そ、そんな事が……本当に呪いとかかけてないですよね?」
「はい、大丈夫ですよ(最高の笑顔)」
「信じていいのですよね!?」
「はいはい、さっさと従業員とアランデルに伝えてきて下さい」
「本当に呪いをかけてないですよねええええぇぇぇぇ!?」
疑心暗鬼に陥ったネルソンは放っておいて居残り組に作戦を伝えた。




